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永井優香選手インタビュー2020

12月も半ば。スケートシーズン真っただ中!のはずですが、今季はいろいろとままならぬシーズンになっています。

そんな折、今シーズンも、永井優香選手にお話をうかがいました。今、大学4年生。春からの就職先も決まり、スケーターとしてのラストシーズンをすごしています。

東日本選手権でのこと、スケートをつづけてきたわけなど、いろいろなお話をうかがいました。全日本選手権前に、ぜひお読みいただけたらと思います。(インタビューは、2020年11月末に行いました。)

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―引退シーズンの今季は、コロナウイルスの関係で大会も少なかったですよね。

今年は試合が少なくて、まだ3試合です。
東京ブロックと東日本と都民大会。今シーズンは最後なので、万全な状態にして全試合楽しんで滑ろうと思っていたんですけど、シーズンが始まってみたら意外とそんな余裕はなくて(笑)、目の前の試合をどうにかしていこうという気持ちで滑っています。
だから、いつもの年と変わらないですね。

―今年のSP『エリザベート』はお母さまの好きな曲で、最後だからお母さまの好きな曲もいいな、と選曲したという記事を読みました。
それを見て、関係ない私もちょっと泣きましたが、お母さまはどんな反応でしたか?

母も選曲理由を知っているはずなのに、その記事を見て泣いていて。まあ、「また泣いてるな」って思ったくらいです。すみません、実情はそんな感じで(苦笑)。
私も母も涙もろくて、涙腺緩すぎるから。本当はこの曲を昨季のフリーにしようと思っていたんですけど、フリーで使うのには編曲が難しかったので、今季のSPになりました。

―大学3年生の初夏には、「4年生で使う曲はなんとなく決めている」って言っていたけれど、それが、『エリザベート』でした?

それは、今季のフリーのほうです。『エデンの東』ですね。

―『エデンの東』は、ジュニア時代、ぐいぐいといい演技を見せていった14-15シーズンのSPで使っていたので、引退の年のフリーでも、ということですよね。

そうですね。
それに自分の好きな曲ですし、みなさんにも気に入っていただけるといいなと思って選びました。

―当時の『エデンの東』で、一番好きな演技は?

ジュニアGPファイナルかなと思っていたし、実際にたぶんあれが一番気に入ってはいるんですけど、先日、初めてあのシーズンの全日本ジュニアの演技を見たんですね。
そしたら、結構がんばって滑っていました。ノーミスでしたし。

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―さて、コロナ禍の今季、永井選手の出場した3大会はいずれも無観客で開催されましたけれど、無観客試合で滑るのって、どんな感じでしたか?

拍手はちょっとあるけど、「がんばれー!」って声がないのは少し変な感じでした。
ただ、思ったよりはできるなとも思いましたね。
たしかに会場に応援の声はないけれど、試合の前にメッセージをいただいたりしましたし、ファンの方からは、「家でバナー振って、みんなで応援しているからね」みたいな連絡をいただいたりもしていたので、そう想像したらちょっとおもしろくなってきて、「ここに皆さんはいないけど、私は1人じゃないし」って思って、変わらずがんばらなきゃいけないなと思えたので、私は大丈夫でした。

―東京ブロックは優勝(SP1位、フリー1位)。
その次の東日本選手権についてですが、SPのジャンプ2つがミス(1つは「q判定」、もう1つは手をついてコンビネーションならず)に。
あのSPのこと、覚えていますか?

はい。1本目のジャンプの前からジャンプが怖かったんです。
「降りるか降りないか」ではなくて、「締まるか締まらないか」だったので、「ちゃんと締めなきゃ締めなきゃ」と思っていたら、ああなっていました。
2本失敗した後のダブルアクセルはすごく怖かったんですけど、「2回転半まわるだけなんだから、ちゃんと回れー」って思って。
ステップでも、重心が全然下に落ちなくて、滑るのがすごく難しかったので、「転ばないようにしなくちゃ」と一歩一歩意識して、無我夢中という感じでした。
すごいスケート下手だなーって思いながら滑っていました(苦笑)。

―重心が下に行かない感じ?

