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創作現場のハラスメント実態調査特集について

私は普段、SpotifyでTBSラジオのいくつかの番組の録音をダウンロードして、移動の電車内や休憩時間に聞いているのですが、「荻上チキ・セッション」4月7日放送分の「創作現場のハラスメント実態調査から何がわかったのか」の特集を今日聞いて、非常に心に堪えました。
私自身の立場では容易に想像できる案件ばかりで、聞いていて辛くなって途中で一度聞くのをやめました。
しかし、音楽をはじめ、カルチャーを楽しむ方には多少現状を知ってもらえるとシーン全体の予防になるかなということもあるので、ぜひ聞いて頂けたらと思います。


高校を卒業して音大に入ってすぐの頃から演奏活動していますので、もう23年ぐらいになりますが、今回のこのラジオ特集を聞いて穿り返された記憶の中で、意外と心を抉ってきたものは、女性から受けた言動でした。
もしかしたら、男性からのハラスメントは当たり前すぎて忘れてしまっているから、女性からの言動の方を強く覚えているだけかもしれません。


・「寝たんじゃないの」

これ、何度も言われています。言ってきたのは全て女性でした。
〈女の敵は女〉構図を再生産するつもりはありません。だって、「寝たんじゃないの」と言う人は、〈寝ないとその仕事を得ることができない〉と、不均衡な環境を自覚しているから、その中でサバイバルしないといけないから言っているのであって、根っこの部分では彼女が悪いわけではなく〈そういう構造がある〉ということ。彼女は差別を内面化してサバイブしているだけ。2021年の今は、こんなこと言わないでしょう。
でも、誰に言われたかは、直接言われた方は、結構覚えているものです。

・「今度は脱いで、背中を見せたい」

これも20歳ぐらい年上の女性のディレクターに言われました。正直、ものすごく気持ち悪いと思いました。この方は悪気ないんです。良い人だし非常に仕事のできる有能な人です。しかし、男性社会でなんとか生き残ってきたこの世代のバリバリのキャリアウーマンは、何か男性社会に同化してしまっているところがあって、この発言以外にも敬意の無い発言が多かったように思います。あるスタッフのことを「あの人はきっとゲイよ」としつこく私に言ってきたのは、本当に不快でした。
仕事の次のヴィジョンとして「脱いで」という言葉が出た時、私は顔も心も硬直して「ああ、もうここから離れないといけないな」と思いました。実際に距離を置いて会っていませんが、今思い返すと、彼女はこの業界でイキらないと仕事人として生きていけなかったのだと思います。そう思うと、哀しい。


その他、ラジオを聞いていると、ギャラリーに来たお客さんからハラスメントを受けるなど、〈対 お客さん〉のシチュエーションで困っている方が、創作現場全体で物凄く多いことがわかりました。

ジャズの中でも、時々SNSで「女性のミュージシャンに個人メッセージを送りつけたり、ご飯に誘ったりすることをやめてほしい」と男性ミュージシャンが書いているのを見かけることがあって、シーン全体で良くないことは良くないと発信する空気になっていることは、とても良いことだなあと思っています。本人はなかなか言えないですから。

私は、見知らぬ方のしょうもないメッセージには返信は全くしません。フォローやフレンドのリクエストも、顔見知りでなければ受けません。〈基本的にSNSは発信のみに使う〉と決めており、他人の言動を気にし過ぎないという自分の気質も幸いしてか、それでずっとやっていますが、全員それができるわけでは無いです。だから、困っている人に「返信しなければいいじゃない、無視すればいいじゃない。そうしている人もいるんだし。」と〈対応できない君が悪い〉と言うかのようにアドヴァイスするのも、やめてほしい。それぞれ事情も個性もあります。

以前は、ライブが終わって帰る時にお店の外で待ち、乗る電車を合わせてくる人などもいましたが、それもイヤホンをして徹底的に無視したりしていました。
なぜ無視できるようになったかと思い返せば、20代前半までは北新地や大阪のクラブで演奏することが非常に多くて、絡んでくる酔客を無視しないとやっていけなかったんです。
弾いている最中にちょっかいを出してくる、ピアノに倒れかかってくる、ひたすら酒を勧める、ずっと耳元で話す、猥褻なことを言ってくる、それが当たり前で、無視しないとやっていけませんでした。
〈プロなら酔客も軽くあしらったり無視できないと〉なんて、若い人には絶対に言わないで下さい。これは旧時代の非常に悪い環境の話であり、今の駆け出しの人には経験する必要のないことです。正直なところ今思い返しても、どこの未開の地やねんと思いますよ。本当に酷い環境がいっぱいあった。
私がその中でも特に気を付けていたのは、「絶対にお酌をしない」「酒場の厄介は全部無視」「ギャラを貰っている分の演奏だけする」ということです。
「絶対にお酌をしない」というのはお客さんだけでなく、共演者との打ち上げや、ツアーの打ち上げで現地のお世話してくれる方と一緒の時も、意識してしないぞと決めていました。お酌をした途端に、私が仕事をする上で大事な一線が崩れると信じていました。今はそれぞれの関係で気が向いたらしていますが、目上だから、年上だからという判断でなんとなく空気で、という状況ではしません。演奏が関わるコミュニティでお酌をすると、やはり表現者の自分としての大事なバランスは、崩れると思っています。

時々女性ミュージシャンと話していて「あの方は本当に良いお客さんで、ずっと応援してくれてる」という話をする時にパターンがあるなと思っているのですが、それは大抵が「頻繁あるいは定期的にライブに来てくれるけど、終演後にいつの間にかさらっと帰っているお客さん。でもよく見かける。ほとんど話したことがない。」というようなものです。
私は関西人なので人がいたら喋らないと落ち着かない方なのですが、物言わず応援して下さる方には非常にエールを頂くと同時に、〈こういうリスナーに来てもらえなくなるような演奏をしてはいけないな〉と気が引き締まるのは、よくわかります。

逆に、私はあまりないですが、終演後に自分が強く応援するミュージシャンに対して一言、感想まがいの余計なことを言って帰るような方も結構側で見ていまして、わりとそれにダメージ受けているミュージシャンも多く、これはハラスメントじゃないかと思うこともあります。
私がカヴァーできる時は、横から会話に参入してカヴァーしたいですし、時々しています。だって、皆が良い気分で演奏を終えたいですし。こうやって〈喋ることができる〉あるいは〈受け流すことができる〉というのも、私個人の気質なので、皆ができることではないですから、見ていておかしいな?困ってるんじゃないかな?と違和感を感じたら、ミュージシャンがお客さんと距離を取る、何かしらのアシストをして頂けたらとても助かることが多いです。当人に対応しなくてもいいので、距離が取れればそれだけで助かるのです。


このラジオ特集を聞いたことで、雇い主とのギャランティや契約のことも含め、なんだか過去の嫌な思い出を色々穿り返されているのですが、また整理ができたら書きたいと思います。


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