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めぐり逢わせのお弁当

食べることが、好きだ。
なので、食べ物を扱った文章や映像やその他も好きだ。お弁当がいっぱい出てくるこのインド映画は、もうタイトルだけで観に行くと即決した。
インド映画ってそんなに観たことがなくて、イメージするのは「踊るマハラジャ」だったのだけど、この映画はマハラジャとは全然違う。いわゆるドリフターズのようなものしか映画にならないのだなって思っていたけど、インドも変ってきているのを感じさせる映画だった。

舞台はインドのムンバイ。
ムンバイは東京と同じように、郊外から長時間かけて通勤してくる人が多い。そこにはお弁当を運ぶダッパーワーラーという人たちがいて、奥さんが作ったお弁当を家までピックアップに来てくれ、そのまま何人かの手を経て旦那さんの会社まで届けてくれるという。これがクロネコさんも真っ青の正確さで、まず間違いがないらしい。なのに間違って別の男性に届いて、それは届き続けて、お弁当を通じて文通が始まるという、ちょっとロマンチックなお話。

日本のお父ちゃんも奥さんの手弁当の人は多いけど、持参するからビジネスバックに入れやすい細長い弁当箱が売られたりしている。最近の若い人は食べた後ちゃんと洗ったりもする。1日置いといた弁当箱ほど臭いものはないから、作る側からしたら洗ってくるくらい当然だという気がするけど、インドのお父ちゃんは洗いもしなけりゃ運びもしないというね。

それはさておき、主人公の奥さんイラの旦那は、もう全然家庭とか奥さんに興味がない。顔も見ないし家政婦かなんかだと思ってる。毎日手の込んだ手料理のお弁当を作っても残しがち。そんな旦那でも毎日毎日ごはんを作り続けて汚れ物を洗濯して…日々虚しさが募っていく。

間違ってお弁当が届いたのは、定年を控えた初老のサージャンのところ。妻を亡くしているサージャンはお店にランチを注文していて、そこから来たものだと思って食べてしまう。別の人の所に届いたことが分かった奥さんは、翌日お弁当に手紙を添えて、そこからメッセージの交換が始まる。最初は一言だけ。やがて少しずつお互いのことを語り始める。2人ともお弁当や手紙の交換が日々の寂しさを埋めていく。

この映画ではお弁当を作るシーンがいっぱい出てくる。普通の家庭で食べられているであろう美味しそうなインド料理が次々に出てきて、料理シーンが好きな私としては一時停止したくてたまらなかった。インド料理好きでよく食べに行くのだけど、それと家庭料理は違うのでしょうね。これなんだろう?と思うものが沢山あった。日本のお弁当はいま世界で人気らしいけど、インドのお弁当も相当美味しそう。

実際に会いましょうとなって待ち合わせするんだけど、サージャンはまだ若く美しいイラを見て声をかけられずに店を出る。朝、用意をしている時、自分が祖父と同じにおいがしていることに気付いたから。電車で席を譲られたから。ここが切なくて胸がぎゅ~っとなる。そんなん大したことじゃないから思い切って行きなさいよ!って言いたくなる気持ちがないでもないけど、そういう訳にいかないのはよく分かる。あれ?おじいちゃんなの?て思われたら…実際思われることだってあるだろうし、そりゃー怖いよね。勇気でないよね。この俳優さんは素敵オジサンなので全然OKな気がするんだけど、OKな人ばかりじゃないのはよく分かる。ああ、切ない。

最後はぼかしてあって、どうにでも受け取れるように作ってます。イラがサージャンに会えて、素敵な未来を掴んでますようにと願わずにいられない。そして男性優位のインドでこのような映画が撮られ、多くの人が観ることで、沢山の女性が救われますように。