夏の日の男二人

7月半ば、LINEのチャットに友達からコメントが来た。家に寄ってもいいかといった内容だった。彼はテスト期間で、気分転換に来たいんだろう。僕も丁度家にいるし、とは言っても、学校をサボって行っていないだけなのだが。恐らく、彼はそれを知っている。僕のことを心配してくれているのかもしれない。唯、僕の所が来やすいだけなのかもしれない。何であろうと、別段彼がこちらに来ることは嫌なことではなかった。

何時でも来ていいとチャットを送ると、程なくしてわかったと返ってきた。彼はよく簡単な言葉で返事を書いてくる。このドライな感じは結構好きだ。

彼が自分と同じくコーヒーが好きだということは知っていたから、コーヒーを淹れることにした。僕はホットで飲むのが好きで、彼はアイスを好む。僕は冷蔵庫の中に氷が残っているか確認した。大丈夫、まだ十分に残っている。

最近ヤカンが壊れてしまったので、鍋でお湯を沸かす。沸騰し始めたら、コーヒーポットに少量のお湯を入れて、ぐるぐる降って温める。冷凍しておいたコーヒーの粉を取り出して、ポットの中のお湯を捨ててからドサリと入れた。少々入れすぎたかとは思ったが、気にせずにポットの中の粉に、鍋の中の熱湯をぶっかけた。後は彼が来るまで放置しておけばいい。

適当にパソコンで時間を潰していると、程なくして彼がついたとチャットを送ってきた。

僕は玄関を開けて彼を迎えてやる。彼は予想通り汗だくで、いや、夏であるということを考えるとほぼ当たり前ではあるが。僕は彼に使えとタオルを投げてやった。

彼が汗を拭っている間に、彼のためにマグカップに沢山の氷とコーヒーを淹れた。

僕は馬鹿みたいに濃く淹れたからミルクいるか?と彼に聞いた。彼はお願いと答えた。ついでに砂糖もましましで、とも。僕は彼の要望通りにミルクとスティックシュガー一本分を入れて混ぜてから彼に渡した。

君は薄いコーヒー好きだったろ、今日みたいに濃いのは口にあわないかもしれないが、どうだ、と聞くと、彼はこともなげに、これはこれで楽しめるから大丈夫と答えてくれた。

僕は答えに満足しつつ、自分もなみなみとカップにコーヒーを注いで、一口飲んだ。強烈なブラック。苦さで舌の上が少しばかしピリつくようなそんな感じ。僕はそっとミルクを入れた。一口また口に含む。ちょうどよい塩梅で、コーヒーの香りが口の中に広がった。

彼は目ざとく僕がしたことを見つけて、君はびブラックじゃなかったかな?と言ってきた。僕は少しハニカミながら、最近はめっきり飲まなくなったから、気取って濃いブラックを飲んだら予想以上に濃くてびっくりしちゃってね、と答えた。彼は幽かに笑う事で答えた。

その後、二人、つかの間の沈黙。コーヒーを啜る音だけが響いていた。

話の口火を切ったのは彼の方からだった。ここに来る途中に、めちゃくちゃエロい人がいたと言ってきた。僕はその語り始めに刺して驚くことなく、と言うより彼と話す時はだいたいその手の話であったからむしろ当たり前だった。

僕は彼のそのめちゃくちゃエロい人に大変興味があったので、より深く聞くことにした。そこから、彼と僕との聞くに堪えないような猥談の始り。これが彼と僕との普通だった。

彼ほど心開いて猥談をする友人はいるだろうか。それに何より、彼とは好みが共通する所が多くて、しかし全く同じでもないから話がはずんで楽しい。

彼とはそれから一時間ほど話しを続けただろうか。僕らは外へ散歩に出ることにした。

外は暑い。とても。日差しが嫌になる程強かった。日にあたる自分の肌がジリジリと焼かれていく感覚が実に不愉快だった。

僕は似合わない帽子をかぶって彼と一緒に街路を歩いた。

家の近くを流れる川沿いを歩くのが、僕等がよく使う散歩道だった。いい風が吹く道。僕等は何時も、そこを歩く。

広い河原には小学生の野球団が爽やかに汗を流していた。その熱気と力強さに若干の羨ましさを感じながら、僕等は進んでいく。

僕等はまた、猥談の続きを話し始めた。飽きもせずに、同じような話を繰り返しながら。

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