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エララと白いコテージ

町の中心地からバスで5時間ほど東へ進むと、なだらかな丘陵と緑豊かな森林に囲まれた、オリーヴァという小さな村がありました。冬には雪が降り注ぎ、秋には赤い葉で覆われます。この村では、町からの電力供給も不十分なため、朝日とともに村の人たちは目覚め、日の入り前には仕事を終え、暗くなる頃には床につくという生活をしていました。

この村には遠い昔からある「決まり」がありました。それは、村民は朝起きて身支度をしたら、必ず家の前の道を掃除するというものでした。そのためか、家の前の道はいつも砂利や砂埃もありませんでした。また、道にゴミが落ちていることもなく、壁には落書きもありません。村は毎日が静かで平穏で、人々は皆仲が良く顔見知りであり、楽しい話し声と鳥の鳴き声が響き渡りました。

村の中心に趣のあるコテージが一つありました。そのコテージの白塗りの壁はいつも朝日の金色の輝きに照らされていました。その居心地の良いコテージには、エララという女の子が住んでいました。エララは、毎朝お母さんに、お気に入りの白いリボンで髪をポニーテールに縛ってもらい、いつも白いニット地のセーターに、淡い緑のスカートを着ていました。彼女は村の決まりである家の前の道の掃除が大好きで、何世代にもわたって受け継がれてきた古代の儀式に深い敬意を抱いていました。
いつも明るく好奇心の強い彼女がもつその尊敬の念は、賢明な老婦人である祖母によって植え付けられましたものでした。まだ若い彼女の手は、年齢の割にしわが刻まれていて、そのしわを嫌うどころか、彼女はそれを気に入っている様子でした。

村民が決まりで行う毎朝のこの掃除は、簡単なものでした。家の前の道のゴミや砂利を箒とちりとりを使って取り、水を撒くといった感じでした。しかし、エララはそれではまだ足りないということで、いつも外構に手を突っ込んで、ドロや落ち葉を取ったり、コテージの壁についた汚れをブラシで擦ったりしていました。毎日するものなので、家の前の道だけでなく、エララの家だけは汚れがなく白く、まるで新築のようでした。彼女にとって毎日の掃除は、村の決まりだからという感じではなく、何か他に目的があるようでした。

ある日のことです。エララがいつも通り学校に行くと、友人のロビンが学校に全自動式の小型のロボットを持ってきました。

「この前の日曜日、俺の親父がこのロボットを買ってきてくれたんだ。何がすごいって言うことを全部聞いてくれるんだ。」

ロビンが持ってきたミニロボットにエララはとても興味津々でした。

「へえ!そんなロボット見たことないわ。どこで買ったの?」

「シーサイドヘブンの電気屋で見つけて買ってもらったんだ。」

「シーサイドヘブン?あんなところまで行ってきたの?遠かったでしょう?大丈夫だった?」

「大丈夫も何も、この村とは比べものにならないくらい大都会さ。店には何でも揃ってる。近い将来、俺はあそこに住みたいと思ってるんだ。」

「へえ!なんかすごいわね!あたしは一度もそこに行ったことがないから羨ましいなあ。そのロボットには名前があるの?」

「いや、ないよ。ロボットはロボットさ。おいロボ!床に落ちた消しゴムを拾ってくれ!」

ロボットはロビンの言うことを忠実に聞き、床に落ちた消しゴムを拾いました。クララは驚きの表情で目がクリクリしていました。

次の日曜日、エララは親に何度も頼み込み、シーサイドヘブンに行く約束をこぎつけました。シーサイドヘブンに行くには、オリーヴァの村からバスを3回も乗り継いで行く必要があります。エララのお母さんは彼女の勢いに根負けしたのでした。

早朝から彼女らは、シーサイドヘブンへと向かいました。シーサイドヘブンでは、超高層ビルがいくつも立ち並びます。巨人のように立ち並ぶそのビルは圧巻で、エララは驚きと恐怖の両方を抱きました。ビルの壁には大きなテレビがかけられていて、新発売のエナジードリンクの広告が美しい女性とともに現れました。

その大都会は自分が住む村とは大違いでした。その町の人々は常に時間との戦いです。人々は常にどこに行くかを明確に持っているようで、前を向いて忙しなく歩いていました。車もドライブを楽しんでいるというよりも、ただどこかへ向かうためだけに走っているようで、ひっきりなしにエララの横を通過しました。エララはふと視点を前に戻しました。ビルの中で黄色い制服を着た男性が、全自動掃除ロボットと一緒に、床をクルクルまわる機械で磨いている姿が彼女の目に止まりました。その瞬間、エララは今まで見たシーサイドヘブンの様々な発達に驚きを抱きながらも、今までの自分の生活とのギャップに疑問を持ち始めました。

「お母さん、あたしやっぱり今日は家に帰るわ。ここまで連れてきてくれてありがとう。でも、今日は何か違う気がするの。ゆっくり何かを見たい気になれないわ。」

村に戻った夜、エララは、自分が何かの不安感に悩まされていることに気づきました。無菌であらゆるものが自動化されたシーサイドヘブンの世界には何か根本的なものが欠けているという感覚です。コテージの静かな孤独の中で、彼女は自分が教えられた教訓、つまり世界に対する彼女の理解を形作ってきた過去何世代にもわたる知恵について深く考えました。

そして、暗闇を照らす稲妻のように、古代から続くKIREIの伝統は、単なる過ぎ去った時代の遺物ではなく、あらゆる時代において深い意味を持つもの、時代を超越した原則であるという考えが彼女を襲いました。
というのは、エララは掃除という行為の中に、純粋さの響き、つまり地球と、彼女の祖先と、そして人間であることの本質そのものとのつながりを見たからでした。エララはシーサイドヘブンの中で襲われた恐怖から、一度捨てそうになった伝統を取り戻し始めました。

シンプルさと伝統の価値に対する新たな認識をもとに、彼女は時代を超えたKIREIのメッセージに耳を傾ける必要があると感じました。デジタルがどれほど進歩しても、過去のプリミティブな行為が常に人類には必要であるという一つの考えが彼女の中で芽生えました。

次の朝、エララはその目を、信念と目的の光で輝かせました。なぜなら、彼女は時代を超越したKIREIの伝統を受け入れることで、強さと回復力の源、つまり、絶えず変化する世界における希望の光を発見したことを知っていたからです。

未来は不確実なものですが、一つだけエララにとって明らかなことが見つかりました。プリミティブな活動の原点には、時代によって風化することのない意味と目的が明確にあり、その純粋な活動の土台の上に人は発展していくという結論を彼女は見つけたのでした。

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