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テレビ

PM23:00
残業で疲れた体を引きづりながらやっとの思いで帰宅する。玄関の扉を開けると、暗闇が待っていた。部屋に入り電気をつける。チカチカ不規則に光りながら蛍光灯は無機質についた。なんとも言えない静けさが心の隙間に染み込まないようにリモコンに手を伸ばす。
電波を受信したテレビでは、白いスーツを着た女性が暗い口調で原稿を読み上げている。隣に座る男性は、深刻そうな面持ちで静かに彼女の横で時折相槌を挟みながら口を一文字にしてカメラを見つめている
画面が切り替わり、頬の垂れ下がった白髪まじりの太々しい顔の男が記者に囲まれている映像が映し出される。記者の質問に対し、原稿通りの言葉を壊れたCDのように何度も何度も繰り返して発言する映像がなんとも滑稽だった。彼は台詞を一方的に吐き続けて、それが終わると何を焦るのか足早に去っていった。こんな楽な仕事もあるんだと呆れながら自分は何のために働いているのだろうと虚しさがこみ上げてきた。
そんな気持ちとは裏腹に画面にはスタジオが映し出され、白いスーツの女性に切り替わる。彼女は、まるで人が変わったような春の訪れを喜ぶ晴れやかな口調でこう言った。
「次のニュースにいきましょう」

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