荒木飛呂彦による少年ジャンプ系「能力バトル物」漫画の金字塔『ジョジョの奇妙な冒険(第3部)』の一部エピソードを「傑作選」的にアニメ化したOVA。1993年以降から発売。
第3部には現在「スターダストクルセイダース」という副題がついているが、当時その章題はまだなかったため、本作も単に『ジョジョの奇妙な冒険』というタイトルである。
なお、2012年以降に改めて第一部から順に制作されたテレビアニメ版とは異なる。
一般に知られる顛末
「不適切表現」があったとして出荷停止となり、現在は絶版となっている。
なにが不適切なのかというと、本作の「Adventure 6 -報復の霧-」の冒頭部分で、敵ボスである「DIO」が本を読みながら部下ホル・ホースに、主人公たちを倒すよう指示を出しているシーンがある。その本が『コーラン』であることがイスラム教的に問題があると喧伝した者がおり、それを共同通信社が採り上げたことがきっかけだったという。
原作においてもこのシーンでDIOは何らかの本を読んでいるが、何の本かは不明であり内容も読者には判読不可能になっている。またここ以外の部分にも『コーラン』が登場する箇所は無い。
一方でOVA版でははっきりした文字が記入されており、拡大すればコーランの「雷電章」と呼ばれる部分であることがアラブ語話者には判読できる。
なお『コーラン』を用いたのはDIOがイスラム圏であるエジプトにいることを表現する演出で、とにかくアラビア語の文章であればよかったというOVAスタッフの独断である。
これを受けて集英社及びアニメ制作を担当した有限会社A.P.P.P.は謝罪文を公表。
また外務省もこれを「遺憾」とする次のような報道官談話を発表した。
怪しげな真相
ところがこのシーン、実際にはイスラム圏で全くと言っていいほど問題になっていなかったという。そもそも海外販売はしていない作品である。
現在ではマスコミ報道を含め多くの記事がリンク切れになっているが、先述のスポーツ報知の記事にもただ1名の人物が300以上のサイトに批判を貼り回っていただけに過ぎないことが触れられている。さらに「報知」の記事にあったようなイスラム側の強い反発も実は存在しなかったらしいことが当時のネットの観測者達によって記述されている。
ネットでは「その貼って回ったネットユーザーと共同通信社の記者自身が同一人物なのでは?」という疑惑すらも持ち上がっていたという。
また報道に登場した「イスラム教スンニ派教学の最高権威機関アズハルの宗教見解委員長アトラシュ師」という人物も、本作をきちんと視聴した上でコメントしたのではなく、その投稿者が貼り回っていた静止画(当時は動画投稿は一般的ではなかった)と付いていたコメントを鵜呑みにして批判したに過ぎなかったようで、事実「イスラム教徒をテロリストとして描いている」と明らかに作品内容からずれたことを述べている。
実際DIOもホル・ホースも、このアニメ第6巻のメインの敵であるエンヤ婆も、全員イスラム教徒でもなんでもない。
DIOは100年前のイギリスで生まれた吸血鬼であり、作中でも当時から「環境でなったのではなく生まれつきの悪人」と断じられ、主人公たちに刺客を送り付けるのもこのコーランの場面以前に何度もやっている。そもそも神も仏もおよそ信仰するような性格ではない。
おそらく、本件の少し前に仏シャルリ・エブド紙等によるムハンマド風刺画問題が起こっていたため、アトラシュ師は「また外国人がイスラムを侮辱している!」と即断したのであろう。
結局、歪んだ正義感ないしは悪意から本作を問題にしようとした者のネガティブキャンペーンが、イエロージャーナリズムの扇動に乗ってしまい、作品の封殺を招いたというのが真相のようである。
参考リンク・資料:
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