感染症対策マニアが、新型コロナについて雑に語る⑥ 「武漢での初動②」

中国は、武漢で新型コロナウイルスが発生した初動の段階で、どう対処するべきだったのか②


前回、中国による新型コロナウイルスが発生した初動の対応は、前半は最悪、後半は最善、という話をしました。


今回は、その後半は最善、とはどういうことなのかについてお話をします。


中国が後半に行った政策として最善だったと考えられるもの、それは都市封鎖、最近よく言われているところのロックダウン、というやつです。


「え?それなら今他にもたくさんの国がやっていることだから、別段最善だとは言えないんじゃないの?」


と、思われるかもしれませんが、ロックダウンをする上で重要なことは、早さ、なのです。


今ヨーロッパの各国が行っているように、感染拡大期に入ってから行うロックダウンは、意味が無いとまでは言いませんが、効果としては薄いのです。


人間の身体に例えて言うなら、組織の一部が壊死を起こしてしまった時、その壊死が広がらないように、身体の一部を切断することがありますが、腕の肘まで壊死してしまったから、肘から下を切断しようという判断では、もう既に肘から上の細胞まで壊死が隠れて進んでいて、結局手遅れになってしまう、という場合が多いです。


そうではなくて、指の一部が壊死したから、肘から下を切り落とす、そういう判断が本当は求められるのですが、今回の新型コロナ対策で、その判断ができた国は、私の知る限りでは中国だけです。


1月20日、国民に対して新型コロナウイルスの存在を発表してからわずか3日後、1月23日に、中国は武漢市と、武漢市に続く全ての道路の通行を封鎖する、という、大規模なロックダウンを断行しました。


国民としては全く準備もできていませんし、たまたまその時武漢市に来ていただけの人々も含めて、武漢市に取り残される、という事態に陥りました。


会えなくなった恋人同士が、隔てられているガラスの壁越しにキスをする……なんて悲しい動画も話題になりましたよね。


これはかなりの強硬策であり、そんなことが許されるのか、など、賛否両論があることだとは思うのですが、しかし感染症対策を考える上では、この判断は最も大切なことなのです。


事実、中国国内においては、この強硬なロックダウンにより、武漢市以外の地域では、大規模な感染拡大は起こっておりません(中国が公表しているデータを信頼するなら、ですが)。


また、ロックダウンが強行されたことによって、武漢市自体での感染も収束を見せ、4月8日、武漢市の封鎖は2か月半ぶりに解除されました。


なぜ、早期のロックダウンを行うと、感染の拡大を防ぎ、また収束させることができるのか、少し説明しましょう。


感染が拡大するスピードに影響する最も大きな要因は人口密度であり、感染拡大が持続する長さに影響する最も大きな要因は人口の多さです。


これはどういうことかと言うと、まず、感染症に人類が苦しめられるようになったのはいつからか?という話になります。


人類がまだ、狩りをして、自然に生った木の実や果実を食べ、移動しながら生活をする、狩猟採集民であった頃、実はそれほど感染症に苦しまされることはありませんでした。


なぜなら、狩猟採集民は、一緒に生活する部族の人数もそれほど多くなく、また、広い縄張りに対して、そこを狩りする人数が少ない、つまり、人口密度が低いのです。


すると、何らかの要因で一人の人間が感染症にかかったとしても、近くに人が少ないですから、その感染症が広がっていきにくいのです。


しかし状況が変わるのは、農耕を始めてからです。


農耕を始めると、1年中農地を離れることができませんので、そこで多くの人間が定住することになります。


そこで新たに子どもを殖やし、そこで育てていくので、どんどんと人口密度が上がっていきます。


また、その定住地で家畜を酪農するようにもなり、動物との距離も近くなるので、それまで家畜の間でしか感染しなかった細菌やウイルスが突然変異し、ヒトにも感染するようになります。


