見出し画像

奥村とダニーロ:2024 J1 第18節 鹿島アントラーズ×アルビレックス新潟

試合内容は完全に新潟優位で終始新潟がコントロールしていた試合だったが結果は1-1の勝ち点1。

普通に勝ち点3を取れた試合だったし、岩政スタイル監督時代の鹿島に抱いていた「勝てる」という感覚とは全く違う「普通にやって鹿島にちゃんと勝てる」という自信を持てた試合でもあった。スタイルを捨てずにここまで辿り着いた俺たちの新潟が誇らしい。

そんなアウェイ鹿島戦で輝いたのは本来の高いポジションにスタメンで入った奥村と左サイドに後半途中から入ったダニーロである。この試合はこの2人のことを記録しておこうと思う。

スイッチャーとしての奥村

この試合で一番輝いていたのは間違いなく奥村だろう。先制点のトリガーは奥村だし、このシーンにたどり着くまでの40分間で鹿島の守備を殴り続けていたのも奥村だ。奥村が40分間殴り続けた結果として鹿島の守備が決壊し、そのラストシーンだけを切り取ったのがこのゴールシーンというだけである。

奥村が具体的に何をしていたのか個別に見てみよう。

奥村のスペシャリティは以前書いたのだがライン間で受けてターンする技術となる。以下の記事を読み返したらパスは無難なものが多いとか書いていたけど今となってはパスのセンスと技術も抜群であると書くしかない。似たタイプのスタープレイヤーを挙げるとするならば、香川真司やバルサのペドリになる(ペドリはなんでも出来ちゃうんだけど)。

今回の鹿島戦における奥村はボールの受け方もパスの出し方も全てがファンタジスタだったのだが、個人的な推しポイントはボールの受け方がとにかく素晴らしいところである。ブロック守備のグリッドの真ん中にポジショニングしてボールを受けて即ターンする、ボールを持ってターンしてしまえばボールを失うことはほとんどないという安定感を出せるのが奥村仁というプレイヤーなのだ。

守備グリッドの真ん中、いわゆるライン間でボールを受けて前を向くのが抜群にうまい奥村。

こういうプレイは高木や涼太郎だってやってたんじゃない?と思うかもしれないが、高木や涼太郎がやっていたのはセンターサークル付近の話で主にカウンターに繋げる役割が多く、奥村の場合は相手陣内の深い位置でこの動作を行うことができるのでゴール前における攻撃に厚みとスピードを出すことが可能となる。

図のシーンは前半19:50のものだが、この状態でボールを持って即ターンした奥村は守備4人を引き連れて細かいステップでペナルティエリア角までボールを運んだりする。この後は上がってきている秋山に戻して秋山がキーパー前に走り込む孝司目掛けてスピードに乗ったアーリークロスを放つという攻撃で完結させることができた。ゴール前で守備4人を喰いつかせることができればゴール期待値爆上がりとなるだろう。

奥村のこういったプレイはサッカー観戦で良く聞くキーワードの「攻撃のスイッチを入れる」という役割を体現しているものとなる。奥村のポジショニングとレシーブ&ターンで攻撃のスイッチをいれる新潟なのである。このスイッチの入れ方が本当に鮮やかで観ていてメチャクチャ楽しいのだ。

新潟はアタッキングサードまで運ぶのは上手いけどゴール前の火力は低いよね!などと新潟サポ自身の口からも言われたりするものだが、その火力を出すトリガーとなる役割を奥村が担うことになるだろうし、後ろの秋山と前の奥村はゴールデンコンビとなる可能性も高い。秋山先輩に怒られることもなくなるだろう。

このようなプレイを繰り返した結果、前半33:40には鹿島の守備をひとりで崩壊させてゴラッソ炸裂となるシュートシーンを演出することになる。ゴール前で守備5人を引き寄せてからシュートとかメッシかよ!で、この10分後に奥村がフリーで受けてからのスルーパスがトリガーとなり先制点をゲットする。

