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おらが町のクラブに求めているもの

 国内2部リーグに属していて、特に強豪というわけでもなく、どちらかと言えば負けてしまうことの方が多いサッカーチームをなぜ応援しているのか。自分でも明確な答えは出せないのだけれど、ひとことで言うと共属意識でありコミュニティとのゆるやかなつながりがその根幹にあるように思えます。

 野球の新庄選手がいつかのインタビューで、プロ野球の意義というのは退屈な日常にひとつの刺激を与えることであるという趣旨のことを言っていました。若かりし頃の僕はこの言葉にとても驚いたのを覚えています。だってプロの、しかもトップクラスの選手が自分の競技を大衆娯楽であると言い切ったのですから。選手たちは真剣勝負を繰り返しているのにそれを娯楽だなんてひどいなぁと感じる反面、自分の人生を賭してやっと掴んだ栄光をエンターテイメントの一種であると言えちゃう姿勢こそ、本当のプロなのかもしれないと思い悩みました。

 とにかく、サッカーだって基本はエンターテイメントなのです。退屈な日常にちょっとだけ色を添えるひとつのイベントです。選手たちは与えられた才能をアルコールのように何度も何度も蒸留して、今にも火が付きそうなくらい透明に磨き上げたものを四角いピッチにばらまいて、ぼっと一息に燃やしています。僕たちはそれを眺めているわけです。当然ものすごくファンタスティックな光景ですから、それをただ見るためにお金を払って、人生の一部を費やして燃え盛る選手たちのぶつかり合いを応援しに行くのです。

 しかしながら、サッカーという娯楽を享受することが目的であれば、ヨーロッパのビッグクラブの方がより高い温度でより激しく燃え盛る状況を見ることができます。しかもピッチ以外でも観客席ではちょっと陽気なオッサンが持ち込んだ発煙筒から比喩表現ではない物理的な炎があがったりして、全体的にテンション高めです。エンターテイメントとしての質はこちらの方が洗練されているかもしれません。

 じゃあなんでわざわざおらが町のチームを応援するのかというと、やはり地域の名前を冠した旗の元に自分も属しているという曖昧でおおまかな帰属意識があるのだと思います。Jリーグは地域に密着する意図を全面に打ち出していて、全国津々浦々にクラブチームを設けており、地域の共属意識とかある種のノスタルジーをくすぐるのがとても上手い。ただその土地で生まれたとか、その土地で暮らしているというなんてことのない事実が、ピッチを照らす照明を輝かせ、チャントをより高く響かせるのです。特に目立った産業もなく、自慢できるような観光資源もないけれど、プロのサッカーチームがあって2部リーグだけど若者たちが地域を背負って必死で戦っているという事実だけで、応援しない理由はないのです。

 結局のところ、僕が地元のサッカークラブを応援しているのは、自分の住んでいる地域の象徴としてのチームを支えたいという気持ちによるものであり、自分が地域の一部であることを感じられるからだと思います。

 ちょっと話が飛躍しますけれど、サッカークラブという共同体は王国に似ているところがあるように思うのです。社長という王様がいて、周りを固める重臣としてのクラブスタッフがいます。選手たちは華やかな騎士です。そして僕は王国の臣民として租税を納めるべく今日もせこせこと働き、グッズを買いあさってスタグルを食べつくすのです。みんなが生活する場所にサッカークラブという王国があって、僕が死んでも王国は続き、僕の子供や孫がまたクラブを支えていく。そんな夢をみることができるのです。つまり僕がクラブに求めているものは、儚い永遠の夢なのです。

#J2

#栃木SC

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