その感染症になった時、近くには人がたくさんいるので、感染症はどんどん広がります。


なので、人口密度が高ければ高いほど、感染症は早く蔓延するのです。


また、感染拡大が持続する長さに影響する最も大きな要因は人口の多さだ、というのは、江戸の火消しと同じ原理です。


江戸の町では、火事が起こった時、火消したちは、その火を消しに行くのではなく、火事が起こっている周辺の家を壊しに行ったのです。


周りに燃えるものが無くなったら、火は自然と消えていくしかない、というわけです。


それと同じで、感染症も、これ以上周りに新しく感染できる人間が居なくなったら、自然と終息していくしかないのです。


感染症を起こすウイルスは、基本的には、一度もう感染させた人間には興味がなくなります。


なぜなら人間は、一度感染したウイルスには抗体というのを持ち、もう一度かからないようにできるからです。


抗体については、また後日「イギリスとブラジルの抗体獲得政策は、なぜ失敗に終わるのか?」というタイトルで書くときに詳しく話します。


なので、今の新型コロナウイルスも、早く収束させたければ、感染者の周りにまだ感染していない人が居ない状況を作れば、自然と収束していくのです(もしくは、このまま世界中の人間が新型コロナウイルスに感染し尽くしたとしても、この事態は収束します。いつまでも無限に続くわけではないのです)。


そういう状況を作るために「家に居よう」などという活動をしているわけですね。


そして、そうした状況を作る最も適した方法が、ロックダウンなのです。


武漢市においても、武漢市の外の人間にはどうやっても感染が広がらない状況を作ることができたため、新型コロナウイルスも、まだ感染していなかった武漢市民が居る間は感染を拡大することができましたが、それ以上はどうやっても殖えることができず、自然と収束していかざるを得なかったのです。


そういう理由で、中国ではロックダウンが劇的に効果を上げ、見事に収束に成功しました。


また中国は、世界最多の人口を有しており、また人口密度の高い都市を数多く有する国です。


そんな中国において感染爆発が抑えられたことは、新型コロナウイルスを収束させるためには、非常に大きな意味を持ちます。


また、ロックダウンしたことにより、中国全土の医療を武漢市に集中させることもできました。


それにより、新型コロナウイルスの研究も、すごい速さで進んでいます。


私は、世界各国から発表される、SARS-CoV-2(新型コロナウイルスの正式名称)の最新情報になるべく目を通していますが、やはり中国から発表されるものが一番早いように思います。


また、武漢市という閉じた環境の中で、その住民全員を対象に検査・研究が行えるからこそ分かる事実、例えば、時間の経過による推移や、無症状感染者の割合、感染しない人の特徴など、非常に有益な研究結果を、中国は世界に発信しています(情報に政治的意図が入っていないと信頼しきれないところはあるのですが)。


ロックダウンによる功績は更にもう一つあり、中国は1月25日からは春節といって、日本で言う正月休みが控えていました。


中国の風習では、この春節の時期には里帰りや旅行をするもので、この時期には毎年30億人が移動すると言われています。


1月23日までに既に武漢市を脱出していた人も居たので、そうした人が日本を訪れるなどして、数人の感染者が見つかりましたが、もし、この春節までにロックダウンを強行せずに、1000万人を超える武漢市民が一斉に移動していたら……と考えると、世界の今の状況は、もっともっと惨澹としたものになっていたでしょう。


そう言ったことなどから、中国は「世界は中国に感謝すべきだ」などと言いますし、WHOも、「中国を信頼している」などといったことを言うのです。


WHOの局長が親中派である、ということもあるのかもしれませんが、全く事実無根の忖度をWHOがしているわけではなく、事実として、中国は新型コロナウイルス対策の上に、多大な犠牲を払い(払ったのは政府ではなく国民ですが)、大きく貢献したと言えるのです。


では、本当に世界は中国に感謝すべきなのでしょうか?


これは考え物です。


何故なら、そもそも中国が隠蔽しなければ、これほど大きくなっていなかった、という問題もありますし、前回述べた、中国のやりすぎを新型コロナウイルスが止めてくれたという部分が消えてしまうからです。


これから、欧米諸国は中国に対して一貫した厳しい態度を取っていくべきですし、賠償金も求めるべきでしょう(トランプ大統領が新型コロナを「チャイニーズウイルス」とあえて呼ぶのも、そうした意図があります。あの人はとても頭の切れる方であると私は評価しています)。


しかし、日本はこうした強硬姿勢を取るべきではないと私は考えます。


そうした外交問題に関しては、また後日「日本の水際対策はあれで良かったのか?」という話をする時に詳しく述べます。


さて、本日はここまで。


次回は、時系列は前後しますが、「日本はなぜロックダウンできないのか?~感染症対策と人権~」という話をします。


面白い話ですよ(笑)


こうご期待。

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