見出し画像

栗山英樹著「栗山ノート」書籍レビュー

 本書は、2019年10月に、当時、プロ野球北海道日本ハムファイターズ監督だった栗山英樹氏が、自身の野球人、人としての学びのために、古典や経営者の著書を読書し、心にのこる言葉を書き記していたノートを、書籍化したものである。
 栗山氏は、現役選手時代は、ヤクルトスワローズに、テスト生として入団。実働はわずか7年。野手にとって一流の目安となる打率3割を記録したこともなく、守備に秀でた選手に贈られるゴールデングラブ賞を1度だけ受賞したのが、選手としてのささやかな勲章であった。引退後は、スポーツキャスターを務め、監督はおろか、コーチとしても、指導者としての現場経験も無しの状態だった。
 しかし、北海道日本ハムファイターズのGM吉村氏が、そんな栗山氏に、監督就任の打診を行う。理由は、現場の外からの、栗山氏の野球の普及活動を通した、野球への並みならぬ愛情を感じていたこと。通常、プロ野球の監督は、選手としての実績、指導者としての実績を評価され、就任する。そのため、監督就任への打診は、栗山氏には青天の霹靂であった。栗山氏は、運命のめぐりあわせと感じ、監督を受諾することになる。そして、栗山氏は、自身の経験のなさを補うべく、リーダー論や組織論のビジネス書、古典を読み漁り、ノートに書き留め、自身の行動の指針としていく。このノートが、本書の元となっているものである。
 その後、時を経て、栗山氏は、2023年WBCの日本代表監督に就任し、世界一の座を勝ち取り、本書も再び脚光を浴びている。
 私も、侍ジャパンの活躍に、胸を熱くした一人である。栗山氏はなぜ、優れたマネージメント能力を発揮し、感動を呼ぶ采配を振るうことが出来たのかに興味を持ち、本書を手にした。本書には、栗山氏が、書き留めた60の言葉と、自身の、その言葉にまつわるエピソード、自身の解釈が記されている。その中で、私の心に残った言葉と、私がWBCでの侍ジャパンの活躍と重なる部分を紹介させて頂く。

■泰然と
 何事にも動じない心の強さを持ちたい、と願っています。しかし、実際にはなかなかそうもいきません。日常の様々な場面に、心がぐらつく原因が潜んでいます。(中略)
 自分は一生懸命やっているのに、なぜ相手は応えてくれないのか。そういった状況に立たされると、私たちは冷静を保つことがむずかしくなります。なせ・・・という疑問を抱くより前に、私は相手の立場になるようにしています。(中略)
 私が考える「泰然」とは、相手に我慢をさせないことです。意思表示の鍵を開けるために、力関係を形にしないように気を付けます。そのためには「覚悟」と「決意」が必要でしょう。どんな結果になってもすべて受け止めて、迷わず次の機会に挑んでいく覚悟を持つ。(中略)
 自分ではなく周りの人たちの利益を最優先にすることで、何事にも動じない心が宿っていくと思います。

栗山英樹著「栗山ノート」より

 栗山氏は、予選で、結果が出なかった村上選手を、信頼し続け、試合に使い続けた。結果、準決勝、決勝で勝負を決める一打を打つ。栗山氏の人心を掌握した采配の力の結果である。

■至誠にして動かざる者未だ之れあらざるなり
 吉田松陰が大切にしていた孟子の言葉です。孔子の受け継いだ中国戦国時代の儒学者が孟子です。
 誠を尽くせば、人は必ず心を動かされる。誠を尽くして動かしえないものは、この世には存在しない。そう思いたいものです。

栗山英樹著「栗山ノート」より

 しばらくWBCへの参加を控えていたメジャーリーガーたち、ダルビッシュ選手、大谷選手、吉田選手、ヌートバー選手を、アメリカに出向き、直接WBCへの参加を依頼した。結果、彼らは、侍ジャパンに参加することになる。栗山氏の人間力、行動力を背景とした、チーム編成におけるマネージメント力である。

■知者は惑わず、仁者は憂えず、勇者は懼れず
 
「論語」の言葉です。道理に通じた者、知恵のある者は、事を成すにあたって迷いがない。仁の徳がある者は何事にも心配することがない。真の勇気がある者は、恐れることがない、ということです。

栗山英樹著「栗山ノート」より

 決勝のスーパースター軍団アメリカ戦。試合前のロッカールームで、大谷選手が、「今日だけは、あこがれるのはやめて、勝ちに行きましょう」とチームメートを鼓舞した。結果、侍ジャパンの多くの若いピッチャーが、アメリカを恐れることなく、最高のパフォーマンスを発揮し、見事、世界一を勝ち取った。栗山氏の試合に臨む姿勢、考えが、チームに浸透した結果である。

■これを知る者はこれを好むに如かず。
 これを好むものはこれを楽しむものに如かず
「論語」の有名な言葉です。学ぶことにおいて、その知識を知っているということは、勉強を好きな人間には及ばない。勉強を好きな人間を楽しんでいる人間には及ばない。知ることよりも好きなことが、好きなことより楽しむことが上達につながる、ということでしょうか。

栗山英樹著「栗山ノート」より

 栗山監督の教え子である大谷選手を思い浮かべた。その超人的なパフォーマンスは、人々を感動させてやまない。そして、彼のもう一つの大きな魅力は、誰よりも野球を楽しんでいる姿である。栗山氏の思いでもあるが、これは、大谷選手の持って生まれた才能のように感じる。

■天の時は地の利に如かず。地の利は人の和に如かず。
組織が成功するための条件として、1番は人の和であり、2番目が地の利であり、3番目は天の時だ、孔子は言います。

栗山英樹著「栗山ノート」より

 栗山監督が誠意を持って参加を説得したダルビッシュが、先頭に立ってチームを一つにした。そしてスーパースター軍団のアメリカを、チームの団結力で見事やぶって世界一になった。栗山監督のチーム編成力、栗山イズムの浸透の結果である。

 本書を読み、私が得た学びは、たとえ経験が十分でなくても、本から学びを得、それを自身の血と肉となる努力を重ねることで、大きく自己成長出来ることである。
 本書では、ここでは書ききれなかった多くの栗山氏の学びに触れることが出来る。それは仕事にも人生にも必ず効く学びである。一読をお勧めする。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?