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アグレッシブ5バック:2021 J2 第13節 アルビレックス新潟×松本山雅FC

この試合、とにかく松本の守備が素晴らしかったので書いておく。

基本5バックなんだけど引かない5バック。5バックなのにオフサイド取りまくりというアグレッシブ5バック。

フォーメーションとしては3-4-2-1

松本はいつもこうなのか新潟対策なのかはわからないが、色々見聞きするかぎり新潟対策らしい。

3-4-2-1の守備のセオリーとしては両サイドに広がったウィングバックが守備時は下がって5バックになり、ワントップを残して2シャドウを下げて5-4-1という横に広く中央に隙間の無いブロックを作る強固な守備陣形。

したがって、3-4-2-1は多くの場合自陣に引きこもることになる。最終ラインのコントロールを考えたら当然の対応だ(最終ラインの人数が多くなればなるほどラインを揃えるのが難しくなる=オフサイドを取りにくい=裏抜けされやすい)。

そして今回の松本。

松本は5バックではあるもののドン引きせずにラインは高く、4-4-2ブロックのようにサイドへ追い込むという新鮮な守備をしていた。もしかしたら世界のサッカーでは今どき当たり前にやっているのかもしれないが俺には手持ちの情報がない。

で、大体こういうことをやると理想の形を保ちきれずに時間の経過と共に崩れたりするんだけど、結局最後まで崩れなかった松本というのがこの試合の面白いところだった。いや、これは面白いしマジ強かった。

そんな松本の守備が何をしていたのかちょっと分解してみよう。

基本はボールを外へ追い出すプレス

松本の基本フォーメーションの3-4-2-1は守備時に5-2-2-1のような形になる。5バックの前に2ボランチがいて前線はワントップ2シャドウみたいな形。

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この配置を取ることで新潟のヘソでありパスを出し入れする目印でもある高へのパスコースを塞ぎつつ新潟のセンターバック2人にプレスを仕掛けることができるようになる。

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こうなると新潟はセンターバックがボールを持ちっぱなしというわけにもいかないでのボールを大外に逃すかキーパーに戻すという選択をするしか無いのだが、大外に逃がせば最終ラインまで引いていたウィングバックがインターセプトを狙い、キーパーに戻せば守備陣形をリセットしてやり直し。その後、キーパーからセンターバックにボールが入ったら以下繰り返しのループ。

まぁ実際には前線3人の間に高と島田が立ってパスコースを確保したり、藤原大外の星内側というレーン移動をしてボールを引き出そうとしていたんだけど、それすらも許さなかった松本の圧力とか。

そんなこんなを繰り返して新潟のパスミスを誘発しようという松本の前線の守備。ジェフも新潟に対して似たようなことやりたかったように思うんだけど10分で諦めてた。

この前線の守備にはひとつの大きな特徴があり、それは「新潟の右サイドにボールを追い込む」というものである。なんで右サイドかって?そりゃ左サイドには圧倒的個人の本間至恩がいるからだ。

本間至恩がボールに触れない場所を戦場化させれば至恩のストロングであるドリブルもハードな守備も姿を見せることはない。前半3:50のシーン、至恩にボールが入りそうな場面でハードタックルしてノーファウルで奪った大野佑哉の強い気持ちが強い!

前線3人と最終ライン5人、中盤は引いた数の残りの2人となるわけなので、当然中盤2人の脇はスペースが空くのだが、ここは先にも紹介したとおり最終ラインに下がったウィングバックがケアするスペースになる。

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とはいえ、ウィングバックが走り込むには中盤と最終ラインの距離を詰めないといけない訳で、前線は前掛りだし中盤もそれに連動して前に詰めないとパス通されちゃうし、最終ラインも中盤についていかないとウィングバックがインターセプトできないしで必然的に5バックのラインは高くなるしウィングバックがインターセプト狙いで飛び出せば新潟は空いたウィングバック裏を狙う。

こうなると新潟は当然最終ライン裏のスペースを狙うしか!な状況になるんだけど、これをオフサイドで引っ掛けるというアグレッシブな方法で回避する松本。これは美しい!

結局この日に松本が獲得したオフサイドは6個で5バックとしてこの数字はなかなか見れないような気がする。

こんなやりとりが基本で、新潟は前半こそ右サイドにプレーを集約させられて松本の狙い通りの試合運びに嵌められてしまったが、それでも至恩と裏抜けを諦めずにあの手この手で攻撃を組み立てる。それらをほぼ完璧に狙いどりに最後まで集中力を切らさずに対応した松本というお互いの矛と盾がバチバチ音を立ててぶつかりあったナイスゲーム。

松本の盾はデカくて分厚いものではなく、軽くて機動力があってマシンガンでは打ち抜けないギリギリの強度設計がこの試合のためだけに為されたであろう非常に洗練された美しい盾だったのである。

加えて、ウィングバック裏を取られてクロス上げられてもセンターバック3人で全部跳ね返してやるから安心しな!という溢れ出て輝く信頼感。非常に合理的で美しい守備だった。自陣まで押し込まれたらプレスを諦めてガッチリ5-4-1でブロックを作るというのも徹底していた。

そういや去年は京都が新潟戦で似たようなことやっていたような気がするけど、アタランタみたいにスタイルとして確立させるのはなかなか難しいのかもしれない。

今振り返れば京都も新潟のビルドアップ対策として5-2-3を持ってきていたのかもしれないんだが当時の新潟は今シーズンほど圧倒的なビルドアップをしていた訳じゃないし、そこに対策を立ててきた實好監督のロマン。なお、本題と関係ないけど改めて記事を読んだら新井の個人昇格リスクに言及してて以上。

いや、これ本当に松本の5-2-3は面白かったので、他サポ視点では松本がこれを極めてくれるとJ2がもっと面白くなりそうだなとか思っている。

などなど、勝ち点3はゲットできなかったけどサッカーファンとして非常に充実した時間を過ごせた松本戦。

こういう試合が観れるのも新潟の洗練されたビルドアップをどうやって攻略するかということをどのチームも考え抜いて実行しているからであって、強い相手に勝つために何をすべきか?という答えを探索するプロセスの結果としてリーグ全体のレベルが向上したりもする。リーグ全体のレベルが向上すれば日本代表のレベルも向上するし、身近に良いサッカーがあれば少年少女達は憧れる。

何が言いたいかと言うと、これは良い新潟だということです。

毎試合面白い試合が観れて幸せです。


「これでわかった!サッカーのしくみ」をコンセプトにアルビレックス新潟の試合雑感を中心に書いています。