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【短編小説】タイムトラベラームトー

「子供達との家族写真を年月が経過して子供達も大人になってから同じポーズで撮ってSNSにアップするヤツ、実はタイムトラベラーが始めたって話、もうしたっけ?」

 ムトーさんがまたおかしなことを話しはじめた。
 タイムトラベラーらしいムトーさんは会社の飲み会がある度にあらわれて刺身を食べながらそんな話をしていく。今日もイカ刺しを箸で豪快にすくっては口に運んでニコニコしている。
 ムトーさんの喋ることは、今まで聞いたこと無いけど、それがタイムトラベラーだという決定的な証拠にならないくらいの微妙な話ばかりだ。
 タイムトラベラーの信憑性は低いけど、ただのホラ吹きならネタが尽きないなぁと感心する。どちらにしても話をしていて楽しい存在だ。

「いつ誰が始めたかは諸説あるんだけど、自己申告するヤツの話だと、写真館に家族写真を撮りにきていた家族が30年後も一緒に元気で暮らしていることを知って近づいたんだそうだ。お父さんと仲良くなって家に招待された時にやってみないかって囁いたんだって。」

 写真そのものがタイムトラベラーでは無いのか。姿を残すのは駄目だってたしか前にムトーさんも言っていたような気がする。
 気の利いた面白いいたずらだ。

「一時期、そういうアイデアを試すのが流行ったんだけど、近い時期に集中しすぎるのは良くないってことで制限がついたんだ。時間は過去から未来に向かって無限に進んで行くけど、1日は24時間しかないから、狙って同じ日に未来からネタを投下し続けると大変なことになるだろ?」

 それはそうだ。情報を処理できる能力には限界があるから色々な話題が同時に流れてきても限界がある。

「ところで今日はエビがとても美味しいね。生魚、美味しく食べられるうちに味わっておいた方が良いからね。ほら君も食べなよ。」

 ムトーさんは刺身や生魚が大好きだ。未来ではもう食えないのかと何度も聞いたけど、いつも有耶無耶にされる。それはつまり食えないということなんだろうけど、そもそもタイムトラベラーを装うための嘘かも知れない。

「じゃあまた、次の飲み会で。今度は新人歓迎会かな?新人君におかしなこと言わないように気をつけますから。」


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