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素晴らしき試合:2021 J2 第8節 アルビレックス新潟×ツエーゲン金沢

試合終了後のインタビューで双方監督の言葉がこの試合の素晴らしさを全て語っていた。観ている者もピッチの当事者も全てが納得したナイスゲーム。

まずはアルベルト監督の試合後インタビューから。

明確な違いのあるプレースタイルのぶつかり合いだった。我々はより攻撃的なプレースタイルを求めてプレーしているが、対戦相手(金沢)の戦い方もリスペクトしている。興味深いのは今日は我々がカウンターアタックを決めて勝利したというところである。サッカーというのはとても深いスポーツで、今日は戦術的にも深い試合だったのではないだろうか。(中略)多くの人はゴールがたくさん入る試合を期待していると思うが、1-0の戦術的に深い試合は、私としては充実した満足のいく試合だった。

続いて柳下監督のインタビューから。

やれることはやった。力のある新潟の選手たちにつけ込む隙がなかったので結果はしょうがない。私が伝えたことを選手たちはやり切ってくれた。奪うことはなかなか出来なかったが、チャンスは少なかったが攻撃に関しては狙いを持ってプレイできた。

「1-0の戦術的に深い試合」というのは非常に大事なキーワードだと思うし、サッカーの面白さを語るには非常に良い試合だったので感情のままに書いてみる。

お互いのやりたい事は真逆だが、真逆だからこそ噛み合う

この試合の醍醐味はこれに尽きる。

攻めたい新潟、守りたい金沢。押し切りたい新潟、カウンターを刺したい金沢。試合終盤まで全てが噛み合い、綻びを見せなかった緊張感。新潟に対してリスペクトにリスペクトを重ねた金沢と、金沢に同じだけのリスペクトを重ねた新潟。

結末は全ての新潟サポーターが望むものとなったが、金沢サポーターにも何らかの充実感があったのではないだろうか。

サッカーの常として、同じスタイルのチームが対戦すると流動的な要素はあるものの基本的にはより高く大きな戦力を持っているチームが勝つというものがある。いわゆる質の差と呼ばれるもので、質が個人なのかチームなのかは色々違ったりするけれども大体結果は予想できたりもする。

サッカーで語られる近年の言葉に「質的優位」「数的優位」「位置的優位」と呼ばれるものがあるが、同じ戦術を使うということは数的優位や位置的優位の取り方が基本同じか似たようなものになるので試合としては残った質的優位で優っている方が勝つということになるわけだ。

まぁ実際のサッカーはそこまで簡単にできていないし、そういうところがサッカーの面白いところではあるんだけど。

さて、8節を終えて無敗の新潟のスタイルはボールを保持して離さないポゼッションと呼ばれるものである。金沢の前に新潟と対戦した7チームは、それぞれのスタイルでこのポゼッションを攻略しようとしたものの、ことごとく玉砕という結果を突きつけられている。かろうじて相模原がドローに持ち込んだだけである。

ということで、ちょっと振り返ってみよう。

ハイプレスで前線からボールを奪おうとしたがサラリと躱された北九州。屈強な選手を並べて試合終盤にパワープレイで挑んだ長崎。3人プレスでもダメなら4人でどうだ!と前線4枚プレスを仕掛けてきた山口。4人はやりすぎだけど3人対3人の状況を作り出して前線でボールを奪おうとしたら4人のビルドアップに切り替えられてしまった群馬。同じスタイルで殴り合おうとしたら一方的に殴られたヴェルディ。いつも通りですが何か?と5バックで引いた相模原。今シーズンから取り入れたポゼッションとかは一旦忘れて昨シーズンまでの超肉弾ハードプレスで追い込もうとした山形。

みんな自分たちのスタイルで全力で新潟に挑戦してみるものの、洗練された新潟のビルドアップの前に相模原以外全部撃沈である。5-3-2でガッチリ引いた相模原が唯一負けなかったチーム。で、今回の金沢である。

金沢の特徴はなんと言っても4-4-2からのハードプレス。ハイプレスを仕掛けて高い位置でボールを奪って一気にゴールに突き刺すということを信条としている柳下スタイルで、新潟監督時代もこのスタイルでビッグスワンを熱くさせてくれた。

ちなみに、サッカーの戦術というのは構築に結構な時間が掛かる。ピッチ上にいる選手11人に監督の頭の中を理解させて技術を実行させるというのは言うほど簡単なものじゃないし、監督の思い浮かべる理想をテレビゲームのように実現することはなかなかの困難を伴うが、柳下監督は金沢就任5年目で完全に金沢のスタイルを作り上げていたりする。