滑り始めの1歩目から、「あー、ちがう」って思ってしまって、全然乗らない感じだったんです。
あとで動画を見たら、意外と普通に滑れてるじゃんって思ったんですけど、滑っているときにはすごく違和感があって。
でも、そういう状況でも滑らないといけないから、必死でした。

―フリーでは、1本目のルッツでパンクしたけれど、後半にもう一度ルッツに挑んでトリプルを決めましたよね。気持ちよかったです。

あのフリーでは、最初のトリプルルッツだけ失敗してそのあとは全部締められていたんですけど、練習では後半のジャンプを締めるのが難しかったので、本番で滑りながら、「次、(トリプルルッツの予定だけど)ダブルにしようかな」って思ったんです。
でも、「ここで落ちたら(注:全日本選手権進出を逃したら)挑戦しないで終わっちゃうことになる。それだったら挑戦して、失敗してもいいからとにかく回ってしまえ」と思ったら意外と回って降りて(笑)。
でも、本番だけ突然跳ぶなんて、普段は手を抜いている人みたいで恥ずかしいですよね。そうしたいわけじゃないんですけど。
とにかく自信もなくて、失敗するのが普通くらいの感覚だったんですけど、それはつまり失うものがないってことだと滑っている最中に思って、逆にそれでいい方向に変換できました。

―滑りながら、いろいろ考えているんですね。

すごく考えていました。真顔でしたよ(笑)。
シーズンが始まる前は、「去年はルッツ1本構成だったから次は2本にしてレベルアップしよう」ってやる気満々だったけど、でもいざシーズンがはじまってみたら全然できなくて、でもプログラムは作ってしまっていたから、後半のあそこがルッツのままなんですよね。

―東京ブロックの時は、その、後半のルッツのところは、ダブルルッツで。

ダブルでした。
ただ、ルッツはダブルにしたんですけど、前半でアクセルがシングルになってしまっていたので、「よし、じゃあ、ダブルアクセル+トリプルトウループをやってみるか」って、次のトリプルループのところを変えてみたら、意外と降りて。

なので今シーズンは、奇跡を起こしてるんですよ(笑)。
練習であまりジャンプはできていなかったんですけど。できなくて練習している時間というのも一応練習している時間ではあるし、むしろ、ちゃんと練習できているときよりも気持ち的にはつらいけどがんばっているんだから、まあどうにかなるっしょって思って、ピッてやってみました!

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―今シーズンだけじゃなくてこれまでのスケートキャリアのすべてが、そういう究極の瞬間の何かに発揮されているのかもしれないですよね。そして、もう次は、全日本選手権!

(インタビューは、全日本1か月前の時点。)実感は、まだわかないですね。
全日本は楽しみだなーって思っています。
まだまだ整っていないので、がんばろうっていう感じです。

―全日本初出場の2014年も長野、最後の今年も長野ですね。

はい。だから出たいなって思っていました。

―毎回永井さんは、「全日本、出たいな」という感じですよね。
失礼ながら私の個人的な感覚ですが、永井さんは当たり前に全日本に出られるもの、みたいな気持ちで見ているところがあって、この感覚のギャップにいつも驚きます。

いやいや、ありがとうございます。
でも本当にそんなんじゃないんですよ、本当に。
いつも余裕なんてまったくないんです。

―選手の思いとは、そういうものなんですね。
全日本に出るためには東日本選手権がとても大事になりますが、万が一、東日本選手権で何かがあったら全日本に行けない、っていう厳しさのようなものは感じましたか?

