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よみがえる私の一景【読書記録】東京百景

中学3年生の技術の授業で、初めてはんだごてを使ってラジオを作った。

金属が熱で溶けて銀色の雫となり、ポタっと落ちる。
一震えして丸くなり、角を残しながら固まるその様子を見ているのがとても好きだった。

それに、金属を溶かして回路を作るというちょっと危なく、高度な作業。
中学3年生。ちょっと大人の仲間入りをさせてもらったようでドキドキもした。

そもそも物を作ることが好きで技術の授業はいつも楽しかった。
その集大成ともいえるラジオ制作。見た目はただの半透明のオレンジ色をした四角い箱だ。でも私が回路を繋げることでラジオとしての機能が生まれ、電波が繋がり、機械として動く。

なぞの万能感。神にでもなった気分だった。

ついに完成し、いざ電源を入れる。
ザザザーっとラジオ特有の音が鳴った。やった!ちゃんと動いた!

そして今度はチャンネルを合わせてみる。
声がクリアに聞こえる場所にダイヤルを微調整していく。
バスっと周波数がはまり、男の人の言っている言葉がはっきりと聞こえた。


「アメリカがイラクに爆弾を落としました。」

体の熱が頭からサーっと引いていき、さっきまでとは違う心臓の鼓動がうるさかった。
その後も次々と爆弾が投下され、イラク戦争の開始が告げられた。

私はただぼーっと窓の外の青空を見ていた。
こんなに穏やかで平和な同じ空の下、今この瞬間、爆弾が落とされている。

ずっとフィクションだった戦争が突然私の現実に落ちてきたあの日の空が、ずっと脳裏に焼き付いている。

又吉直樹さんの東京百景を読んだ。

芸人として活躍しているのはもちろん、本好きが高じていくつか本を書いていることも知っていた。でもこれまで著作を読んだことはなかった。

そんな中、最近Youtubeでたまたま又吉さんが話しているのを見た。やっぱりお話が上手い、というか日々の出来事の一つ一つを丁寧に受け取っている感じがとても良い。彼の文章を読んでみたい、と思った。

東京百景は又吉さんの東京での出来事をつづったエッセイだ。

でも目次を見て驚いた。タイトル通り、東京各所でのエッセイが100遍ある。
え?本当に100編も!?こうしてnoteなどで文章を書く身としては100編というのはものすごく大変だ!凄いことだ!と思ったからだ。

しかし蓋を開けてみれば、それぞれの編の長さはまちまちで、半ページだけのものもいくつかあった。なーんだ。ちょっと気が抜けたというか安心した。

本当に日々の些細な出来事でいいんだ。そもそもエッセイってそういうものなのかもしれないけど。なんてことないその日の出来事、でも確実にあった大事な一日をちゃんと感じて観察して残していく。

Youtubeで受けたイメージまんまの又吉さんの文章だった。そしてなぜか又吉さんの綴る東京の空気を感じながら、自分の中に眠っていたいろいろな景色が湧き上がってきた。前半の文章はその一つだ(前置き長くてごめんなさい笑)。

不思議と景色として焼き付いている記憶は多くある。その場の空気、自分の心の動きなどがその景色と結びついて色鮮やかに思い出される。

過去に戻って写真を撮ることはできない。同じ場所に行って同じことをしても同じことを感じるわけではない。

だからこそ文章としてあの日あの時の景色を書き留めておきたい。良かったことも、ちょっと嫌だった出来事も、他人から見れば「だからなに?」と言いたくなるような小さなことも。

私が確かに存在し、何かしら感じることのあった愛おしい日々なのだから。

と、自分の毎日を大切にしたくなる一冊でした。

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