とにかく欠員が出てもヒーローが出てくるという奇跡のサイクルが回っている俺たちの新潟なのだが、その中で最も輝いているのは間違いなく奥村仁だろう。

左利き左サイドアタッカーとしてのダニーロ

後半56分に谷口に代わって入ったダニーロ。谷口が左だったので小見とポジションを入れ替えて右サイドでプレーするのかな?と思ったらそのまま左サイドでプレーするダニーロ。

ダニーロは左利きで右サイドからのカットインがストロングなので左サイドでアタックする姿はなんだか新鮮だなと思いつつ、ちゃんと機能するのかな?という不安も同時に頭に浮かんだりした。

が、そんな不安を全部吹き飛ばしてくれた左サイドのダニーロである。ダニーロが左サイドでドリブル突破してゴールに向かってくるたびにゴール裏から「カモン!ダニーロ!カモン!カモン!」と叫んでいる俺がいた。

57:20のシーン。デンから供給されるグラウンダーの長いボールを受けると濃野とタイマン勝負に挑んでボディフェイントからの縦突破を試みるが抜くことはできず。タイマン勝負する時のダニーロの面構えは本当に良い。

58:50のシーン。自陣タッチライン側のボール回しの出口として受けると一気にトップギアに入れるダニーロ。足裏を使ったり跨ぎを使ったりしてヌルヌルとダイアゴナルにペナルティエリア手前のゴール正面までボールを運んでしまうダニーロ。左手にはフリーで奥村が走り込んでいたので選択肢をどうするのかと思ったら「考えるのめんどくせぇ!」と言わんばかりにミドルブッパするダニーロ。そりゃ入らんだろ!とゴール裏から叫ぼうとしたが予想外にコースへ飛んで行ってミートするポイントがもうちょっと良かったら刺さってたんじゃないかというようなシュートを放つダニーロ。思い切りの良さが光って両手でサムズアップするダニーロ。

60:20のシーン。右サイドペナ角から小見が蹴ったアーリークロスに大外から飛び込むダニーロ。手前には島田が走っていたがキュピーン!と感じた島田はボールをスルーしてダニーロに託すもののダニーロがキュピーン!を感じ取れずにボールはピッチの外へ転がってしまう。小さなサムズアップで小見にサインを送るダニーロ。

66:40のシーン。秋山から大きなサイドチェンジを供給されるダニーロ。左サイド大外から元気いっぱいに中央へ向かってダイアゴナルにドリブルで突撃する。現地ゴール裏で観ていたときはカットインで切り込んでいるもんだと思ったのだがDAZNで見返すと普通のドリブルで中央目掛けて突撃しているだけである。クソ度胸なダニーロ。

67:15のシーン。小島からのフィードをタッチライン際でレシーブするダニーロ。ボディフェイントで濃野と名古を惑わせつつカットイン無しで中央へ向かって堂々とドリブル突破するダニーロ。奥村とのワンツーで知念のアタックも外して奥村くん!ボールをあげるよ!という感じの必殺ブラジリアン・ロビング・キックを放つが落ち着いている濃野に回収されてしまう。濃野からしたら10分間は予測不能のヤベー奴だ… とか思われていたのかもしれない。

74:10のシーン。最終ラインから奥村が繋いで大外を走るダニーロへボールが渡る。左でボールを持つとまたしても濃野とのマッチアップ。お前は見切ったと言わんばかりの濃野にボディフェイントからの左足カットインを繰り出すが左足なのでボールを晒すことになって普通に奪われてしまう。が、こぼれ球を奥村が拾って新潟のターン継続からの秋山巻きミドルとなりチャンスメイクに繋げるプレイをするダニーロ。

75:00のシーン。ずっと俺たちのターン継続の流れからボールを預かるダニーロ。濃野に見切られているはずの左足カットインを何度でも匂わしおいてからの裏街道抜き炸裂!そこから利き足の左で鋭いグラウンダークロスを中央に鎮座している孝司目掛けて蹴り込むも鹿島の壁3人にブロックされてしまう。メチャクチャ惜しいしメチャクチャ機能しているダニーロ!濃野は混乱している!