はい、そういう思い、ありますね。
今年は(枠も「9人+シード選手」と多かったので)、普通にやれば行けるかなとは思っていましたが、その「普通にやる」っていうことが練習でできていなかったのでまずいなと思って。
でも、「試合の緊張感のなかだったらワンチャンできるかもしれない」とか、「諦めたら終わりだから、どんな姿になってもいいから最後まで滑りきろう」って思っていました。

東日本のフリー、1本目のジャンプでパンクしたんですけど、その時、「あ、私、この後のジャンプ、パンクしたら試合が終わる」って思ったんです。
それに、このフリーの目標が、「最後まで諦めずに滑りきること」だったので、「どうなってもいいから無我夢中で滑ろう」って思いました。脚がすくみそうになったんですけど、それに「はっ!」と気がついたので、気持ちをもとに戻して、ジャンプを跳びました。
2本目のジャンプは、はっ!となったおかげでぎりぎり跳べて。
そのあともジャンプが跳べていくうちに、なんか、だんだん足を出す場所とかがわかってきたんですね。
3本目のジャンプくらいから。

―いわゆる「ゾーン」みたいな感じ?

ゾーンなのかわからないですけど、すごく究極な感じで、ジャンプを跳ぶときにすごくスローリーに感じられて、「ここに足を出すんだな」とか、「ここに足を振り上げたら跳べるんだな」とかいうのがわかって、気づいたら終わっていました。

―いままで、そういう感覚を感じたことは?

(今回のように)感じたわけではないけど、何回かあります。
一番びっくりしたのは、高3の時のスケートカナダのフリーです。
あのときもすごく跳べなくて、SPがひどくて、国際試合で何してるんだろうって思っていました。
フリーを滑りたくなさすぎて、ずっと部屋で泣いて本当に消えたいって思っていたんです。
そんな魂が抜けた状態でフリーを滑り始めたら、いつのまにか全部ぽんぽん跳べていました。
回転不足とかオーバーターンとかはあったんですけど、あの時期の練習のことを考えると、すごい奇跡を起こしていたんですね。

ノービスの頃にも、1回そういうことがあったんです。
初めてSPとフリーをやったとき(注:ノービスはSPがない)に、SPの演技がダメすぎて、おしりも痛いしフリーは滑りたくないってすごく落ち込んでいたんですけど、フリーではほとんどノーミスでできました。

たぶん、がくんと落ちないとできないんですよねー。
自分がわからない(笑)。
わからないんですけど、何をやるかわからないからこそ(いいことをやるかもしれない)、というのはありますね。

―そうであれば、もしも全日本のSPで失敗してしまったとしても、フリーではすごい演技になるかも、と思えますよね。

でも、難しいですやっぱり。
納得のいく終わり方ができる人なんて本当に一握りですし。

―以前、バトルとランビエルの対談で引退について聞いたことがあるんですけど、ランビエルは「ジェフはキャリアをすごくいい形で終えられて、僕もそんな風にしたかったけれど、みんなそれまでの人生が同じじゃないように、スケーターとしての終わり方もそれぞれ。2人とも素晴らしいキャリアを手にしてきたよね」って言っていて、バトルも「母に「その決断は、本当に正しくて本当に自分の望んでいることなの?」と聞かれたよ」と言っていました。
2人とも自分の中での満足や手ごたえのようなものを引退の指針にした、というようなことを言っていたことを思い出しました。
(※)このインタビューは2009年1月のものなので、ランビエルの1回目の引退後、復帰の前、という時期でした。詳細は『フィギュアスケートDays vol.9』に。

さすが、深いですね。
もちろんきれいに終われたほうが気持ちいいですけど、やりきったと思えれば。もう本当に無理だ、って思えるまでやれれば、悔いは残るかもしれないけど、いいかな、と。

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―就活はいかがでしたか?

就活のなかで、「なぜ働くのか」とか「なぜ就活するのか」とか、本質的なことを考える時間が増えて、「なんでスケートやってきたんだろう」とかも考えたんですよね。
そういう本質的なことを考えてしっかりしていったら、ちょっと道に迷っても戻ってこられるかなと思って。

―なんでスケートをやってきたの?

