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ロシアのテストスケートに思う。2021年初秋。

今年も、ロシアのテストスケートを楽しく見た。

まずは、トゥルソワの5つの4回転に、度肝を抜かれる。いやいや、すごい人だとは思っていたけれど、本当にここまで来ましたかーという思いとともに、ここ数年の彼女の心のうちを勝手に想像する。

ジュニア時代はもっとも注目される選手で、その後さまざまあり、シニア2季目の昨シーズンは思うような結果が残せたわけではなく(初出場の世界選手権は3位だったけれどきっと思うような結果ではなかったのではないかと想像)、オフに再びエテリ先生のところに戻った。
…というような事実を思い出すと、そうとうに悔しい思いをしてきたけれど、腐らず、それを5つの4回転への原動力にしたのね、と勝手に想像が膨らみに膨らんでいき、感激した。

悔しさを乗り越えてきた、といえば、コストルナヤのトリプルアクセルにも胸打たれた。彼女たちの同期であり現世界チャンピオンであるシェルバコワのことも想像した。4年に一度の五輪で優勝するのには、実力はもちろんのこと、運やタイミングも不可欠であり、シェルバコワのスケートからは、今の自分にはそれがあることをきちんと理解していて、17年の人生のなかのこの数か月に賭けている、という思いが伝わってきたような気がした。すべて私の想像だけど。

五輪優勝の運やタイミングのことをもっとも知っているのは、きっとトゥクタミシェワだろう、とまたまた想像を膨らませる。
過去2回、出場のチャンスはあった。2015年には世界チャンピオンにもなっている。だが、怪我などから五輪にはまだ出場していない。
どんな思いで、この8年を、いや10年以上を過ごしてきたのかなと想像。インタビューなどでは五輪に出たい気持ちを話したりしているけれど、本当の本当の思いは、私たちにはわからない。

でも、わかることもある。リーザのスケートは、試合でもテストスケートでもアイスショーでも、いつも楽しそうだ。
ああ、スケートを、スケーターである自分を肯定して楽しんでいるんだろうなという思いは、私を幸せにしてくれる。
スケートには人となりが出る、とはよく言われる。リーザの演技からは、戦いだけではない、スケートを好きだという柔らかさと強さがにじみ出ているように見える。

そういえば、メドベージェワの演技からもここ数年、思いとか深まりのようなものが感じられたなと思い出す。
平昌五輪までの彼女は少女だったけれど、このところ、情感のようなものが見えつつあった。アイスショーでペアを試したりしているようだけど、どうなるだろう、この先を見たい。

気づけば、平昌五輪に出場したロシア(OAR)の女子3人は皆、このテストスケートに出場していない。それはつまり、3人とも北京五輪に出場しないということになる。
ソツコワ(現在21歳)は去年引退を発表したし、ザギトワ(現在19歳)は競技とは距離を置いているし。
平昌五輪のころはルールが今とは違っていたけれど、ザギトワはショートもフリーも全部ジャンプを後半にして、1.1倍にする作戦で、それを実際にやりぬいたことも思い出す。
ちなみにエテリ組は現在、ショートではほぼ全員が後半の最後のジャンプ(1.1倍になる)をコンビネーションにしている。そういうところ、一点の曇りもない青空のようで、直視できないほどまぶしく、強く、清々しい。

ザギトワといえば、18年12月のGPファイナルでインタビューした時に、スマホの画面を見せてくれた。そこには、北京五輪のエンブレムがどーんとあった。時々思い出す。

ロシアのテストスケートに出場した女子選手はみんな若いのだけど、その中でも現在15歳のワリエワは飛びぬけて若く見える。動きが若い、というよりは、勢いの強さが若い。平昌五輪シーズンのザギトワにも、19-20シーズンのコストルナヤ(当時16歳)にも、同じような勢いを感じた。だれにも止められない勢い。
ワリエワは今年、シニアに本格デビューする。平昌五輪で優勝した時、ザギトワは15歳で、やはりシニアデビューシーズンだったな、と思ったり。

そして今回、トゥルソワからもうひとつ衝撃を受けた。
これまでは、細くて、しなやかというよりはまだ軸がふにゃふにゃ(とはいっても、あんなジャンプを跳ぶので、体幹の強さはすごい)に見えた身体だったけれど、テストスケートに出てきたトゥルソワは、素敵に強そうな筋肉がいい感じについた、かっこいいアスリート女子になっていた。筋肉についての知識不足のため、こんなざっくり表現なのが、恥ずかしい。
さらに、髪の毛を赤く染めたこと、お化粧もしっかり濃いめになったこと……そうしたすべてが相まって、情感たっぷりの情念の女、風な方向に歩みだした、というかすでに数歩進んでいるように見えて、驚いた。

なんというか、トゥルソワは、すごいジャンプをバンバン跳ぶけどシャイな女子という印象(単に、はにかみながら笑うところから。あくまでも、私の偏った印象です)だったのが、酸いも甘いも(少々)知った、心身ともに強くしなやかな女になったような感覚。最後に見たのは世界選手権。あれから半年しか経っていないし、同じ人なのはもちろんわかるけれど、なんというか、いい意味での貫禄が出たというか……それは、スケートへの、そして自分自身への確固たる自信の表れなのかな、とも思ったり。

赤毛なのと、肩の筋肉の盛り上がり具合、濃いアイメイクなどから、「一瞬、アニシナ?と錯覚する」ということが、5,6回あった。どうなるのかなこの先。

女子のことしか書いていないけれど、男子もペアもアイスダンスも、こんな風にあれこれと思いめぐらせながら見た。本当に楽しい。
純粋に想像したり妄想したりできるのは、まだ本格的な試合シーズン前で、新しいプログラムや衣装を見る喜びもあるからだと思ってきたのだけど、今回、テストスケートを見つつ妄想しながら、いや、それだけでもないのかもしれない、と気づいたような気もする。

「テストスケート」というイベントの立ち位置が、大変に絶妙だ。
ちゃんとした会場で、観客も入って(席は1つおきになっている模様)、選手たちは衣装も着て、6分練習もする。まったく試合のようだ。
だけど、ひとつだけ違うことがある。それは、点数が出ないということ。だから、順位も出ない。
採点されるとどうしても、回転不足が、とか、あのGOEは、ということも気になってしまうし、選手たちも、「あの子に勝った、負けた」ということが気になるかもしれない。
点数が出ないテストスケートでは、私たち観客も、選手と演技(そしてちょっとコーチたちのことも)だけを見た。

まもなく、本格的にシーズンが幕明ける。毎週のようにいろいろな大会が開催される。
ただ、そうした大会を、テストスケートのような心持ちで楽しむことは、たぶん、できない。

でも、スケートの楽しみ方はそれぞれにあり、ジュニアGPにはジュニアGPの、チャレンジャーシリーズにはチャレンジャーシリーズの楽しさがある。
秋が深まると、GPシリーズが始まるし、それに続くブロック大会も、東西日本も、全日本も、各国選手権も、ユニバも、インカレも、インターハイも、国体も、全中も、ユーロも、四大陸(一昨日、天津での四大陸が中止になり、代替地がどうなるのか心配だけど)も、五輪も、世界ジュニアも、世界選手権も、アイスショーも、スケートはいつだって、楽しい。




(ここからは、あとがきです。)


といいつつ正直に書くと、


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