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【できるかな(コント)】

 1996~2000年に活動したお笑いコンビ「ラーメンズ」によるコント劇。『ネタde笑辞典ライブ Vol.4』(1998)収録。
 実際にNHKで放映されていた同名の児童教育番組のパロディであり、2人の男性が自分たちの出演する番組の企画を相談しているという想定のコントである。
 演者の扮装によって元ネタと同じような番組が想定されていると思いきや、それにしては奇妙な情報が続出し、どうやら元ネタとは相当隔たったブラックな実態の番組らしいことが明らかになる……というおかしみを狙った作品である。

 本作には、次のようなくだりがある。

「(前略)スタンドを埋め尽くす観衆、これは人の形に切った紙とかでいいと思うんだけど、ここに「人」っていう字を書くんだ。つまり、文字で構成された野球場を作るってのはどうだろう?」

「いいんじゃない? やってみようか。ちょうどこういう、人の形に切った紙いっぱいあるから」

「うん…………ああ!あのユダヤ人大量惨殺ごっこやろうって言った時のな」

「そうそうそうそうそう!トダさん怒ってたなぁ~」

「放送できるかっ!ってなぁ」

 この部分が「問題化」されたのは2021年7月21日。
 本作では「ノッポさん」役を演じた方である小林賢太郎氏は当時、東京オリンピック2020開会式・閉会式のショーディレクターを勤めていたことに目を付けた『実話BUNKAタブー』編集部アカウントが拡散した。

 ちなみにこのツイートに添付された動画はコントの全文はおろか前後すらも切り捨てられた12秒間の切り取りでしかなく、「トダさん怒ってたなぁ~」「ほ……」というところで動画が途切れている。
 すなわち「ユダヤ人大量惨殺ごっこは、放送できない(ような不謹慎な)ものである」という本来の趣旨を隠蔽している。これはおそらく故意である。

 それを見たらしいツイッターユーザーが中山泰秀氏に通報した。
 そしてあろうことか、この中山氏は日本の防衛副大臣であるにもかかわらず、どういうわけか一人勝手にユダヤ反差別団体「サイモン・ヴィーゼンタール・センター」に通報してしまったのである。

 この大臣としては奇行としか言いようがない行為に対し、評論家の東浩紀氏をはじめネットでも強い批判の声が上がっている。

 ちなみに中山氏はクーパー氏を代表としているが、実際にはエイブラハム・クーパーは同団体の副代表である。
 それはまあいいとして、気になるのはそのクーパー氏の表明である。「ナチスの虐殺の犠牲者をあざける権利はありません」も何も、そもそも本作における「ユダヤ人大量惨殺」の位置づけは「してはいけないことの例」である。犠牲者をあざけっているわけでもなんでもない。
 ここまで文脈を理解していない(か、そのフリをしている)のを見ると、そもそも正しい翻訳すら伝わっているのかさえも怪しくなってくる。
 とはいえ、サイモン・ヴィーゼンタール・センターというのは、「差別表現」とみなした相手に対する独善的かつ攻撃的な態度で知られる、被差別部落問題における部落解放同盟に似た位置づけの団体である。

 東京オリンピック2020大会をめぐっては、どうでもいいような「不祥事」に対する降板が相次いだ。
「女性がいると会議が長くなる」旨の発言をした森喜朗氏、【オリンピッグ】の佐々木宏氏、学生時代にしいじめ行為などを雑誌で無反省に告白していたことが知られた小山田圭吾氏やのぶみ氏など、不祥事(とまでは到底言えないようなものも含めて)での降板が相次いでいた。
 これらに「懲りた」同大会委員会が早々に幕引きを図ったのか、小林氏は7月21日中にショーディレクターを解任され、謝罪文を発表した。

 しかし当のユダヤの一般市民は意外と冷静なようであった。
 おそらくイスラエルには、このコントの正しい翻訳など流布してはいない。「犠牲者をあざけった」なるニュースの形でしか拡散していないであろうにもかかわらず、20年以上前の冗談に対してあまりに過剰反応であるという市民の声が数多く聞かれるのである(もちろん批判も多くある)。
 これをイスラエルでの記事についた「コメント」のレビューという形で、須藤玲司氏が紹介している。

 ある属性の代表面をした「人権団体」「運動家」といった人々と、同じ属性の一般の人々の意識が乖離しているというよくある現象の存在をうかがわせる。一般女性が気にもしない萌えイラストにフェミニストが噛みついているのと同様の現象である。

 一方、日本での解任肯定派の中には「ユダヤ資本は権力が凄いからどうしようもない従うしかない」という訳知り顔のマウントも散見された。

 さも「俺は世間の裏を知ってるんだぜ」と言いたげであるが、現実に映画『パッション』のようなユダヤ人権力とやらが止められなかったユダヤ人差別表現は幾らもあること、そもそも表現どころではなく歴史的事実としてのホロコースト犠牲者を嘘つき呼ばわりしている否定論者たちが欧米でも割と元気に活動し続けていることなどを、こういう人はどう説明するのだろうか。
 やはり過敏な例は過敏な例なのである。
 こうした事例を「巨大なユダヤ資本の権力」に過剰に帰するのは、むしろユダヤ陰謀論に片足を突っ込んでいるのであって、それこそ「ユダヤ人差別」意識と言えるだろう。

参考リンク・資料:

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