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 あるポスターが炎上した。
 フェミニストによってではない。
 どちらかといえばそれまで「アンチフェミ」と(フェミニスト側には)呼ばれていたような人達があるポスターを集中的に批判しているのだ。
 それが、このポスターだ。

ポズター全図

1.

 ツイートしているのは4月1日、日本の新官庁として発足したばかりの「こども家庭庁」公式アカウントだ。児童に関する行政のうち、厚生労働省や内閣府が担っていた事務を担い、児童を守る行政の多くを一元化することを目的に設立された官庁である。

 これは内閣府男女共同参画局によって作成されたものだが、ポスターの一番下に、こども家庭庁その他の官庁も名を連ねている。具体的には「内閣府/警察庁/消費者庁/こども家庭庁/総務省/法務省/文部科学省/厚生労働省」である。

 このポスターに批判が集まった。
 多くの人がしていた批判は、女性が後から「怖くて何も言えなかっただけで本当は合意していなかった」といえば幾らでも男性を性犯罪者にできるという危険性に対する無頓着である。いや、無頓着というか、女性の肩を持つのが前提となっている。
 実際のトラブルでは当然、いずれの主張が正しいのか、本当にNOという気持ちだったのかが問題となるが「私がNOだった、怖くてそう言えなかっただけだ」と言い張れば性暴力加害者認定だと、男性に行っているに等しい。
 実際、同庁の設立に尽力した代表的人物である山田太郎議員が政府から事情を聴いたところ、「性暴力は性犯罪に限るものではなく、同意のない性的な行為はすべて性暴力で、性的な行為の定義はない」ことが分かった。

 これはこのポスターを問題視した人たちには「女が後付けでやりたい放題」と見えた。実際にそうなるだろうからである。
 だがそれだけではない。
 このポスターは制作した大元の男女共同参画局も当然ツイートしていた。しかし、そちらではなく「こども家庭庁が」発足早々にツイートしたことが不信を招いたのである。

 男女共同参画局などというものは実質ただのフェミ局である。名称からすれば「男女共同」ではないかという理屈はあるが、フェミ自体がひっきりなしに「フェミニズムが目指しているのは男女平等です!」とうそぶきながらそれに反する行為ばかりしているので、その類とみなされ、単なるフェミ局と認知されてもはや久しい。
 しかしこども家庭庁は違う。
 山田太郎氏は「表現の自由を守る」ことを大テーマとして掲げ、オタク層の期待を強く受けてきた(そして実際にその期待に応えてきた)政治家である。
 こども家庭庁は、当初は「こども庁」という名前になる予定であった。山田氏は最後まで「こども庁」という名称にこだわってきたが、政治なせめぎあいの中で「家庭」という言葉が名前に挿入された。彼とその支持者たちはこのことには失意を隠さなかったものの、子どもを守り助けることをメインとする庁の発足はやはり大きな前進だった。
 なぜ「家庭」が入ることが失意なのか?
 これは「家庭」が必ずしも、子どもたちにとって安住の場ではなく、しばしば最大の敵であるからだ。特に行政の助けを必要とするような環境にある子にとってほどそうなのだ。
 そういう子供たちに対して、どこまで行っても「家庭」との最後の砦的な存在である役所さえ「こどもと家庭」に中立であるとすれば、敵と(自称)中立者しかいない世界になるのだ。
 虐待された子にとって、自分を担当する行政庁がなおも「こども」と「家庭」の両立を掲げ続けるとすれば、それはいじめ被害者にとっての「いじめっことの感動的和解を演出しようとする教師」と同じようなものに映る。

 つまり「こども庁」設立に動いていた人々の理想は、子どもを守ることを最優先にし、その優先性を脅かすことを拒む行政庁の確立であった。それが子ども家庭庁にされてしまったことで、子どもををファーストにする庁でいられるかが懸念されていたわけだ。
 その懸念にこのポスターは火をつけた。
 こども家庭庁がこのポスターを推すとすれば、想定されているのは未成年のカップルであると当然考えられる。当然、男の子も女の子も未成年であれば同じ子どもである。
 こども家庭庁は、彼らのうち男児を冤罪の危険にさらすことに、男女共同参画局なみに無神経である「男性差別」的な姿勢を、赤裸々にツイートしたのである――少なからぬ人がそのように受け取った。

 結局このポスターは、メッセージの内容とは無関係な事情でこの世を去った。イラストレーターのたなかみさき氏の「画風」を「パクっていた」というのである。

 画風に対してパクリというものが成立するかはともかくとして、内閣府は少なくとも表向き、ポスター取り下げの理由をそのように主張している。
 しかし内閣府は「ポスター回収の理由はイラストの件だけで、『同意のない性的な行為は性暴力』というメッセージ自体に問題はありません」とハフポスト日本版の取材に答えた。

 さて、本当にそうなのだろうか。

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