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2311_女性のアカデミア進出を妨げているものは何か 女性のアカデミア進出・および活躍について

女性のアカデミア進出・および活躍について 1

ノーベル賞の女性受賞者割合 2

日本の有名な「賞」での女性割合;0% 2

【考察①】受賞者割合における適切な男女比はどこにあるのか? 3

【考察②】研究者キャリアのどこでジェンダーバランスが崩れるのか? 3

【考察③】男女同じ業績の場合、どちらかの性別が優遇されるのか? 4

対策;アファーマティブ・アクション措置の是非 5

おわりに 5

COI 6

References 6

 10月。科学の界隈ではノーベル賞が盛り上がります。
 残念ながら、今年も日本人の受賞はなりませんでしたが、今年のノーベル賞は見ていていつもと明らかに異なるトレンドが明らかになりました。

 それは、「女性受賞者」が光ったという点です。全6つの分野領域において、女性は合計4名が受賞、しかも経済学賞においては、女性が初の単独受賞となりました()。このことはメディアでも取り沙汰されました(2)。
 ということで本日は、アカデミア(研究現場)における女性の進出・活躍について少し考えてみたいと思います。

ノーベル賞の女性受賞者割合

 さて、ではそもそも、ノーベル賞の受賞者の中で、女性受賞者はどのくらいいるのでしょうか。

 このテーマに関連した研究は、実は結構やられています。
 こちらの論文は、化学・経済学・物理学・医学の4分野において、1901年にアワードを開始してから2010年現在までに受賞された人物の合計688名を解析。その結果、女性はわずか20名(ただし、うち1名はキュリー氏で、2回受賞)であることを報告しています()。

 つまり、ノーベル賞の受賞者のうち、女性受賞者は僅か3%程度だということです。
 ちなみに、分野によって男女比に偏りがあることも明らかになっていて、例えば経済学賞だと2%、医学生理学賞だと6%だそうです。

 これは、選考委員会が恣意的にバイアスを導入し、男性を優遇して選考しているのでしょうか。論文の筆者らはそのようには考えていません。(が、ノーベル賞の選考プロセスが匿名であるため完全にこの議論を証明することはできないです。)

 筆者らはそれよりも、キャリア(というか、人生)の段階で必然的に生じてくる、家庭の事情(結婚、出産、育児、その他)や、男女に配分される科学研究費(リソース)の差に一つ説明が行きそうだという話をしています。

日本の有名な「賞」での女性割合;0%

 ノーベル賞受賞者の中で、女性受賞者割合に偏りがあることはわかりました。
 それでは、日本における有名な賞の場合をみてみましょう。日本の研究者が受賞される賞です。

 筆者は、医学・生物学あたりを専攻としています。この分野の中の有名な賞の一つに、「上原賞」という賞があります(3)。

 上原賞は、これまでの受賞者を全員公開しているのですが、こちらのページには受賞者の顔写真つきでプロフィールが掲載されています()。

 平成26年(2014念)までの受賞者ということで、やや古いですが、その時点までの48名の受賞者のうち、ぱっと顔写真を眺めてみると、女性は一人もいません※。

つまり、女性の受賞者割合は、0%です。

 ちなみに、直近2022年までの受賞者(受賞者名、受賞タイトルが公開されている)も筆者のほうでチェックしましたが、名前、プロフィール、英文記事から使われる代名詞(He, Sheなど)をチェックしたところ2022年までを含めても女性の受賞者は一人もいませんでした。

 ※もちろん、LGBTQなども考慮しないといけないですし、顔写真だけでは完全な性別の判断はできないです。また、男女というバイナリーで分けるべきかみたいな議論も残ります。ただ、日本学術振興会賞などは受賞者の性別をバイナリーで公開しているので、ここの議論でも男女の2値で議論を進めます。


【考察①】受賞者割合における適切な男女比はどこにあるのか?

 まず、受賞者の男女比ですが、五分五分であるべきでしょうか。

 極端な話、優れた科学的業績を出すという能力においては、生物学的に男性が圧倒的に優れているということであれば、男女比がそれなりに偏っていてもフェアだといえるでしょう。(筆者自身は、男性のほうがそれほど優れているとは考えていません。例えばの話です。)

 段落冒頭の問いは、受賞者の適切な割合を考えるにおいて、何を母集団としたらいいかということです。
 
 「教授クラスの科学者の女性割合」と比較して、ノーベル賞の受賞者の女性割合低いかどうか?ということだったらある程度比較できそうです。

 さっと調べてみると、日本の大学教員の教授職のうち、女性研究者は2016年時点で15-20%程度だとわかります(56)。だとすると、やっぱり母集団と比較しても、上原賞の受賞者の割合は低そうです(15-20% VS 3%)。

 世界においてはもっと女性進出進んでいそうですし、ノーベル賞の受賞者の受賞者割合もやっぱり低そうです。


【考察②】研究者キャリアのどこでジェンダーバランスが崩れるのか?