だからこそ、試合前の誰もがこの試合の見どころを「金沢のプレスを掻い潜る新潟のビルドアップ」という部分に設定していたと思う。そして、その絵は幾度となく新潟が破壊してきた6チームのスタイルでもある。新潟サポーター視点では「今日も華麗に勝つな!」という感情が無かったといえば嘘になる。

そして試合開始。我々は予想を裏切られる事になると予想することはできなかった。

キックオフ直後に金沢がボールを前方に大きく蹴り出して新潟ゴールキーパー阿部がキャッチすると、誰もが予想していた金沢のプレスが飛んでこない。その代わりとして、ピッチには白色のユニフォームが整列している4-4-2のブロックが構築されていた。

自分達のスタイルでありストロングであるプレスを最優先事項とせず4-4-2ブロックを敷き、パスコースを限定させながらボールをサイドに追い込んで刈り取る。

「慣れないことをやるとすぐに綻びが出るだろう」などと、試合序盤そんなことも考えてもいた。「相模原のやり方を踏襲するのが最適解と考えたんだろうけど、自分達のスタイルを捨てて勝てるほど甘くないよ」なんてことも考えていたが、金沢は自分達のスタイルを何一つ捨てていなかったということを見せつけられることになる。

中央は絶対に通させない金沢のブロック

この試合の金沢のブロックには「中央を割らせない」という一つの特徴があった。まずは新潟の良くやるビルドアップの形を見てみよう。今回の素材は最初のパートのプレス二人バージョン。三人バージョンは参考までに。

こんな感じで新潟はキーパーから守備2枚の間を通してボランチにボールをつけたりするのだが、金沢は絶対にボランチにはボールを渡さない!という態度で前線2人を強く絞って高へボールを渡さないことを徹底する。

これをやられた新潟がどうしたかと言えば、サイドにボールを流してサイド起点から攻めますわ!となるのだが、サイド起点すら作らせない強い気持ちで2列目3列目の圧が強く牽制する。ちょっとでも緩いボールを出したら全部刈り取られるくらいの圧を画面を通じても感じた。新潟はしょうがないからピッチの外側でぐるぐるボール回すしかないみたいな。

ちなみに余談だが、サイド起点の基本はこんな感じになる(サンプルが5バックだけど)。

真ん中もサイドも通せなくて困ったな?となった新潟がどうしたかといえば、いつもは高が真ん中で受ける位置に島田を置き、高は島田の左隣に位置を取ることで金沢の4-4-2から浮くことが可能になり、浮いた高から中央の島田経由前線行きというビルドアップで対応した新潟という流れになる。絵を描く余裕がないので割愛するけど、時間で言ったら前半16:40からの一連のプレイがそれ。

なんというか、これがダメならアレで行こう。アレもダメならソレやろうぜ!ということをピッチの中の選手だけで状況判断して即ミスなく実行できるのが新潟の強いところだったりするんだけど、たぶんこれ本当に監督が細かい指示を出しているとかじゃなくて選手全員が共通認識を持って臨機応変に対応しているんだと思う。いや、これ本当に凄いことなんですよ新潟。

こういうことをサラッとやる新潟は凄いんだけど、その流れに全て受けて対処し切った金沢もかなり凄い。

あの手この手を繰り出されたら混乱して守備崩壊となるのが普通(山口とか群馬)なんだけど、全てに対処して受け切った受け名人ぶりを見せてくれたのが金沢なのである。

金沢のこの受け方はピッチの中で判断したというよりは、新潟が繰り出してくるであろうあの手この手を全て想定して、これで来たらアレをやるぞ!という意思統一と時間を掛けた濃厚なトレーニングがあったんだと思う。

それが、それこそが柳下監督の言う「私が伝えたことを選手たちはやり切ってくれた。」という発言なのではないだろうか。

本当にどれだけの攻め方を想定して、どれだけの受け方を練習したのだろうかということに思いを馳せると、アルベルト監督の言う「1-0の戦術的に深い試合は、私としては充実した満足のいく試合だった。」という発言にも納得感が増すばかりだ。

また、金沢は守備だけではなく、自分達のストロングであるショートカウンターを仕掛けて一気に刺し切るという攻撃も併せて徹底することで、74%-26%というポゼッションの数字を微塵も感じさせない素晴らしいサッカーを披露してくれた。前半終了間際のオフサイドには本当に痺れた。

スタッツの数字からは決して読み解くことのできない「戦術的に深い試合」が、この新潟と金沢の試合だったのである。

本当に素晴らしい試合を観れて幸せな2時間でした!




「これでわかった!サッカーのしくみ」をコンセプトにアルビレックス新潟の試合雑感を中心に書いています。