1月の長雨
奄美大島にしては寒い日が続いていた。島の雨は昔からあまり好きではない。
青空が出て、カラッと晴れていたかと思えば黒い雨雲が急に頭の上に流れてきて、バケツをひっくり返したような雨が降ってきたりする。
子供の頃、通学途中この降ったり止んだりの予想ができないこの天気にどれだけ振り回されただろう。
自然相手にモヤモヤしても仕方ないとは思いながらも、大人になってもやっぱりこの振り回されるような感覚は苦手だ。
父の用事に付き合った帰り道、車の運転をしながら、そんな事を考えていた。
助手席に座り外を眺めていた父が、
「ひばりは雨があがるのを知ってるんだよ。雨が上がる前に、ピョンピョン跳ねるように飛んでるんだよ。ちゃんとわかってるんだよね」
と嬉しそうに話す。
憂鬱だった私の心も、ひばりの跳ねるように飛ぶ姿を想像したら、少し楽しくなってくる。
私は、自然をまっすぐに見ることが出来る父の子供のような所が大好きだ。
最近の父は「昔の事が夢に出てきて、目が覚めて眠れなくなる。」と言う。
幼い頃に旧満州で終戦を迎えた父は、悲惨な体験をしている。
感受性が高く、優しい所がある父は自分の母親や兄弟が死んでいく姿、一緒に遊んでいた友人が飢えて衰弱して行く姿を克明に記憶している。
私達兄弟は、幼い頃から何度も何度も父の体験を聞かされて育った。戦争から80年近く経った今でも、戦争の体験は更に父を苦しめている。
沖縄で戦争を体験した住民には、父と同じように睡眠障害を抱える高齢者が多いと聞く。
年老いて以前より昔話が多くなった父は、ニュースなどをきっかけに自分の苦しい体験を語ることが更に多くなった。
それは、楽しい食事中のことも多く、正直、話を聞いて家族は重い気持ちにもなる。
でも、父はもっとずっと辛い思いなのだろう。父の心から苦しみを取り除いてあげられたらどんなにいいだろうと心から思う。
悲惨な体験をし、その後も貧しい生活だった中でも、父の中には「自然を真っ直ぐに見つめる綺麗な心」が残っている。
子供のような父の目が、「今」だけを見つめて、自然と共に生きていけたらどんなにいいだろう。
もうじき成田空港に着陸する。
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