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【アウディRS4広告写真】

 2020年8月2日、ドイツの自動車メーカー・アウディ(Audi)がツイッターで、RS4という車種の広告を発出した。画像がこれである。

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 赤い車の前に、童女がもたれかかってバナナを食べている写真である。
 ここに愚かしいクレームがつき炎上した。この広告が、なんと【性的な】ものだというのである。
 少女が車にもたれている理由は、ここで広告されているRS4という高性能車が、緊急ブレーキを含む多くの運転支援システムを売りにしていることを知れば明らかである。小さい子に対しても非常に安全性の高い車だ、というアピールである。

 さてこの車と少女にどんなクレームがついたかというと……

 曰く、バナナは男性器の象徴である。
 曰く、少女が着ているヒョウ柄のミニスカートは性的魅力を象徴している。
 曰く、スポーツカーは性的能力を象徴してる。
 曰く、赤はエロティシズムを象徴している。

 バナナや服の柄など男性器を象徴しているなど、フロイトの悪影響を受け過ぎた主張に過ぎない。そもそも少しでも棒状のものを精神分析学は【男根のメタファー】にしたがるのである。また童女のワンピースのスカートはちょうど膝が出るほどでしかなく、普通は「ミニスカート」と呼ぶほどのものではない。
 スポーツカーに至っては、そもそも象徴とかの前にスポーツカーそのものの広告である。スポーツカーの広告にスポーツカーを出さなくてどうするのだろうか?

 エロティシズムを連想させる色は国によって千差万別である。世界に発信される広告でいちいち「何色は性的だ」などと言っていたら何色も使えなくなってしまう。日本ではもちろんピンク、中国では黄色、スペインでは緑だという。
 Audiはドイツのメーカーであるが、ツイートは英語で宣伝文を書いている。エロティックなイメージの色は、英語圏では青である(わいせつな映画をblue film、下ネタをblue jokeと言う)。
 ドイツでは赤がそうだという資料は、筆者の調べた限りでは発見できなかった。ドイツ語の学習サイトによると、赤は「血、ワイン」のイメージである。性的なイメージが何色かについての言及はなく、さらに調べたところ辛うじて茶色がそうだということを示唆する論文が発見された。

 語源的には茶色は,茶の毛皮をした動物の表 すことに由来する。雅語や動物童話では Braun は熊(Braunbär; Meisterbär)の名前と同意に 使われている。民謡の言語では性的な意味を 持っており,Braune(褐色)は女性の陰部を示 す。後の時代の抒情詩の中に使われている茶色い下女(das blaune Mägdelein)は名誉に縁の ない社会的に身分の低い少女を表している。古 くは茶色は紫色とも同意であり,また,濃い黄 色・赤色・黒色(Braunbier)とも厳密に区別さ れていない。

ドイツ語における色彩語の意味とグリムメルヒェン(第2報)

 ちなみに赤をエロティックであるとしている文化は、インドとイタリアだという。インド人やイタリア人のために(彼らを傷つけたというわけですらないのに)、英語でツイートされたドイツ車の広告が炎上しなければならないのだろうか。
 
 本件はフロイト派のいい加減な「性の象徴」イメージを流用した、通俗心理学をクレームに悪用したケースの一典型と言えるであろう。
 馬鹿々々しいことにAudi社は謝罪文を出し、広告ツイート本体についてはしばらく残存していたが、現在では削除されている。

参考リンク・資料:

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