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短編小説「魚になった女」

遠く、遠く、後ろの方で。海猫の小さく鳴く声がした。

足元には龍の髭が、砂の上へ弧を描いて揺れていた。

私は白い足でそっと地面を蹴って、海の中へ落ちて行った。


 気づいた時から彼女は魚だった。体は鱗にびっしりと覆われ、小さなヒレと、柔らかに動く尾ヒレで波間を泳いでいた。エラで静かに呼吸をしながら、海の深く深い底までも泳いだ。色というものはわからなかった。深い青と、緑と、月明かりがわかる程度だった。明りを頼りに、自分よりも小さな魚を食べ、大きな魚が来たら身を隠し、ゆらゆらと、空腹を満たす為だけに彼女は泳いでいた。

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