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犬と戯れた日

 犬を飼っている友人宅を訪ねた。引っ越したばかりの友人の部屋は一人暮らしには十分な広さなはずなのに、荷解きされない段ボールが所狭しと並んでいる。

 ペット不可のアパートでこっそり飼っていた犬が管理会社にばれて、犬を手放すか、引っ越しをするかを迫られて今回の引っ越しに至ったらしかった。犬の名前はジョンと言った。

 Googleマップを頼りに近くのパーキングに駐車して、友人宅に向かった。インターホンへ右手を差し出す前に部屋の中から警戒と不安が混ざったジョンの鳴き声が聞こえる。部屋にはいると友人に抱かれたジャックが今にも私に飛びかかる勢いで吠えてきた。私の実家では猫を飼っていたとはいえ、犬を実物で見るのは初めてだった。苦手な飲み会でもしばらくは帰りたいという感情を仕舞い込める。だけどその日は左足の靴を脱ぐ頃には帰りたい気持ちは抑えきれなくなっていた。30年近く生きてきてこんなに初対面からパンチを喰らったことはない。少なくとも私にはそんな耐性はついていなかった。

 とは言いつつも、久しぶりに会う友人と10秒でさようならは酷すぎる。一歩、二歩進み、左手一本ならくれてやると意気込んで戦場へと向かった。顔がひきつっている私を見兼ねて友人は犬苦手?と気遣ってくれた。私はYouTubeで見たことあるから大丈夫。と謎の根拠を盾に平静を装った。

 戦場に向かって15分、そこは天国に変わっていた。私を味方と認めたジャックはさっきまで吠えてたのを帳消しにするかのように尻尾を振って、私に媚を売ってくる。当の私はこれは何か裏があるかもしれないと警戒心を解けないでいた。それでもジャック頭を撫でろと言わんばかりに私の太ももに顎を乗せてくる。終いにはジャックは私の太ももで昼寝をし始めた。

 最初に先制攻撃を喰らったかと思えば、今は私の太ももで寝ている。目を覚ますと尻尾を振って私への好意をこれでもかというくらい見せつけてくる。人間にすらここまで好意を寄せられたことはない私の目はハートになっていた。

 帰り道、ジャックが私に見せた好意がもしも人間だったらと考えていた。あそこまでガツガツ来られた経験はないけども、多分引いてしまうだろう。むしろ、実家で飼っている猫みたいに餌が食べられる時だけ擦り寄ってきて、それ以外は気に留めないくらいの方がちょうどいいのかもしれない。そんなことを考えながら、帰路に着いた。

 

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