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 イギリスの作家A.A.ミルンによる児童文学、またその主人公である「熊のぬいぐるみ」のキャラクター。熊のキャラクターではなく作中ですでにぬいぐるみである。
 1961年からディズニーがアニメ映画化したことで世界的キャラクターとなった。

中国

 原語では"Winnie The Pooh"であり、中国語ではこのWinnieの方の音を当てて「維尼熊 ウェイニーション」や「小熊維尼シャオションウェイニー」と呼ばれている。
 くまのプーさんにまつわる表現規制で現在もっとも有名なものは、中国において同作品とキャラクターの名前、画像ともが禁止の対象になっていることであり、他国では中国の表現規制の厳しさの象徴として話題になっている。
 実際に現在中国では「くまのプーさん」という言葉をネット上で検閲しており、2017年以降はSNSでプーさんの画像投稿一切をブロックしている。

 その理由は、同国の国家主席習近平氏が「プーさんと似ている」とされているためだ。
 実際のところ「そんなに似てるか?」と思うかもしれない。

 発端は習氏が2013年、バラク・オバマ米大統領と一緒に歩いているシーンが、プーさんが友人のティガーと歩いている写真とともにネットに投稿されたことである。

習近平とプーさんが似ているとされた最初の画像

 この写真が受け、2014年には安倍晋三首相との握手シーン、2015年には車の上部から上半身を出している姿とプーさんの玩具が並べて投稿されて話題となった。

 これらの写真が面白いのは個人がキャラクターに酷似しているというより、世界的権力者と子ども向けアニメのキャラクターが同じ構図で映っており、しかもそれが偶然であることの面白さである。しかしネットで受けたことを経て、実際には「同席者よりもふくよか」(あと目が小さいのも「西洋人の考える東洋人らしさ」が出ているかもしれない)といった程度の類似性しかないプーさんと習近平氏が、急速に「似ている」とする認知が広まり、ネットミームとなっていったものである。
 習近平氏とプーさんに喩える画像や言葉のなかには、何の悪意もないものもあったが、氏および中国政府に批判的な文脈で言っているものも当然あったことは言うまでもない。ノーベル平和賞を受賞した中国の反政府活動家・劉暁波氏(2017年7月、肝臓がんで死去)も、奥さんとともにプーさんのマグカップを持つ画像を投稿したことは有名である。

『サウスパーク』

 アメリカのブラックユーモアアニメ『サウスパーク』では、主人公スタン少年の父ランディが、中国政府の意を受けてプーさんを殺害するという場面がある。

『サウスパーク』23シリーズ第2話より(2019年)

 この回は全面的に中国の検閲を皮肉る内容であり、これをきっかけに『サウスパーク』は中国国内での放映を全面禁止されている。

『プーと大人になった僕』

 さらに後日談となる2018年の映画『プーと大人になった僕』(原題:Christopher Robin)は中国公開を当局は認めなかった。

羽生結弦選手と北京冬季オリンピック

 2022年2月、北京冬季オリンピックに際し、フィギュアスケート会場である首都体育館にはぬいぐるみの持ち込みが禁じられた。
 これは日本のフィギュアスケートの羽生結弦選手のファン間で、演技後に彼の好きなプーさんのぬいぐるみを投げ込むという行為が慣習のようになっていたためと見られている。同会の開会式等ではぬいぐるみの持ち込みは禁止されていなかった。
 ただし、実際にもぬいぐるみのような毛などが飛び散ってしまいやすいものをスケートリンクに投げ込むこと自体、プレイ環境を悪化させる行為であり批判の声もある。

『Winnie-the-Pooh:Blood and Honey』

 くまのプーさんを題材にした、英国のホラー映画。リース・フレイクウォーターフィールド監督。題意は「くまのプーさん:血と蜂蜜」。仲良しの少年に捨てられたと感じたプーさんが凶暴化し人を襲うストーリー。
 2023年3月23日に香港公開を控え、30以上の館で上映される予定だったが、21日に配給会社が上映中止を発表。フレイクウォーターフィールド監督は「一夜にして全館が同じ中止決定を下した。偶然の一致ではないだろう」とし、技術的な理由だとする映画館側の言い分に対する不信を明言した。
 香港では2021年、新規に検閲法が施行され「国家の安全を脅かす可能性のある活動」について宣伝・支援。美化等する映画が禁じられている。

日本

 日本人の多くは「中国ではなんてバカなことをしているんだ」「さすが全体主義国家・独裁国家はトンデモない」と思うかもしれない。
 しかし、本当に日本人は中国を笑えるだろうか。
『マンガはなぜ規制されるのか 「有害」をめぐる半世紀の攻防』の著者・長岡義幸氏は2000年5月、当時あった「青少年有害環境対策基本法案」の意図を尋ねるため、「青少年を取り巻く有害な環境対策の推進に関する小委員会」責任者・大島慶久に面会している。

 以下はそのときの大島の説明の抜粋である。

「われわれがイメージするのは本や雑誌のポルノまがいのものです。自販機ならば青少年の目につくところからは外してもらいたい。いくら言っても聞かなければ公表しようということです。しかし、ポルノ的なものだけではありません。たとえば『くまのプーさん』はよい本と言われていますが、大きなまさかりで殺すシーンが出てくる。このような場面があると子どもたちは動物や人を殺すことがどうでもよくなってしまう。おおいに自主的な気持ちを働かせて、残虐シーンはなくして穏やかにしてほしい

マンガはなぜ規制されるのか - 「有害」をめぐる半世紀の攻防

 どうも日本人の全てが、プーさんへの中国の過剰反応を笑えるわけではなさそうである。

参考リンク・資料:

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