 そもそも、「教授クラスの科学者の女性割合20%」というのも、適正なのでしょうか。

 教授選において、女性の科学者が不利を被っている可能性もありますし、科研費など、研究リソースが実は女性よりも男性に分配されがちであるせいで、女性は良い成果(教授選において大事な選考基準)を出しにくい、みたいな可能性もあります。(ちなみに、女性のほうが男性よりも、論文の出版数と特許数が少ないという報告はあります(7)。これがなぜなのかはわかっていません。)

 こうやって考えていくと、もしかすると、キャリアのどこかしらの段階から既にジェンダー格差が生じている可能性もありそうです。

 実際、そのような可能性を示唆する日本の研究が最近、PLOS ONEから発表されました(8)。

 博士課程の学生や、博士取得後比較的すぐ(8年以内くらい?)のポスドク研究者対象の、研究者キャリアとしては若い段階の人を対象とした研究です。日本学術振興会の特別研究員制度というある種フェローシップへの採択率を男女で比較しています。

 この調査では、博士課程の学生向けの「DC1」「DC2」、博士号取得者(ポスドク)が対象の「PD」、海外で研究を行う研究者向けの「海外特別研究員」、産休・育休明けの研究者向けの「RPD」の五つのプログラムで、2017~21年の5年間の採択率を男女別に分析。

 すると、五つのプログラムすべてで統計的にみて女性よりも男性の採択率が高かった上に、学生を対象としたものよりも、博士号取得後のポスドクなどを対象としたものの方が採択率の男女差は大きくなっていることもわかっています

 ただ、どうしてこのようなことが起こるのかはまだ明らかになってはいません。
 
 この特別研究員制度、審査の過程で申請者名はブラインド化されていないので、その点で無意識のバイアスが審査員に起こり得ます。また、例えば指導教員が男子学生により魅力的な研究テーマを与えているなどということが起こっていれば、申請の前の段階で、申請書の内容に差が生まれていることになります。

 そもそも博士号取得についても、2016年時点で女性は30.5%ということです(9)。

 この辺まで考えてみると、そもそも、大学や大学院に進学する段階で、「研究者?労働環境劣悪なうえにお金もらえないって、、。」みたいな考えが女性の間に通説として流れていたら、単なる才能流出が起きているだけということも、考えられます。

 どうしてこんなことになるのでしょうか。


【考察③】男女同じ業績の場合、どちらかの性別が優遇されるのか?

 もうひとつ、ケースを考えてみます。

 仮に、同じ業績(※)を持った特定の2名の研究者(1名は男性、1名は女性)がいて、どちらか1名に賞(または研究費)を与えるとなった場合、性別による優遇はあるのか?ということです。

 (※)「完全に同じ業績」というのは考えられないのですが、例えば同程度の質の論文を、同程度の量発表していて、それによる特許の数(と質)、獲得研究費の総額などがほぼほぼ同一レベルだったと仮定しましょう。

 Natureに発表されたこちらの論文では、「研究チーム」を対象として、そのチームから発生する論文著者や特許の数に男女差があるかということを調べ上げています(10)。その結果、著者として論文に名前が載る割合も、特許保持者についても、男性のほうが有意に名前が載るということがわかっています。

 同じ貢献度であっても、信頼度が違うせいで成果・業績に影響が出てしまっている可能性もあるということです。


対策;アファーマティブ・アクション措置の是非

 色々考えてきましたが、どうもアカデミアでは、あらゆるキャリアの段階で女性が不利を被っていそうな印象です。

 最近、東大が女性限定の教授・准教授ポストとして新たに300名分を計画するなど(11)、男女共同参画を勧めるうえでの措置も取られ始めています。

 個人的にはこうした方針に賛成で、考察③のように、全く同じ業績である場合については、女性を優遇するなどといった是正措置(アファーマティブ・アクション)が考えられてもいいのではないかと思っています。

