見出し画像

災害時の通信インフラ~南海トラフの実情を知る

2024年8月8日午後4時半すぎ、日向灘の深さ31kmを震源とするマグニチュード7.1の地震が発生し、宮崎市の宮崎港で50cmの津波を観測するなど、九州から四国の各地に津波が到達。
また、この地震で宮崎県日南市で震度6弱の揺れを観測したほか震度5強を宮崎県と鹿児島県で観測。この地震を受けて気象庁は南海トラフ地震の想定震源域で大規模地震が発生する可能性がふだんと比べて高まっているとして「南海トラフ地震臨時情報」を発表。

気象庁は、「マグニチュード7以上の地震が発生した後、7日以内にマグニチュード8以上の地震が発生する頻度は数百回に1回程度だとしたうえで必ず巨大地震が発生することを伝えるものではない」としており、過剰な不安をもつことは避けるべきだと思いますが、「南海トラフ」という単語を目にするとどうしても不安が募る人は多いだろう。

「南海トラフ」とは、駿河湾から遠州灘、熊野灘、紀伊半島の南側の海域及び土佐湾を経て日向灘沖までのフィリピン海プレート及びユーラシアプレートが接する海底の溝状の地形を形成する区域のこと。静岡県から九州まで続く太平洋側にある溝と思ってください。

南海トラフ沿いのプレート境界では、

① 陸側のユーラシアプレートの下に海側のフィリピン海プレートが1年あたり3~5cmの速度で沈み込んでいる。
② その際、プレートの境界が強く固着して、陸側のプレートが地下に引きずり込まれ、ひずみが蓄積される。
③ 陸側のプレートが引きずり込みに耐えられなくなり、限界に達して跳ね上がることで地震が発生。

これが「南海トラフ地震」。①→②→③の状態が繰り返されるため、南海トラフ地震は繰り返し発生する。

南海トラフ地震の過去事例を見てみると、南海トラフ全体の跳ね上がりによる地震の「全割れ」だけでなく、東側の半分(静岡県から和歌山県付近)だけや西側の半分(四国から九州付近)だけが跳ね上がることで起こる地震の「半割れ」がある。東側か西側の一方で半割れが起こると、まだ動いていない方でも時間差で地震が発生する。

半割れのケースで怖いのは、地震や津波で大きな被害が出ている地域の救出や支援、復旧活動をしている間に、被害が出ていなかった別の地域でも地震が発生することだ。実はこの「半割れ」、過去の歴史でも頻発していることが、国や専門家などが警戒を呼びかけている所以でもある。

過去に南海トラフで発生した大規模な地震は記録によると白鳳(天武)地震(684年)が最古。記録にある大規模な地震だけで13回発生している。

科学的な検証もない古いものも多いので、比較的、確実性の高い直近300年ほどを見てみると
・1707年「宝永地震」(全割れ)
・1854年「安政東海地震」(半割れ)
・1854年「安政南海地震」(半割れ)
・1944年「昭和東南海地震」(半割れ)
・1946年「昭和南海地震」(半割れ)
と5件中4件が半割れになっている。

半割れの地震が連続する傾向にあることは過去の事例を見ても分かるが、半割れの地震が連続する可能性はどの程度あるのだろうか。

東北大学の研究グループが、南海トラフで先にマグニチュード8.0以上の地震(先発地震)が起きたあとに、同程度の地震(後発地震)が起きる確率が「平時よりどれだけ高まっているか」示した算出データを発表している。

6時間以内に連続して大地震が発生する確率は1.0%~53%で平時に比べて1300倍から70000倍になる。12時間以内では1.3%から60%で平時に比べて860倍から40000倍、1日以内では1.4%から64%で平時に比べて460倍から21000倍、1週間以内では2.1%から77%で平時に比べて99倍から3600倍となる。

このデータの中で着目すべき点は、平時と比べた確率利得(〇倍の部分)が先発地震からの経過時間が短いほど高いことだ。確率利得が高いということは、平時よりも連続した地震が起こり易いことを意味しているので、他の大規模地震と比べて、短時間で連続発生することが半割れの地震の特徴であると読み取れる。

歴史的なデータだけでなく、最新の研究でも南海トラフでは半割れの地震が連続的に発生し易いことが分かってきているが、一般の国民がこの特徴をどれだけ理解しているかと思うと不安になる。(そこで、このnoteを書くことにした。)

気象庁を中心に南海トラフ地震に関する情報を頻繁に提示されているで、他人事と思わず情報だけは頭に入れていく必要はあると思う。

大地震のような災害時の備えとして備蓄などもあるが、緊急時の通信環境についても知っておくことが必要だ。家族や友人などの安否確認をしたくても電話網が混線して使えないときにどうするのか。緊急時にどのようなサービスが使えるのか。ネット全盛の現代、緊急時の通信環境についてまとめてみたい。

