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コンクール雑感

ショパンコンクールの中継をYouTubeで生配信しているので、私も楽しく見ています。
今回の日本人演奏者は、すでに有名で人気のあるピアニストがいて話題性もあり、沢山の方が観覧していて盛り上がっていますね。
私は最近クラシックは聴きに行けていないので、名前は存じ上げていても生で聴いたことがない方ばかり。どんな演奏をされるのか興味津々で前のめりで見ています。

2次予選の日本人の演奏者は全て見ましたが、小林愛実さんの演奏が、段違いに素晴らしく、感激しました。配信でこんなに心を持っていかれると思いませんでした。


2次予選の審査結果について、良い演奏をしたにも関わらず落ちたコンテスタントがいることから納得いかない音楽ファンも非常に多い様子で、You Tubeのコメント欄やSNSがその疑問で溢れています。

その気持ちも十分わかるのですが、一つの考え方として、コンクールは現在技術に熟達した人に賞をあげるより、未来に新しい地平を切り拓くに可能性のある人に賞をあげたい、という観点での采配があるので、私は個人的には納得しています。

特に、審査員がすでにその道を作ってきた演奏家が主体で構成される場合、誰もが素晴らしいと思う今の価値観で100点の演奏は、その審査員が切り拓いてきたレールの上での100点であって、〈この人は今は広く理解されないかもしれないが、もしかすると、これから自分たちが敷いてきた以外の新しい道を切り拓く未来があるんじゃないか〉と、現在の優劣より未来の可能性に照準を置いて判断することも多いと思います。
未来にベットするんですよね。

滅茶苦茶小規模な話で恐縮ですが、横濱ジャズプロムナードのコンペティションに出てグランプリを頂いた時に、その後でイベントのボスに聞いた話。もう16年前のことですし、コンペティションももう開催されておらず、ボスの横濱ジャズプロムナードのディレクター柴田浩一さんも亡くなられたので書きます。

決勝のライブ審査で、私のトリオとジプシージャズ系のもう一組のバンドとでミュージシャン審査員の中で割れて議論になったそうで、結局私のトリオが選ばれたのはオリジナルな音楽をしていたからだということを、柴田さんから後で聞きました。これまでの歴史の中で優れた技量で演奏したものより、新しい音楽をしている人の方にグランプリを与えるべきだという結論になったそうです。〈コンペティションをするからには、再現でなく未来を作らなければならない、それがコンペティションの使命だ〉と柴田さんはおっしゃっていて、これって決して私のトリオの音楽が優れていたわけではなく未来の可能性にベットしてくれていたっていうことなんだなと、身が引き締まる思いでした。実際にもう一組のバンドの方が技術的に大変優れており素晴らしい演奏で、私たちの方がなんとなく欠損感?があったのは、本人としてもそう思っていましたから。

ショパンコンクールに話を戻しますと、2次予選での牛田智大さんは本当に凄みのある演奏で、ショパンとはと聴く側に問いかけてくる、筋の通った凄まじい演奏でした。本当に素晴らしかった。
他に聴いた中で、ホジャイノフの演奏は最初は面食らいましたけど、演奏を終わってみると納得させられてしまいました。一瞬たりとも飽きさせない、何が起こるんだろうというわくわく(怖怖も同居したけど笑)の続く素晴らしい体験でした。

誰を通して誰を落とすか、審査員のめぐり合わせに加え、その時他にどんなコンテスタントがいるか、それが運であることは、コンクールの常です。
牛田さんが通れば良かったなあと心から思っていますが、通らなかったのは解せないと外野が言っても仕方ないですし、その運も承知でコンテスタントは参加していますから、応援する身としてコンテスタントの心の負担にならない振る舞いをしたいなと思いました。また、ご本人のその後のTwitterの投稿が、周りが何を言っても野暮だなあと思う素晴らしいもので、神かと思いました。


ちなみに、どのジャンルでもよく〈コンクールなんて政治力が働いてる、出来レースだ〉というような事を言う人がいます。
しかし、自分の経験も踏まえると、あまりそのようなことは言いたくないと思いますよ。

私の前述の横浜のコンペティションは、審査員にも関係者にも全く知り合いがいなくて、関東のクラブに出演したこともないし、本当につてはゼロ。本選のある赤煉瓦ホールは、エンリコ・ピエラヌンツィの初来日を聴いた思い出の場所。その演奏した会場で同じピアノを弾きたいと思い、その時25歳だからもう出場できるのも最後ぐらいかなと思って応募しただけだったのですが、何のつてがなくてもグランプリを頂けたし、横濱ジャズプロムナードにはその後もとても親切にしてもらい、様々な機会と出会いと大事なご縁を与えて頂きました。勿論、色んなコンクールがあると思いますけど、真摯に未来を考えてジャッジする審査員がいるのを肌身で感じたので、知らずに最初からそのようなことを言うのは、審査員にもコンテスタントにも失礼に感じます。

25歳だからと書いたのは、横浜のコンペティションに年齢制限があったのではなく、なんとなく一般的に〈国内タイトルは25歳、国外タイトルは30歳まで〉という意識を持っていたからです。ある年齢以上だと獲っても当然に見られちゃいますしね。ショパンコンクールも30歳までだったんじゃないかしら。

私の場合横濱ジャズプロムナード・ジャズ・コンペティションに出て一番良かったことは、自分のヴィジョンのみで演奏できる機会が増えたことです。頼まれ仕事じゃなくて、自分の音楽をやってと場所を提供して下さることが圧倒的に増えました。実際にはプロフィールに一行追加されただけのことでしたが、それが音楽の通行手形になった。
あくまでもコンクールは世に出るきっかけの一つで、その後どう音楽するかの方が大事、ということは、後にならないとわかりませんでした。

以上が、私ごときの小さな体験の昔話です。


ショパンコンクールは言うなればピアノのオリンピック。
若いトップ・アスリートの闊達な表現を生で目撃しているだけで、本当にエネルギーをもらえるし、ワクワクするんですよ。また、多様な言葉でのショパンを聴けるって素晴らしいことです。この多様な価値観を感じることで、世界中の音楽家の卵がもっと自分で表現していいんだと、明るい未来を描けることだろうと思います。この配信は、音楽の未来にとって素晴らしいことだと思います。

今日から3次予選!楽しみです。



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