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ロケットとミサイル[代表空見の宇宙×軍事な話]

 前回までは科学技術と戦争との関わりを話しましたが、今回はより宇宙開発に重点を置いていこうと思います。今回のテーマは「ロケット」です!


ロケットとミサイル

 「ロケット」と言えば、人工衛星を宇宙空間に運ぶために使われる、皆さんが宇宙開発と聞いて真っ先に想像するものの一つだと思います。また、宇宙開発ではなく軍事だと、ロケットに似たもので「ミサイル」を想像する人が多いと思います。では、この二つの違いは何でしょうか?

 ……実は、この二つの違いは「積んでいるもの」の違いしかありません。

 ロケットやミサイルに搭載するものを「ペイロード」と呼びますが、ロケットはペイロードが人工衛星や宇宙船、ミサイルは爆弾。実はほとんどこの違いしかありません。

 そのため、基本的に宇宙へ行けるロケットの開発能力があればミサイルを作ることができ、ミサイルの開発能力があれば宇宙へ行けるロケットを作ることができると言えるかもしれません(それぞれ違った技術も使うので、必ずしもできるとは言えませんが)。


液体燃料と固体燃料

 ロケットやミサイルを語る上で欠かせないのがロケットの種類で、現在宇宙ロケットやミサイルで主に用いられているのが「液体燃料ロケット」と「固体燃料ロケット」です。

 まずロケットやミサイルを語る上で欠かせないのがロケットの種類で、現在衛星打上げやミサイルで主に使用されているロケットは、「液体燃料ロケット」「固体燃料ロケット」です。この二つはロケットが飛ぶために必要な、燃料と酸化剤を合わせたもの(推進剤)が違います。

 液体燃料ロケットと固体燃料ロケットの構造についてはこちら↓でわかりやすく語られています。

ファン! ファン! JAXA!「ロケットの燃料は何でできているのですか?」

 「固体燃料ロケット」は基本的に一度燃焼が始まると止めることができないため、燃焼の調節が可能な液体燃料ロケットに比べて宇宙ロケットとして用いるには精密な衛星打ち上げが難しいというデメリットがあります。また、固体燃料ロケットは大型化するとモータケース(推進剤を入れているもの)の強度を上げるなどの措置をしなければならず、大型化が難しいです。しかし固体燃料ロケットは安価で比較的容易に開発が可能なため、衛星を載せない観測ロケットや、多段式ロケットのブースタとして多く用いられています。ちなみに初期の日本の衛星打ち上げは固体燃料ロケットのみで構成されたロケットで行われ、探査機「はやぶさ」も全段固体燃料ロケットのM-Ⅴロケットで打ち上げられました。

 軍事においては、液体燃料に比べて固体燃料はロケットに推進剤を充填したままでもある程度の保存が可能で、もしもの時のための即応性が高いため、様々な種類のミサイルに用いられています。所謂ロケットランチャーに使用されているのも主にこの固体燃料ロケットです。

 「液体燃料ロケット」はバルブなどで燃料と酸化剤を調節できるため、精密な衛星打ち上げが可能です。また、ロケット推進剤の性能(比推力)としては固体燃料ロケットよりも高くなる傾向があります。そのため人工衛星打上げロケットにはこの液体燃料ロケットが多く用いられています。しかし構造が非常に複雑で製造コストも固体燃料ロケットに比べて高くなる傾向にあります。

 軍事においては、液体燃料ロケットの推進剤は毒性が強くて保存性が悪く、即応性においても劣る場合が多いです。品質管理や保守整備という点では軍用としてはかなり不利です。その一方で、衛星打上げと同じで精密な打ち上げが可能であり、固体燃料ロケットと比べて大型化がしやすいという点では有利です。そのため、ロシアなどでは核ミサイルを積む大型の弾道ミサイルは液体燃料ロケットが用いられています。


ロケット開発とミサイル開発

  事実、ロケット開発とミサイル開発は、歴史を見ても切っても切れない関係にあることが分かります。

 1942年、当時ナチス政権下で第二次世界大戦真っ最中のドイツが開発した世界初のミサイル「V-2(Vergeltungswaffe 2:報復兵器2号)」がカーマン・ライン(国際航空連盟 (FAI)が決めた、ここから宇宙空間だ、というライン)である高度100kmを達成しました。このV-2は第二次世界大戦におけるドイツの敗戦後、世界初の本格的な弾道ミサイル(大気圏の内外を弾道を描いて飛ぶミサイル)であると同時に、宇宙空間に到達可能な本格的なロケットとしてアメリカやイギリス、フランスやソ連などに送られて実験に用いられ、様々なロケットの原型となりました。事実、アメリカが開発した初期のロケットのほとんどがV-2の設計を元としたロケットとなっています。宇宙ロケット開発史は、V-2から始まったと言っても過言ではありません。


日本のロケットが原型となったミサイル

 このように、ロケットとミサイルは切っても切り離せない関係にありますが、我が国日本は敗戦後軍事技術の研究を制限されていたこともあって、初期から科学観測を目的とする宇宙開発を行っていた珍しい国です。しかし、残念ながらと言っていいのか、日本のロケットが軍事転用された歴史もあります。

 実は1960年代、東大宇宙研(JAXAの前身の前身)が開発した観測ロケット「K-6Y」とその機材が、ユーゴスラビアに輸出された際、「R-25 ヴルカン」として軍事転用されました。更に多くの国家で軍事機密だった固体ロケットの「コンポジット推進剤」の製法・設備を吸収し、ユーゴスラビアは発展途上国におけるミサイル開発の一大拠点となりました。この拠点は諸外国への輸出用ロケット弾の製造のほか、後のユーゴスラビア紛争においても活用されました。当時独自の社会主義路線を貫こうとしたユーゴスラビアにとって、独自の兵器開発はとても重要なものだったのです。

 当然軍事転用をしないことを条件に輸出した日本にとっては手痛い経験となり、これも受けて日本では共産圏等への武器輸出を禁じる「武器輸出三原則」が制定されるきっかけの一つとなりました。

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「K-6Y」

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「R-25 ヴルカン」



 このように、今回はロケットとミサイルの深い繋がりがあることを知っていただけたと思います。


※当連載記事はあくまで軍事と天文宇宙の関わりを知るためのものであり、天文宇宙の軍事利用等を肯定・否定するものではありません。

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