 と、こんなことを言い出すと、実は男性研究者側から大きな批判が飛んできます。

 「そもそも研究職のポストは競争的なのだから、女性を優遇するなんて逆差別だ!」など。

 こうした議論に対する反論はこちらの記事に概ね筆者は同意します(12)。

 サイエンスというフェアなフィールドでは、(理想としては)業績や成果、または研究提案の内容のみを鑑みていろいろ判定されるべきです。女性優遇措置を施行すれば、「実力もないのに優遇されてしまう女性」はおそらく一定でてくるでしょう。

 けれども、そもそも人間社会の中でサイエンスを営む以上、すなわち、人間が審査を行う限りにおいては、どうしても全てのバイアスが避けられなかったり、候補者/申請者をブラインド化できなかったりする(例:形式として申請書をブラインドしていても、研究内容や学会での交流経験などから、どこどこ研究室の誰々さんのやつだ、というのが書類から類推できてしまいます)といった影響は避けられません。

 やはり現実問題として、業績や内容だけで評価するというのは不可能のように思います。

 それに、男性陣は、そもそも今まで高い下駄を履いてきたのではないでしょうか。

 今でこそ、日本の大学教員の教授職のうち、女性研究者は2016年時点で15-20%程度となってきていますが、2000年時点での女性割合はたったの7.9%です(6).

 何事も仕事においては人によって適性があるはずで、それは男女でも然り。ここに女性が参画することで、多様な視点が取り入れられたり、女性にこそ適正のある仕事が効率化されたりすることで、アカデミアという社会自体が生み出すアウトプットは大きくなるのではないでしょうか。

 もちろん、アファーマティブ・アクションをとる場合、日本の研究力が最終的に向上するのかどうか、というのはちゃんと測定・評価しないといけないところだと思います。


おわりに

 いろいろ考えてきましたが、こうした女性活躍の話題は非常にセンシティブですし、筆者の中でも、そしておそらく社会の中でもまだコンセンサスの取れていないところが多いと思います。実際、アファーマティブ・アクションこそが最適解かというと、そうではないと考えます。

 本当の男女平等とはどんなところにあるのか、今回の論点を一つ皮切りに、日本のどこかで一つまた議論が進むことを祈ります。

 なお、筆者らのグループでは、こうしたアカデミアにおける女性進出についての調査研究活動を展開しています。興味・関心を抱かれた場合や、今回の記事に対する質問・批判・意見など、是非お気軽にグループ宛に連絡をいただければと思います。

COI

 筆者は本記事執筆時点で、記事の内容とは異なる研究提案によって、日本学術振興会の海外特別研究員制度への採用内定を頂いております。

References

 全てのURLは2023年10月25日現在閲覧済


[1]https://www.nobelprize.org/all-nobel-prizes-2023/

[2] https://toyokeizai.net/articles/-/708149

[3] https://www.nature.com/articles/s41599-019-0256-3

[4] https://www.ueharazaidan.or.jp/ueharashou/ueharashou_jushousha.html

[5] https://charitsumo.com/number/19052

[6] https://www8.cao.go.jp/cstp/kihonkeikaku/6data/2021report08.pdf

[7] https://www.pnas.org/doi/abs/10.1073/pnas.1914221117?url_ver=Z39.88-2003&rfr_id=ori:rid:crossref.org&rfr_dat=cr_pub%20%200pubmed

[8] https://journals.plos.org/plosone/article?id=10.1371/journal.pone.0291372

[9] https://www.e-stat.go.jp/stat-search/files?page=1&layout=datalist&toukei=00400001&tstat=000001011528&cycle=0&tclass1=000001110643&tclass2=000001110730&tclass3=000001110738&tclass4=000001110741&tclass5val=0

[10] https://www.nature.com/articles/s41586-022-04966-w

[11] https://www.u-tokyo.ac.jp/kyodo-sankaku/ja/news/wechange.html

[12] https://www.google.com/url?q=https://cheers.jsps.go.jp/report/report19/&sa=D&source=docs&ust=1698247898700047&usg=AOvVaw25Q1vIOFuro8TEND3YhwAW


文責 秤谷 隼世


写真引用先:https://pixabay.com/ja/photos/%E3%83%8E%E3%83%BC%E3%83%99%E3%83%AB%E8%B3%9E-%E3%83%8E%E3%83%BC%E3%83%99%E3%83%AB-%E4%BE%A1%E6%A0%BC-1356450/


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