もう一度、あの丘で

元ちゃん、覚えてる?
あなたがわたしを元気にしようと連れていってくれたあの場所。
綺麗だったね。
自分の住む街の夜景がこんなに素敵だったなんてわたしはその時まで知らなかったよ。
空にはこぼれそうな星が煌めいて
夜の街に流れていくようなそんな時間だったね。

時々ね、元ちゃんのことと、あの場所につれていってもらった時のことを思い出すのよ。

2人とも若かったね。
だって大学生よ。青春よ。
誰かを好きになったり、夢を追いかけてみたり、毎日があっという間で、
世界が自分達のためにまわっているようで、
随分と我儘に生きていたものよね。

あの時、元ちゃんはわたしのことが好きだったの?
それとも、あの星空を一緒に見たからわたしのことを好きになったの?
そんなこと今さら考えてもしょうがないわよね。

あの時、わたしは大澤くんが好きだったの。だから、わたしは元ちゃんを傷つけてしまった。
そんなつもりはなかったんだよ。
でも、結果、わたしは元ちゃんを傷つけたのよね。
だからあなたの友達の上田くんだったかしら?その彼に電話で
「最低の人間」って言われたのよ。
それでわたしも傷ついた。

大澤くんとは何もなく、わたしの片思い。
元ちゃんのことを傷つけて、わたしは元ちゃん友人のリストからはずされた。
そして「最低な人間」と傷つけられた。
散々でしょ。

あんなに楽しかった大学生活も嘘のように楽しくなくなった。
だから逃げるように留学したのよ。
本当は辞めてしまいたかった。
今思うと、辞める勇気はなかったのよね。

留学先ではまさに学業に打ち込んだわよ。おかげでそのまま、こちらで生活する算段もついて、今では第二のふるさとみたいな感じになったわ。

まぁ、言ってみれば、そこそこ幸せになれたの。最低な人間でもね。

元ちゃんは今、何をしてるの?
元気にしてるの?

あんなに大好きだった
大澤くんのことより
思い出すのよね。

実はわたし、日本を去る前にあの丘に行ったのよ。
もしかしたら会えるかなぁと思ってね。
しそたら、なんと、いたのよ。
でも、声はかけなかった。
あなたは一人ではなかったから。
モテたのね。

謝りたかったの。

きれいな夜景だったね。
あの時、空には
星も見えたんだよ。

なんだか不思議な夜だった。

きっともう、忘れてしまってるわよね。
わたしのことなんか。

それでもね、
会いたくてね。

今のわたしにはあなたを傷つける要素は微塵もないわよ。
随分、歳もとったわ。

あの時みたいにハグなんてしなくてもいいわよ。

少し、昔話がしたいだけ。
今のあなたの幸せを知りたいだけ。

もう、謝りはしないわ。
ただ
「ありがとう」を伝えたいのよ。

今度はきちんと
「さよなら」を伝えられるかしら。
まもなくくるタイムリミットの中で
わたしはゆっくりと息をはいた。






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