シェア
大村仁望
2020年8月6日 21:57
遠く、遠く、後ろの方で。海猫の小さく鳴く声がした。足元には龍の髭が、砂の上へ弧を描いて揺れていた。私は白い足でそっと地面を蹴って、海の中へ落ちて行った。 気づいた時から彼女は魚だった。体は鱗にびっしりと覆われ、小さなヒレと、柔らかに動く尾ヒレで波間を泳いでいた。エラで静かに呼吸をしながら、海の深く深い底までも泳いだ。色というものはわからなかった。深い青と、緑と、月明かりがわかる程度だっ