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川を見に行く

台風のときに荒れ狂う川を見に行って、濁流に呑まれて亡くなった人のニュースを見ては、「な、なぜ行く……」と、かつてはただ心を痛めているしかできなかった。危ないのはわかっているはずなのに近づくというのは、自分だけはだいじょうぶとたかをくくってしまうのだろうか、それほどまでに田んぼを大事にされているのだろうかとか、想像してみたけれど、よくわからなかった。

ところがきのう、東京に台風が上陸しているまさにその時に、身内が川を見に行きたがるのを必死に止めたという知人の話を聞いて、今までとは少し違う感覚を抱いた。

そこにある、普段は理知的な人の思いがけない一面。非日常で極限の自然現象に、人間の野性が刺激されて抗えない。衝動的なものを感じた。例えば、崖っぷちを歩いていて、海のほうへ身体が引かれていくあの感覚。そこにどうしようもなく引き寄せられてしまうことがあるのではないか。理性では説明のつかない何か。異界に惹かれていく性。

人間は脆弱な存在。少しでも要件が整えば身体が動く。これは誰にでも起こりうるのではないか。あくまで仮説だが。

もちろん止めたのは大正解で、ほんとうに何事もなくてよかった。知人はそばにいてさぞかしびっくりしただろうし、怖かっただろうと思う。そういう疲れも台風のあとは出てくるだろう。ゆるりと過ごされていることを願う。

災害から身を守ることの中に、「お互いの行動を気にかけ合う」という学びをいただいた。