理由は1つじゃないから難しいし、その時その時で変わるんですけど、たとえば失敗しまくって落ち込んでもなぜスケートをやめないのかって考えてみると、ひとつは、自分が負けてそのままやめていくのは悔しいからっていうのもあります。

ただ、なんで悔しいのかって考えてみると、いろいろな人に応援してもらってやってきたから、その人たちの時間とか労力とかを裏切ってしまうような気がして悔しいから、だと思ったんです。
だからどんな形であれ、結果がどうなるかわからなくても、放り出すのはよくないと思って続けてるんだなーって。

なんで試合で結果を出したりいい演技をしたりしたいって思うんだろうって考えると、別に優勝したいわけじゃないんですよ。
もちろん優勝したらすごく嬉しいですけど、優勝は手段にすぎなくて、その先で誰かが喜んでくれたり、何かに挑戦する勇気を感じてもらったりしたほうが私は嬉しいなと思ったんです。

優勝することやいい演技をすることは手段で、目的は、周りの人が喜んでくれたりとか、お世話になった人たちが「君に時間をかけてよかったよ」と思ってくれたりすること。
そうなれば、私は嬉しいなと思って。そういうことを改めて整理してみました。ちゃんと考えておいたほうがいいな、と思ったんです。

―すごくいいお話だし、労力と時間のところが永井さんらしい(笑)。
そういうところが、すごくおもしろいし、いいなあと思います。

スケートって、本当にお金がかかるじゃないですか。
親にもすごくお金をかけてもらってきているのはわかっているし、母には毎日、朝練に送ってもらっていて。
それって、ものすごい労力ですし。

―たしかにそうだけど、お母さまにとっては、労力というよりは、楽しかったり嬉しかったりすることかもしれないですよね。

母は、「あなたがやるんだったら、全然いい」って言ってくれていますけど。
前に鈴木明子さんに振付けしてもらった帰りに話したら、あっこさんも自分のためにやってもらっているからがんばらないといけないと思う性格だって言っていて、ソチ五輪前のことなどいろいろ教えてもらいました。
すごくいいお話だったから、忘れないようにしよう、って思ったんです。

―引退後は、スケート関連はひとまずお休み?

仕事がどれくらい忙しいかわからないので。
スケートに関われるかどうかわからないけど、とりあえずまずはスケオタさんになろうかな、と思ってます。

―スケオタ(笑)?

はい、ふふふふ、応援する側に。スケート見るのが好きなので。
まずは東伏見のリンクの後輩たちを応援します。
全日本ジュニアはほぼ全部、全日本ノービスもわりと見てたんですけど、いまのうちからちゃんと推しを見つけておかないとと思って(笑)。
中田先生の息子さんの中田璃士くんが全日本ノービスAで優勝したので、璃士くんも応援しようと思っています。もう、してますけど(笑)。

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以上、全日本選手権1か月前の段階でのインタビューでした。
とても明るく楽しい時間でした。
インタビュー時点の永井選手は、全日本選手権とインカレ代替試合(フリーのみ)に出場予定でしたが、先日、インカレ代替試合も開催が見送られています。
もともと目標にしてきた試合ではあるけれど、全日本選手権が、現役最後の試合になるかもしれません。

そうした状況になった12月半ば、改めて永井選手に、全日本選手権への意気込みをうかがいました。
「一瞬一瞬を大切にして向かいます。」
とのこと。

今シーズンは、だれにとっても思いもしないシーズンになっています。
シーズンオフにはリンクが閉鎖されて練習ができず、リンク再開後も大会中止が相次ぎ、関係者の尽力によってなんとか開催されたものも、多くが無観客大会になりました。そんなシーズンです。

「もしかしたら、スケートキャリアの最後の試合になるかもしれない」という思いを抱いて全日本選手権に臨む選手たちすべてに、思いのすべてをリンクで見せられますように、という思いでいます。

▶これまでの永井選手のインタビュー
 ●永井優香選手 インタビュー 2019
 ●永井優香選手インタビュー2017(1)永井優香選手インタビュー2017(2)






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