地震予知の未来
令和6年元日16時10分頃、石川県能登地方を震源とするマグニチュード7.6の地震が発生し、石川県で震度7を観測した。その後、1日23時頃まで大きな地震が幾度となく発生した。
震度7とは、気象庁が定める最大震度であり、建物の倒壊が予想されるレベルの大地震である。
1995年1月17日に発生した「阪神・淡路大震災」はマグニチュード7.3、震度7で、国内観測史上初めて震度7を観測した地震として日本中に大きな衝撃を与えた。
当時、大阪にいた私も縦揺れの強い衝撃で目が覚め、経験したことのない恐怖を感じたのを記憶している。周囲の古い家屋の壁には大きな亀裂が入り、その衝撃を目の当たりにしたものである。この経験から翌年1996年4月以降、計測震度計により自動的に観測されることになるほど、後世に大きな影響を与えた。
大震災というと2011年3月11日の「東日本大震災」を思い出す人も多くいるだろう。震源が三陸沖130km付近ではあるがマグニチュード9.0と日本国内観測史上最大規模、アメリカ地質調査所によれば1900年以降、世界でも4番目の規模の地震で、宮城県で最大震度7を観測した。能登地方の地震と似ているのは、「海岸沿いの土地であるため津波の危険に晒されている」「震度7ということで建物の倒壊による火災などの二次災害が発生する」という点である。
「阪神・淡路大震災」のときは高速道路が倒壊し、周囲の家屋も全壊することで瓦礫が緊急車両の進行を妨げ、消火活動や救助活動が難航したことが甚大な被害を出した要因ともいえる。これを機に瓦礫の中での救助活動を迅速に行うため、四足歩行ロボットやドローンなど飛行デバイスの開発が進んだ。
「東日本大震災」のときは津波被害が甚大で、福島第一原発の建屋破損事故の経験から、原発そのものの安全性やシステムの問題点などが露呈されることになるが、津波対策として画期的なものは開発されていない。
日本は世界有数の地震大国で、国土面積が世界の0.25%であるにも関わらず、マグニチュード6以上の地震発生回数は世界の17.9%を占めているが、これは日本の位置が大きな原因となっている。日本周辺では、太平洋プレートやフィリピン海プレートが陸のプレートの方へ1年あたり数cmの速度で動いており、陸のプレート下に沈み込んでいるため、日本周辺では複数のプレートによって複雑な力がかけられており、世界でも有数の地震多発地帯となっている。
因みに、震度とマグニチュードを同じように考えている人が多いが、この2つは全く異なるものである。震度は「ゆれの大きさ」であり、現在は計測震度計で測定するが、昔は気象庁の職員の体感で決めていたほど曖昧なもので、同じ町内でも場所によって震度が1くらい異なることがある。
マグニチュードは「地震のエネルギーの大きさ」であり、マグニチュードが1大きくなるとエネルギーは約32倍大きくなる。つまり、マグニチュードが2大きくなるとエネルギーが約1000倍大きいという計算になる。
マグニチュードはエネルギーの大きさで単位はJ(ジュール)で、他のもので例えると、マグニチュード6のエネルギーは約63TJ(テラジュール)で広島型原爆のエネルギーに匹敵する。
今回の能登地方の地震のエネルギーはマグニチュード7.6なので、計算すると広島型原爆の約251倍のエネルギーとなるので、どれほど大きなものか想像して欲しい。2023年の5月には日本中で震度5以上、マグニチュード5.1~6.2の地震が5回発生しており、能登地方でも5月5日にマグニチュード6.2の地震を経験している。
これほど短い周期で大きな地震を繰り返し経験していながら、未だに地震が発生してから対応するばかりで、これまでの経験が活かされていないようにも感じる。大地震は起こるものだと言われ続け、「南海トラフ巨大地震は近いうちに起こる」と政府も危険視していながら、地震予知の精度は上がらないのは何故だろうか。もちろん、地震の発生源は様々であり、地球上すべてを監視することは不可能に近いのかもしれないが、だからといって、できないと諦めていいものではない。
過敏に反応し警告を出すJアラートに不満をいう人もいるが、危険に対しては過敏なほどが丁度いいのではないか。避難が少しでも遅れれば、救える命も救えなくなる。気象庁は公式サイトのQ&Aで、
「現在の科学的知見からは、そのような確度の高い地震の予測は難しいと考えられています。」
「一般に、日時と場所を特定した地震を予知する情報はデマと考えられます。」
と回答している。
本音はそうなのかもしれないが、もう少し希望がある言い方はできないのだろうかと落胆している。地震は、大陸プレートの下に海洋プレートが沈み込む際に大陸プレートを引きずり込み、大陸プレートにひずみがたまり、ひずみに耐えられなくなった大陸プレートが元に戻ろうと反発することで発生する。意外と単純なメカニズムである。ただ、このプレートの規模が大きすぎるため完全な監視が難しいのが現状である。2023年はAI元年といわれ、専門家だけでなく一般の人にも利用できるものが増えていった。OpenAI、Microsoft、Googleなどのソフトウェア企業だけでなく、NVIDIA、Intelなどのハードウェア企業までがAIに開発投資を行うほど、地球規模でAIの発展に向かっているといっても過言ではない。AIの開発速度は指数関数的に増加し、一気に推し進められているが、まだ娯楽の枠を超えていないと個人的には考えている。
AIは「人間の知的能力を模倣する技術で、コンピュータがデータを分析し、推論や判断、最適化提案、課題定義や解決、学習などを行うことができる」ものである。AIの特徴の中でも、「大量のデータをもとに予測を立てること」ができる点はAIの最大の利用価値ではないかと考える。
日本が誇る世界最高水準のスーパーコンピュータ「富岳」は、地震の定量的評価を目的とした統合的な予測システムを構築するために、2020年4月から運用され、そのシステムの社会実装に向けて研究が続いているが、弾き出される地震発生確率は10年以内に30%程度のような精度である。「富岳」の計算能力は突出していると思うが、それを利用するのは人間であり、計算の元データを与えるのも人間である。
つまり、「人間が想像しうる範疇の計算を高速で行う」ことができるのが「富岳」であり、人間の想像しえないことを「予測」することはできないともいえる。この部分をAIで補完できないものだろうか。AIは純粋にデータから予測を行うので、突飛な予測をすることがあるが、それを人間が見たときに新たに気づくことがあると思う。
AIの突飛な予測を見て「まだ使いものにならない」という人も多いが、突飛な予測には人間が気づかない点に目を向けるチャンスが隠れていると思う。確かに、現在のAIは完璧とは言えず、改良の余地は大いにある。AIの発展の流れは加速している今だからこそ、この流れに乗らない手はない。
その為にもAIそのものの進化も必要であるが、AIを活用できる優秀な人材の育成も急務である。2023年末に行われたIIT Bombay Techfestのような優秀な人材の発掘に日本は力を入れるべきである。日本を守ることができるのは日本しかいない。大震災を経験した日本だからこそ、最新技術に目を向け、国民の命を守る技術に昇華させて欲しい。
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