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教え方のコツは教えすぎないこと



教えることが好きである。
大学生のアルバイトは、塾講師、家庭教師、テニスコーチ。
社会人では後輩の指導担当。
今では企業研修講師もしている。

30年近く教えることに携わってきた。
あらゆることを教えていた。
教えることがうまいと思っていた。
今考えると、おごりがあった。

そんな私のおごりを打ち砕き、考え方が激変したのが大学時代のテニス指導の経験だ。

大学時代にテニスコーチができるくらいの技術を得た。
ただ元々運動神経がよい方ではない。
運動神経のなさは知識でカバーした。
毎月3,4冊のテニス月刊誌がでる。
毎回「サーブのコツ」「ボレーを極める」などテニス技術の特集が組まれる。
それを私はすべて読むことにした。
毎月3,4冊×4年間で特集100冊分のテニス知識が頭に入った。

100冊分のテニス知識が入っている。
すべてのプレーの理想的なフォームイメージが頭の中にあった。
相手のスイングを1回見ただけでフォームの改良点がわかった。

多くの人にアドバイスをした。
特に初心者には喜ばれた。
私はうれしかった。
さらに教えまくった。

しかし、ある想いが芽生えてきた。
私が教えたことでみんなのスキルは上がったのだろうか。
私のアドバイスは役に立っているのだろうか。
単に間違いを指摘しているだけではないだろうか。
教えることの手応えを掴めずにいた。

手応えが掴めずにいたとき、教え方のヒントを得た。
私にとっては革命的な出来事だった。
以後、私の教え方のスタンスは大きく変わることになる。

テニススクールではプロコーチの指導を見る機会に恵まれていた。
プロコーチの中でもスクールで一番人気のSコーチがいた。
Sコーチのクラスはうまくなりたい人だけが来ていた。

あるときSコーチと私のアドバイスの違いに気づいた。
「ひょっとして……少ない?」
そうSコーチのアドバイスは少ないのだ。
少ないどころか基本1個だ。
厳密に言うとプレーごとに1個だ。
例えば、サーブで「アウトするように打ってみて」といったら、これしか言わない。
アドバイスは1種類。ただし、そのアドバイスを何度もいう。
サーブの練習が終わってボレーになると、またただ一つのアドバイスをいう。
「フォアボレーは右足から」これだけを繰り返す。

対して私はどうだったろう。
思いつく限りのアドバイスをいっていた。
自分が発見できた改良点をすべていっていた。
アドバイスは多ければ多いほどよいと思っていた。

しかし、それは、間違いだった。
相手のスイングを1回見ただけでフォームの改良点がわかった。
アドバイスがうまくいったら、すぐ次を教えてしまった。
私は「毎回違う改良点」を教えてしまった。

テニスで次のボールを打つまでに意識できることはせいぜい一つだ。
瞬間に意識すべきことを2つも3つも与えてしまった。
これでは、混乱してしまう。
一度うまくいったアドバイスも効果がなくなってしまう。

私は「教えすぎ」だったのだ。
スポーツにおいてアドバイスの数は少なければ少ないほどいい。
できれば1つだ。
いくつも教えても、実践できないからだ。
「正しい」アドバイスでも、同時にいくつも教えれば害になりえる。
調子を崩してしまう人もいる。

一つのアドバイスなら実践できる。
教えたことは実践できなければ意味がない。
自分の改良点を認識し、実践する。
何度も実践を繰り返すことで身につく。
再現できるようになる。
無意識でもできるようになる。

無意識でもできるようになってから、やっと次のアドバイスだ。
前のアドバイスを消化できないうちに、次の段階にいってはいけない。
テニス指導で私は教え方のコツを得た。

「教えすぎてはいけない」
「スキル身につけるには少数のアドバイスをできるまで繰り返す」
この教え方のコツはスキル全般にいえる。

例えば、私はロジカルシンキングを教えている。
多くの受講者が「ロジックツリー」とか「ピラミッドストラクチャー」という有名なフレームワーク自体は知っているという。
しかし、「使ったことがあるか?」と質問するとせいぜい1,2回程度だ。
これでは、身につくわけがない。

ロジカルシンキングでは「目的」「構造化」「要は、たとえば」の3つしか教えないことにした。
3つだけを何度も何度も繰り返し実践する。
実践した結果個別にフィードバックする。
フィードバックが反映されている感覚がある。
スキルに昇華しつつある。

教え方のコツは量から質に転換することかもしれない。

※元記事

https://hitoshi-ebihara.com/how-to-training-skills/


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