はなのみち計画
花の種には、とても細かいものがある。
私は植物が好きなのでよく種蒔き作業をするのだが、毎度毎度、新鮮な気持ちで種という摩訶不思議な物体に驚いている。
こんなに小さな粒々から、大きな葉や色とりどりの花が広がっていくなんて誰が想像できるだろう。
こんな小さな玉手箱(種?)を設計して毎年ばら撒いている自然のオシャレさには感服である。
特に、ハーブの種の細かさには目を見張る。
小さすぎて見張っても見えないレベルまである。
大きさを例えるなら、米粒を十分の一にしたくらいの規模感の世界である。
カモミールというハーブの花があるが、それなんてもう単体で見ると種というよりホコリではないかと思うくらいに細かい。
ここからあの可愛らしい芽が出て花が咲くと思うと楽しみで、いてもたってもいられず蒔き蒔きしてしまう。
そんな風に今季の種蒔き作業を終えてから数日後、いつも履いているスニーカーの靴底に穴が開いているのを発見した。
私は普段そのスニーカーばかり履くので、擦り切れるときは基本大胆に穴が開いたり破けたりする。
その靴底のインソールの穴を見て、ふと思った。
この穴の部分に、この前の種、入るんじゃない?
靴底の穴はまだそこまで大きくない。よく目を凝らしてみないとわからないような極小の穴だ。
そこに花の種をたくさん詰めておけば、歩行の衝撃で少しずつ種が出て、歩くだけで自動で種蒔きができるのではないだろうか?
私は靴底に花の種を装填する、自分の姿を想像する。
花の咲くハーブの種は、たくさんある。
例えばラベンダー、カモミール、ローズマリー。
ヤグルマギクやゼラニウムなんかも素敵だ。
自分の好きな花の種を靴底に詰め込んで歩く。歩いているだけで靴から種が溢れ、運良く雨が降れば道からいつか芽が出て、花が咲くかもしれない。
毎日歩いている道は、日を追うごとに私の蒔いた種でいっぱいになる。
私だけじゃない。
人類みんながその「種の靴」を履くようになったらどうだろう?
たくさん人が歩くところは種が溢れ、数か月後には街中花畑になっているかもしれない。
東京や大阪の大都会の歩道が、お花まみれになっているのを想像する。
自分の蒔いた種が毎日すくすく育っていたら、仕事に行くために歩くのだってきっと楽しい。
人々はみんな美しい植物を見て癒され、素敵な香りの中を微笑ましい気持ちで歩くに違いない。
そんなことになったら、歩くところがなくなってしまうけどね。
と、思い私は我に返る。
歩くたびにいろんな場所を花まみれにしたら、それはもうテロである。
花テロ罪を犯してしまわなくてよかったと思いながら、私は今日もすくすくと育っていくハーブたちを見守るのだった。