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『コロンブスと猿』2024-06-24

 昨日、薬局のマツモトキヨシで店内BGMとして、ある曲が流れているのに気づいた。
 2024年6月12日にミュージックビデオが公開された、Mrs.GREEN APPLEの新曲『コロンブス』である。周知のとおり、このミュージックビデオは公開から約17時間後に公開停止となっている。
 動画内でコロンブスとされる偉人達がバンドメンバーに扮し、そこで出会った猿たちと交流する場面が、白人による侵略や奴隷制を想起させ、有色人種を猿扱いしている――という風評がネットで広まったことによるものだった。
 直後にバンドは謝罪文を発表した。

 筆者は薬局で無事この曲を耳にし、決して詳しいわけでもないロックバンドのために、安堵とともに軽い驚きを覚えた。

 なぜなら、これが数年前――2020年頃――であれば「差別的な表現をした」といったんレッテルを貼られた者は、無条件降伏して少なくとも一旦、表舞台から去らねばならない憂き目に遭ったからだ。

 たとえば東京オリンピック・パラリンピック開閉会式演出の総合統括であった佐々木宏氏は、クローズドなラインで出した単なるアイデアを「侮辱的・差別的」であると断じられ、ただちに辞任した。
 同じく東京オリ・パラ開閉会式でショーディレクターを務めていた、元ラーメンズの小林賢太郎氏は、20年以上前のコントにあった「不謹慎ネタ」が報じられると、これも話が拡散された同日に辞任した。

 他にも絵本作家の「のぶみ」氏や元フリッパーズ・ギターの小山田圭吾氏などが、キャンセルカルチャーの毒牙にあっという間にかかっていった。
 この時代はBLMの全盛期とも一致する、まさにネットのキャンセルカルチャーの異常発生期であったのだ。
 その理由としては、コロナ禍による巣ごもり需要でネットに張り付いていた層が倍増していたこと、彼らがストレス発散の場を求めていたことである。ウイルスを避けてネットに閉じこもらざるを得なくなった彼らは「小人閑居して不善をなす」を地でいくネットトロールと化して、フェミニストやBLMの闘士として暴れ回ったのだ。
 また当時は、炎上の急先鋒メディアであったツイッター(現X)がイーロン・マスク氏による買収前であり、「キュレーションチーム」による左翼びいきが蔓延していたのも大きい。

 そうしたわずか数年前の狂気に比べて、今回のMrs.GREEN APPLEはあまりにもあっさりと許された。MVそのものはお蔵入りとなったのだが、曲そのものは直後の音楽番組等でのみ出演を自粛したり、あるいは別の曲を歌うことになった。

 人気3人組ロックバンド「Mrs.GREEN APPLE(ミセス・グリーン・アップル)」が初登場し、20日に放送されるNHKの音楽番組「SONGS」(木曜後10・00)で、ミュージックビデオ(MV)が人種差別を連想させるとして物議を醸した新曲「コロンブス」を披露しないことが19日、分かった。(略)今月14日のテレビ朝日「ミュージックステーション2時間SP」でも急きょ歌唱を中止。17日のTBS「CDTVライブ!ライブ!」は出演を取りやめた。

ミセス NHK「SONGS」でも新曲「コロンブス」歌わず MVに批判 「青と夏」など歌唱曲4曲を発表

 余波としてはこれぐらいで、筆者の想像よりだいぶ軽いものであった。バンドメンバー達自身に至ってはほぼ罰を受けなかったと言える。

 さて、本作をめぐってネットではおおむね「無知な若いバンドマンが何も考えずに人種差別表現をした」という見方と、「むしろ史実のコロンブスら白人たちの高慢さを皮肉った作品だ」という見方もある。
 別に無理して「バランスを取ろうと」しているわけではないのだが、私にはそのいずれも自説に都合のいいところをつまみ食いしているだけのように思える。

自説に都合のいい所だけ拾う人たち

 たとえば、先住民に嫁いだという人の下記ブログでは、MVの各種画像から様々な「問題点」を見つけ出している。例えば部屋に飾られているバッファローの角やら、音楽を教える学校やらを、歴史上の差別や侵略と結びつけ「これは偶然なんでしょうか!」と、さもそんなことはありえないと読者に思わせるために問いかける。

 逆に、人種差別表現であるという結論に不利な表現については全く触れずにである。
 こういうのは大抵の場合、「はい、偶然です」である。
 こうした恣意的なつまみ食いをすれば、様々な事物やキャラクターが登場する作品からはいくらでも都合のいい結論が導き出せてしまうものだ。 

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