やめておけば、よかった02

02 裏路地青年

私がホテルをチェックアウトした時には、もう町は暗くなっていて。シンと静まり返った中を歩くことに少し興奮を覚えた。

煙草を咥えて、火をつけて。ふぁっと煙を吐きながら歩いていった。全然綺麗じゃない、小汚い町…若い頃は嫌いだったけど、今の私には相応しい。

誰もいないと決めて歩いていた私は、コートのポケットに深く手を突っ込んで、いつもより格好をつけたような気取った足取りで歩いていた。だから…まさかこんな恥ずかしい状態を誰かに見られてたなんて思いもしなかった。

「…………ん?」

視線を感じた私は、閉店横の階段に目をやった。目が合った瞬間、思わず息を飲み込んでしまった。

強い眼力…白い肌。少し傷んだような黒髪にヨレヨレの黒シャツを纏った青年。この町には不似合いな幼さの残る印象を受けた。

「……何?私に何か用?」

たまたま見ていました…って言うのは通じない程の視線で、けどだからと言って、何か行動するわけでもなくて。無視しても良かったのかもしれないけど、多分、私の方が彼に興味を抱いてしまった。

少しの沈黙…。多分、そんなに時間は経っていなかったはずなんだけど、声を掛けた手前、気まずい感情が混み上がって隠せない。いっその事、何事もなかったかのように立ち去ってしまいたい。

「…………お姉さん」

溢れたような、呟くような小さな声に、反応するべきか迷った。よく考えたら、こんな真夜中、人気のない寂れた商店街で、隠れるように座り込んだ青年に話しかけるなんて、危険極まりない。私はまた、後悔してもしきれないことをしでかした。

「な、何?壺なら買わないよ?未公開株とかも興味無いから!」

黒髪の青年は少し首を傾げて、不思議そうな顔をした。……そうね、ゴメンナサイ、テンパリ過ぎて意味不明なことを発してしまいました。

「あの、初対面の方にこん……なことを頼むのは失礼とは承知なんですが」「え、はい!ん?」

「……千円貸してくれませんか?」

……彼は白い肌を紅潮させ、恥ずかしそうに顔を伏せた。これは新たな詐欺が何かだろうか?

「すいません、俺…っ、昨日から何も食ってなくて、その、返せるアテはないんだけど、えっと、その……」

挙動不審な動作、これが演技なら質が悪い。千円位なら募金したと思って恵んで上げてもいい。あぁ、それが狙いなのか。人の良心につけ込んだ悪い子だな。

「いいよ、上げる。はい」

これも何かの縁だろう。私は財布から千円を取り出して渡した。強請っておきながら、実際に出された現金に、青年は戸惑いを見せてきた。

「え、そんな…いいん…ですか?」「いいよ、ほら。私、帰るところだから早く受け取って?」

彼は恐る恐るお金に手を伸ばし、深々と頭を下げた。まさかこれが、私にとって最悪の始まりになろうとは…思ってもいなかった。

………To be continued

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