76:40のシーン。秋山が名古に削られてピッチに倒れると猛ダッシュで西村主審に詰め寄るダニーロ。秋山のこの痛そう泣きそうな表情見てよ!と秋山の場所まで西村主審をエスコートするダニーロ。めっちゃ当たってるじゃん!めっちゃ当たってるじゃん!とジェスチャーを交えて抗議するダニーロ。キャプテン以外とは話さないよという態度でダニーロを冷たく扱う西村主審。デンと島田も西村主審にカード提示を求めつつベンチでは松田がスタンバイ。

78:15のシーン。秋山のフィードを胸トラップで受け止めるダニーロ。今日何度目か数えきれない濃野とのマッチアップとなるが今度はタイマン勝負せずに後ろから走り込んでくる奥村へサラッとボールを渡す。拍子抜けする濃野だったが奥村も転んでいた。奥村はその後80分過ぎにハセモと交代し小見に代わって松田も入ってきた。鹿島は柴崎が入ってくる。

81:40のシーン。ハセモ×島田×ダニーロで小さなトライアングルを作ってボール回しをする流れからハセモがダニーロの裏抜けに合わせてスルーパスを供給する。気持ちをバッチリ受け取ったダニーロはタイマンで濃野を倒してそのまま利き足の左で完璧な速度とコースのマイナスグラウンダークロスを蹴り込み、孝司が囮となってセンターバックをピン留めしつつスルーすると後ろから走り込んでくる松田の姿が。松田の蹴ったシュートは抑えの効いた強いキックで、「蹴った瞬間に入るってわかるやつだ!」とゴール裏で両耳に両手を添えてバンザイ歓喜の2秒前となっている新潟サポーターの期待を全部乗せした瞬間が訪れる。が、ゴールに突き刺さる未来しか見えないはずのボールはなぜかゴール裏に設置されている支柱にヒットしていた。何が起きたのか良くわからない。松田ァァァァァァァァ!!!!!!!ゴールネット突き破ったんかい!!!!!!!!!

ダニーロとしては完璧すぎる120点のプレイだった。

83:40のシーン。秋山のロブを裏抜けする形で受け取るダニーロ。ボールをトラップしてから選択肢を増やすかと思いきや後ろから迫る関川を感じ取ったのかノートラップで左足を思い切りよく振り抜くも枠をとらえることができず。右サイドからの左足なら決まっていたかもしれない。惜しい!

85:30のシーン。秋山が自分で中央に運んで守備を釣ってからフリーのダニーロへボールを預ける。ダニーロはそのままシンプルに左足で高速低弾道のクロスを蹴り込むが誰も反応できず。左足のクロスが鋭すぎるダニーロ。

87:50のシーン。前掛りになっている鹿島の守備に対してカウンターの裏抜けを仕掛けるダニーロ。偽9番で落ちてきている孝司からボールを預かると単騎突撃して濃野相手にここまで温存しておいた縦突破ドリブルを仕掛けてシュートを放つ。思い切りの良いダニーロが輝いていた。

奥村とダニーロ。これからも眩しく輝いてアルビレックス新潟を照らし続けてほしい。

試合雑感

スタメンは好調で躍動感あふれる谷口をウィングにして奥村が本来ポジションのトップ下に入る形だろうか。谷口が左なので小見は右のスタートにだろう。

見どころ設定としては奥村が本来ポジションで輝くのかどうかというところになる。攻撃時に秋山がアンカーで島田が高い位置に入るバルサっぽい形なんかが見れたら面白そう。EURO開幕戦のクロースみたいなアンカー秋山無双が見たい。長倉はやっぱり怪我が回復しないようでベンチにも入らず。

