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【前編】ついてない男 京に行く

朝5時起床。天気は小雨。
せっかく重い腰をあげて旅行しようと思ったらこれだ。空はまだ暗く、脳はまだ眠っている。

その後、私は傘を持って家を出た。最近折り畳み傘が壊れてしまったのでしょうがなく普通の傘を持って行く。

駅に着くと電光掲示板に遅延の文字。普段仕事に行く時は時間通りに来るくせに、こう言う日に限って電車は遅延する。

結果としてそこまで遅れずに新横浜駅に着き、新幹線に乗り換える。新幹線に乗ったらなんだか騒がしい。どうやら隣の車両に修学旅行生たちがいるらしい。騒がしくて寝ようにも寝れないではないか。

私はため息をつきながら家から持ってきたおにぎりを鞄から取り出す。カバンの中で押しつぶされてぺちゃんこになったおにぎりを食べる。駅弁はただの高いだけの弁当だから買わない。旅行する時はいつも持参だ。

ご飯を食べ終え喫煙室に向かう。
喫煙室にはすでに先客がいた。先客がいるとゆっくりタバコが吸えないのでその老人が出てくるまで待つ。それにしても遅い。私はSNSを見ながら時間を潰す。その時LINEの通知が来る。どうやら仕事場の同僚からだ。

「せっかく京都に行くんだったら北野天満宮にお参りしてこいよ」
「なんで?」
「俺たち塾講師だぜ。学問の神様に挨拶してこいよ。生徒たちも受験近づいてんだしさ。」
「今日は休みだから仕事のこと忘れたいよ」
「まぁ、そうだな」

くそ、休みの日ぐらい仕事のこと思い出させるなよ。

老人が出たあと私はゆっくりタバコを吸った。

そして、席に戻って気がついたら一時間ばかり眠っていた。映画を観ようと思ってダウンロードしてきたがみる時間がなくなってしまった。京都に着いたあとホテルに向かう。部屋に入れるか聞いたらまだ準備ができていないと言う。私はしょうがなく荷物だけ預けてホテルを出た。


そして龍安寺に向かう。なんだか人が多い。龍安寺に着くとどうやら改修工事のため、庭に入れないらしい。私は近くの寺を探した。そうすると北野天満宮が近くにあることがわかった。あいつの言う通りになるのは癪だが他に行く場所もないので北野天満宮に向かう。

北野天満宮に着くとすぐに境内に向かった。その途中に牛の銅像があるのが見えた。牛の一部分を触るとその触った箇所の悪いものがよくなるらしい。この悪い頭が治ればと自虐しながら頭を撫でる。牛の頭は雨で濡れていた。ぬるぬるして嫌な気持ちになった。

お参りを済ませて、お守りを見てみる。鉛筆が6本で1000円。高すぎる。ただの鉛筆にこんなお金払うやつはどうせ勉強もできない。神社もいい商売してるよな。

北野天満宮を出ると近くに蕎麦屋があるのが見えた。お昼ご飯には少し早いが、少し小腹が空いてきたので、その蕎麦屋で鴨そばを食べることにした。そしたら椅子がぐらついているのに気がついた。どうも落ち着かない。まぁ、鴨そばは美味しかったが細かい気遣いが足りないな。

とりあえず鴨そばを食べ終え、目的もなく歩く。その途中で抹茶屋が見えた。デザートに抹茶アイスでも食べようかな。

吸い込まれるように抹茶屋に向かう。奥の席に座って待っていると、着物を着た同い年くらいの女性が注文をとりにきた。とても綺麗な人だ。注文をしてしばらくすると、彼女がアイスを持ってきてくれた。抹茶のソフトにさらに抹茶の粉がかかったものだ。甘味と程よい苦味が合っていてとてもおいしかった。会計に向かうと、彼女が私を見てニヤッと笑った。

「口にお抹茶がついてますよ」

恥ずかしい、恥ずかしい、恥ずかしい。焦って口元を手で拭う。

「よかったらお使いください」

ウェットティッシュをくれたが恥ずかしくてそれどころじゃなかった。しかもあの女、最初からウェットティッシュ持ってるなら笑わずに渡してくれればいいのに。

店を出ると雨は止んでいた。すぐ止むなら傘を置いてくればよかった。傘の重さを2倍に感じ、私は少し憂鬱な気分で歩き出した。

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