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鉄人(新井直人):2020 J2 第32節 アルビレックス新潟×ギラヴァンツ北九州

勝てば上位で順位をひとつ上げることができる新潟は怪我やカード累積でベストメンバーが組めない中でも俺たちの新潟スタイルを貫き通して強敵北九州に勝利。自分たちのスタイルを信じ抜くことは大事だな!

さて、この試合では今までどこかに神隠しにあっていた新井直人が完全復帰してスタメンフル出場となった訳だが、本当に今までどこに行っていたの?という鉄人ぶりで勝利に大きく貢献というか新井がいなかったら失点を重ねて敗戦となっていた可能性も十分。

ということで新井直人の鉄人ぶりを試合を通して確認してみるが、まずは新井の基本情報をもう一度おさらい。

新井直人、大卒プロ2年目のディフェンダーである。

ちなみに2019シーズンの冊子媒体の選手名鑑に新井直人の名前は載っていない。つまりは選手名鑑が発売された後に練習生からプロに昇格して開幕スタメンで出場し、その後圧倒的な存在感を発揮して新潟に欠かせない選手に成長した男なのである。進化スピードが速すぎてBボタン連打しても進化を止めることができなかった。

新井直人、身長は173cmと決して大きくないがセンターバックに配置されればエアバトルの際の場所どりやジャンプのタイミングなどで大型選手にも違和感なく競り勝ち、サイドバックに配置されれば確かな技術と判断でスムーズなビルドアップを遂行する。

新井直人、体幹が強く危機察知能力も高いのでルーズボールの競り合いでフィジカル負けすることは滅多になくスタミナもあるので試合終盤まで走力が落ちることがない。加えてよく飛ぶロングスローで決定機も演出する。

要はサッカーサイボーグとか鉄人とか、いわゆるその類な新井直人。

どうしてこんな凄い選手がノーマークでJ2のクラブにギリギリまで入団できなかったのか全くもって不明なのだが、これは移籍市場の目から隠すことが非常に困難な類稀なるフットボーラーではないかと思っている。

新潟といえば本間至恩というイメージが強い世間だが、世間から新井直人の名前が聞こえてこないのは新潟サポーターにとって良いことだと思う。世間はもっと小西雄大の名前を覚えてほしい。

ちなみに新井直人のデビューまでの物語をプロのライターの土屋雅史氏が読み応え十分に書いていたりするので是非読んでほしい。新井直人のエピソード・ゼロが確認できる。

前置きが長くなったが新井直人が試合でどのように活躍するのか確認してみよう。この試合でのスタートポジションはカード累積で出場停止となったマイケルの代替として左のセンターバックに入る。普段は右のサイドバックで起用されることが多い。

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この試合での新井の基本的なタスクは基本的にマイケルと変わりない。攻撃時はもう一人のセンターバックであるマウロと共に大きく開いてビルドアップの出発点となり、守備時にはフィジカルで最終ラインを割らせない。173cm/73kgと決して大きくないサイズにも関わらず185cm/82kgのマイケルと同じタスクを難なくこなす。公式データの記載間違えてるんじゃないかと思う。

ボールを持った時の判断も的確で、ボールをキーパーに戻すのかボランチに付けるのか、ロングキックで相手の最終ラインを押し下げるのか自分で持ち上がるのかの判断を適切に行う。前半2:35のロングフィードと見せかけてキーパーに戻した所作は秀逸だったし反応したディサロに友情の証。

長短自在の攻撃的な高速パス

前半15:35には新井のストロングのひとつであるロンググラウンダーパスが最終ラインから炸裂して一気にシュートまで繋がる決定機を創出する。こういうプレイを難なくサラッとやってしまうので新井の凄さはスルーされがちなのだが、これは誰にでもできるプレイではなかったりする。

前半24:55の外に蹴ると見せかけて内側にボールを通すパスや、後半53:25の2人の二人を躱すキックフェイントとチップキックや前半40:35の低くて速い弾道のサイドチェンジなども秀逸。右利きだが左足でも長短両方のキックを遜色なく蹴れるというのも見逃せない。