地震などの大きな災害が発生すると、被災地への電話が大量に殺到し、回線が大変混雑し、繋がり難くくなる。東日本大震災の直後も、携帯電話事業者によっては、最大で平常時の約50~60倍以上の通話が一時的に集中した。通信各社では、こうした通信の混雑の影響を避けながら、家族や知人との間での安否の確認や避難場所の連絡等をスムーズに行うため、固定電話・携帯電話・インターネットによって、次の「災害用伝言サービス」を提供している。

1. 災害用伝言ダイヤル(171)
災害時に、固定電話、携帯電話・PHS等の電話番号宛に安否情報(伝言)を音声で録音(登録)し、全国からその音声を再生(確認)することができる。

2. 災害用伝言版
携帯電話・PHSのインターネット接続機能で、被災地の方が伝言を文字によって登録し、携帯電話・PHS番号をもとにして全国から伝言を確認できる。災害時は各社の公式サイトのトップ画面に災害用伝言板の案内が表示される。

3. 災害用伝言板(web171)
パソコンやスマートフォン等から固定電話や携帯電話の電話番号を入力して安否情報(伝言)の登録、確認を行うことができる。

この3つは以前からあるサービスだが、災害伝言板やweb171は電話回線ではなくいネット環境を利用するので、電話が混線しているときの手段としては押さえておくべき。

最近ではスマホを災害時に持ち出すように政府も促しているので、スマホで利用できる緊急時通信について、LINEを忘れてはいけない。2011年6月に誕生したLINEは、東日本大震災で大切な人と連絡が取れなかった経験を元に、スマホで大切な人とつながるコミュニケーションアプリとして生まれたので、災害時にこそ力を発揮する。緊急時のLINEの活用方法をいくつかご紹介。

1. 震度6以上などの大規模な災害が起こった際に、ホームタブに赤枠の「LINE安否確認」が出現する。タップするだけで友だちに状況を共有することができる。

2. 自分の住む地域をLINEに登録すると、その地域の災害情報をLINEのトークで受け取ることができる。「Yahoo!防災速報」と連携し、「避難情報」「地震情報」「津波予報」「気象警報」など9つの防災速報に対応し、メッセージから速報の詳細を確認するこ
とができる。国内最大3地点まで登録できるので、勤務先や家族が住む地域の情報も受け取れるので、ぜひ登録をおすすめする。

3. アナウンス機能を使うと、指定したメッセージをトーク画面の上部に固定表示することができる。 集合時間や待ち合わせ場所、非常時用の荷物の場所など、一定期間目立たせておきたい情報はアナウンス機能を活用できる。

4. 具体的な集合場所を指定するときや、被害状況を共有するときなど、 言葉だけで表現しきれないものは写真や位置情報を送ることで相手に伝わりやすくなる。スマホのGPS機能をONにしていれば、自分の居場所を表示してそのままトークに送ることができる。通常はGPSをOFFにしている人も緊急時はONにすることをお勧め。

5. 大人数のグループでは、位置情報や近辺の写真を一度に送れるノートを活用するとトークが埋もれずに状況を伝えることができる。ノートの内容に対してコメントをすれば、投稿内容と一緒にみんなの返信を確認することができる。

普段使っているLINEが災害時を想定したアプリ。緊急時にこそスマホを活用して安全に非難をしてください。

南海トラフ巨大地震の発生は決して遠い未来の話ではない。歴史的に見ても、100年から150年の周期で南海トラフ巨大地震は発生している。最後に起きた1946年「昭和南海地震」から2024年で88年目になり、巨大地震の周期に入る時期になっている。この周期も歴史的な統計として算出されたもので、南海トラフに溜まるエネルギー周期のようなものだから、過去の巨大地震発生時のエネルギーを100とした場合、エネルギーが90しか溜まっていなくても地震を発生することもあるし、120も溜まっていても地震を発生しないこともある。幅はあるがプレートの移動が続いている限り、巨大地震発生のいずれ周期に入ることは間違いない。

気象庁は、今回の宮崎県の地震は南海トラフの最西端で発生しており、「一部割れ」と判断している。一部割れでは大規模な地震が続発する頻度は数百回に1回程度とみられるが、2011年の東日本大震災では、本震の2日前に、マグニチュード7.3の地震が同じ領域で起きていて、この事例にあたるという事だ。

確率は低いかもしれないが、前例があるだけに、今回の一部割れを軽視してはいけないかもしれない。地震大国に住む日本国民として、今一度、防災について考え、できるだけ万全に備える機会にしたい。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?