小説「歌麿、雪月花に誓う」⑥
第6話、
歌麿は筆を止めては版下絵を睨み、時折、溜息をついている。隅田川を望む料亭の一室を舞台に、女郎をどう描こうか迷っている。というより、脳裏にへばりついた錦絵が筆の邪魔をしている。画室の片隅にある書架をちらりと見た。気になって仕方ない。
天明4(1884)年4月16日未明、吉原遊郭内の水道尻から出火、廓は全焼し、両国などで仮宅営業となった。廓から制作依頼があり、蔦重の指示で、歌麿は新吉原仮宅両国之図として描くことになった。
「どうにもうまく描けねえ。どうすりゃいい