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【前編】ついてる男 京に行く


朝5時起床。天気は小雨。
京都行く日に小雨とは、神様もなかなか粋。わかってらっしゃる。

私はお気に入りの傘と一緒に家を出た。最近新調した紫色の傘。少し値段は張ったがそれだけ良いものである。そう考えたら安い買い物だ。

駅に着くと電光掲示板に遅延の文字。一本前の電車が遅れているらしい。しかし、そのおかげで予定より3分早く電車に乗ることができた。

新横浜駅で新幹線に乗り換える。どうも騒がしいと思ったらどうやら隣の車両に修学旅行生たちがいるらしい。私も中学生の頃、新幹線に乗って修学旅行に行った。あいつら元気かな。

そんなことを考えながら駅で買った駅弁を開く。最初は牛タン弁当でも食べようかと思っていたが、結局新幹線のホームで崎陽軒の焼売弁当を買った。駅弁の販売所は混んでいるが、ホームの販売所は比較的空いていたから、コーヒーを買いに行く時間も確保できた。

無事にご飯を食べ終わり、喫煙室に向かう。
喫煙室にはすでに先客がいた。その老人に頭を下げながら室内へ。タバコを吸っていると、その老人が話しかけてきた。

「お兄ちゃん、若いねぇ。出張か何かかい?」
「いえ、一人旅で京都に行くんです。」
「おぉ、それはタイミングが良いねぇ。昨日から浄福寺ってお寺でね、100年ぶりに仏像が公開されてんだよ。見てくると良い。」
「あっ、そうなんですね。知らなかった。ありがとうございます。行ってきます。」

これは良いこと聞いた。私はその老人にお礼を言ってから喫煙所を出た。

そして、席に戻って一時間ばかり眠っていたらあっという間に京都に着いた。今回私は時間がなかったので、ホテルをちゃんと選べなかったが、駅の近くにしておいたのが良かった。すぐに荷物を預け身軽になる。

そして初めに北野天満宮に向かう。私は塾で講師をしているので、生徒たちのために学問の神様に挨拶をしにいくのだ。中学生の頃の修学旅行でも訪れ、お参りをした。そのおかげか志望校には危なげなく合格できた。その感謝も伝えておくか。

北野天満宮に着くとすぐに境内に向かう。その途中に牛の銅像があるのが見えた。牛の一部分を触るとその触った箇所の悪いものがよくなるらしい。私は腰が良くないのでしっかりめに腰をさすっておいた。

お参りを済ませて、生徒の人数分鉛筆を買う。6本入りで千円か。お守りのようなものだからそのくらいはするだろう。まぁ、これで生徒たちの努力も報われやすくなるし、こういうのは気持ちだから。

お参りを済ませて、北野天満宮を出ると近くに蕎麦屋があるのが見えた。お昼ご飯には少し早いが、少し小腹が空いてきたので、その蕎麦屋で鴨そばを食べることにした。待っている間、浄福寺の場所を調べる。そうすると北野天満宮から15分くらいの場所にあることがわかった。

鴨そばを食べ浄福寺に歩いて向かう。その途中で抹茶屋が見える。デザートに抹茶アイスでも食べようかな。

吸い込まれるように抹茶屋に向かう。奥の席に座って待っていると、着物を着た同い年くらいの女性が注文をとりにきた。着物がよく似合う奥ゆかしいとても綺麗な人だ。注文をしてしばらくすると、彼女がアイスを持ってきてくれた。抹茶のソフトにさらに抹茶の粉がかかったものだ。甘味と程よい苦味が合っていてとてもおいしかった。会計に向かうと、彼女が私を見てクスっと笑った。

「口にお抹茶がついてますよ」

一人旅だから少しだけすかしていたのが恥ずかしくなった。焦って口元を拭う。

「よかったらお使いください」
「どうもすみません。ありがとうございます。」

ウェットティッシュをくれた。恥ずかしかったが、綺麗な笑顔を見れただけ儲けもんか。

店を出ると雨はやんでおり、私は先程の彼女の笑顔を思い出しながら良い気分で歩き出した。

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