マイケルのパスはビルドアップの出発点とか安全に運ぶためという印象があるが、新井のパスには攻撃のギアを上げるパスという印象が強い。ビルドアップにおけるパスだが「一気に仕留めろ!」というメッセージを感じる攻撃的なパスが新井のパスの特徴となる。

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絵に描いた一連のプレイは結果としてコーナーキックをゲットする訳だが、センターバックから上がって助走を付けながらファーで合わせに行くもわずかに合わず。タイミングが合えばゲットゴールのセットプレイを披露。

ドリブル突破を許さないボール奪取

前半17:50には相手右サイドからドリブルを仕掛けられるも至恩が体を当てて減速させたところを新井が体をねじ込んでペナルティエリア内でクリーンにボールを奪取する。前半21:35にも新井はペナルティエリア内に進入されるもボールタッチがあった瞬間にボールとドリブラーの間に素早く体を入れて難なくタッチライン外にボールを蹴り出す。

この体をねじ込む所作が非常にうまい新井なのだが、これは体が大きくなくてもボールを奪うことができるお手本となっているので体が小さくてネガティブになっている全国のサッカー少年少女はお手本にしてほしい。

小さな体の大きなエアバトル

前半22:00にはアーリークロスを放り込まれて北九州のターゲットは身長186cmの鈴木だったが落下地点をボール1個分で把握して体格差をものともせず弾き返す。後半52:50にもクロスを鈴木目掛けて放り込まれるが、この時には空中で鈴木に体を当てて体勢を不安定にさせてから競り合いに挑むということをやっていたりする。

ちなみに鈴木186cmはほとんどのシーンでボールに触ることすらできていないという新井173cmのエアバトル完全勝利。これだけの体格差でエアバトルに勝利するというのはボールの落下地点を予測する空間把握能力に長けていないとできない芸当なのだが、新井はこの能力もずば抜けていたりする。

最終ラインを突破させないラインコントロール

新井がセンターバックをやると新井の裏を取られるということはほとんどないが、それは必要最小限の範囲と回数で首を振って状況把握を行っている結果になる。

この日の北九州裏抜け要員はJ2屈指の爆撃アタッカーディサロだったが、特に試合終盤にディサロが何度もライン裏突破を試みるが新井のブロックの前に沈黙することとなる。ディサロが様々なオフザボールの動きで新井のマークを外したり背後を取ろうとするが、新井は的確な状況把握でディサロの行動を無力化する。

最も素晴らしい守備として後半87:35からのシーンをピックアップする。

北九州がロングボールをディサロの裏目掛けて放り込みマッチアップした新井もボールを追うことになるのだが、スピードでディサロに勝てないと判断した新井はボールを追うことをキャンセルしてディサロの背後(ゴール方向)に進路を変更する。結果としてボールはディサロに渡るがクロスを上げる足を体で塞ぐことによりクロスのコースを限定させる。

この結果ディサロのクロスはマイナスに入りきらずに新潟がボールをフリーで回収してターンエンドとなる(実際にはセカンドボールを拾われてピンチが続く訳だが)。

逆に後半92:10のロングボールにはスプリントで勝てると判断してボールと相手の体の間に自身をねじ込んでターンをキッチリ終了させる。地味すぎてわからない新井直人の凄いプレイ。

フィジカルではなくポジショニングと体の向きだけでストライカーを無力化するという芸当をサラッとやってしまうのが新井なのだ。空間識覚をマスターした冨岡義勇。

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なお、この試合では田上がロングスロー要員だったので新井が投げることは無かったが新井のロングスローめっちゃ飛ぶ。オリンピック種目だったら日本代表になれるんじゃないかと思うくらい飛ぶ。

新井直人、アルビレックス新潟の鉄人である。


「これでわかった!サッカーのしくみ」をコンセプトにアルビレックス新潟の試合雑感を中心に書いています。