この試合はカシマスタジアム現地で観戦したのだが、スタグルが広場に移動して買いやすくなっているとのことだったので割と早めに着いたのに丸ごとメロンソーダは瞬殺されていた。ハム焼きは余裕を持って買えたのでハム焼きと豚ドックを手に場所取りをする。天気と同じく良い試合に期待したい。

そして期待通りに前半を終えて大満足している自分がいた訳だが、鹿島の442守備を攻略する新潟という構図の試合となっていた。442守備使いのポポヴィッチらしいチームとなっている鹿島である。

新潟は両サイドをワイドに開きつつ秋山と島田が前後入れ替わりながらボールを受ける。孝司と奥村も秋山島田同様に落ちる役割を入れ替わりながら行う。この動作を繰り返すことで鹿島に捕まらないようにボールを動かすというのが基本になる。

大きく開いた新潟を相手に鹿島はサイドチェンジを警戒しつつブロックのグリッドも広げないという絶妙なスペース管理をしていた。これは美しい442守備で俺が好きなやつだ。古くても良いものは良い。クラシカルな戦術というのは時代を生き抜いてきているだけあって機能美を兼ね備えているものだ。鹿島らしい鹿島で本当に良かった。岩政鹿島は本当になんだったんだ。

鹿島の442守備に対して新潟はブロックを広げるかサイドチェンジを通すかするのがセオリーになる。このセオリーに奥村のスペシャリティが大ハマリした。

奥村は高い位置のライン間やグリッド間で受けてターンするのが抜群にうまいので、高い位置でボールを受けることで何度も鹿島のグリッドを歪めていた。33分の左サイドグリッド内で受けたシーンにはマジ痺れた。40分以降になると集中力の切れた鹿島はグリッドを維持できず、ついに奥村がゴール前中央でボールを受けてからの流れで先制点です。小見もおめでとう!

一方の鹿島の攻撃は基本的に優磨フリーロールの裏抜け狙いが基本でそこまで特徴があるわけではない。ないのだが優磨の訳わからないゴールには気をつけてほしい。

これは新潟が試合を完全に支配している。後半は温存しているであろうサイドチェンジが決まるとより楽しくなると思ったのだが結果は同点弾を浴びて1-1の引き分けに。失点シーンがとにかくもったいなかったのだが、ペナ角でデンがひとりだけになってしまってはどうしようもない。実際にはその後のワチャワチャからゴールが生まれたとはいえ、あの状態になった時点で決まっていただろう。

奥村は後半にタイミングがバレはじめたことに加えて疲労も重なり鹿島の守備陣に抑えられてしまった。奥村が交代する直前の潰され方は子供相手にやられているような雰囲気だったが奥村もここから勝てるように研鑽することだろう。今後が本当に楽しみな奥村だし、グティ涼太郎のようにペドリ奥村として全新潟を楽しませてくれるだろう。

後半の新潟、前半ではチャンスがあっても絶対に飛ばさなかったサイドチェンジを多く織り交ぜて鹿島を揺さぶったし、交代で入った左のダニーロが効果抜群だった。

左利きが左サイドでカットインしてくるとかセオリー外だったのだろうか、鹿島の守備も慌てふためいていたしタイマンほぼ全勝だったのではないだろうか。そこからの流れで俺の中のゴール期待値爆上がりだったのだが結局決まらず。松田ァァァァァァァァ!!!!!!!

小見は攻守共に非常に良かった。ゴールは当然として交代直前にカウンターを潰したタックルは本当に見事だったし、あれが潰せてなかったら勝ち点の無い世界もあったと思う。

試合内容は満足だし、この試合をスタジアムで観れたのは良かったのだが獲れたはずの勝ち点3だけは心残りである。

スタジアムはやっぱり良いな。


「これでわかった!サッカーのしくみ」をコンセプトにアルビレックス新潟の試合雑感を中心に書いています。