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宅録初心者必読!良い音を作るコツと心掛け

自宅でナレーションや台詞を収録する「宅録」初心者が、まず頼りにする人物がいる。音響エンジニア・オーディオライターの橋爪徹さんだ。橋爪さんのnoteでは宅録向きの機材や収録方法を詳しく紹介しているほか、宅録した音声を送るだけで改善点や整音のアドバイスをするサービスも「つなぐ」で出品販売している。


本記事ではそんな「宅録ビギナーの駆け込み寺」である橋爪さんに、アドバイス企画が生まれたきっかけや音響エンジニアになるまでの歩み、そして宅録初心者がつまづきやすい注意点などを尋ねた。

橋爪徹(はしづめ・とおる)/音響エンジニア兼オーディオライター。1982年4月生。エンジニアとしては現在インターネット報道番組『ニューズ・オプエド』音響オペレーションを担当。一方オーディオライターとしては現在「AV Watch」にて各種製品レビューを担当するほか、TVアニメ『月とライカと吸血姫』のエンディング主題歌を歌うChimaなど、コンポーザーやアーティストへのインタビューも手掛けている。


宅録音源アドバイス企画が始まったきっかけを教えて下さい


宅録する人へのアドバイス企画は2021年2月頃から始めました。きっかけは酷い音質のネットCMを見たこと。こんなクソみたいな音をなくしたいと思いましたし、テレビを見ない若い人たちに「音質や読みのクオリティが低くても仕事ができるんだ」と思われるのが怖かった。安く質の低いものが市場に出回ってしまう危機感を覚えました。

そんな矢先にクラブハウスが流行し、そこで知り合ったナレーターさんから初めて「宅録」という活動を知ったんです。そこで悩みを打ち明けたら、たまたま同席されていたMAミキサーの阿部雄太さんが「コロナ禍でも宅録音声を送ってもらったら、手軽にアドバイスできるんじゃないの」と気楽な感じで仰ったのをすぐ行動に移したんです。

(阿部さんへのインタビュー記事はこちら↓)


橋爪さんのプロフィールを教えて下さい

最初の夢は、中学2年生のときに志した「声優」でした。工業系の専門学校を卒業し21歳で上京。平日はサラリーマン、休日は声優養成所に通う生活を1年続けましたが、周りの演技力の高さに驚きました。「役者としての未熟さは人間としての未熟さだ」と講師や同期からアドバイスをもらったので、2年目からは養成所に加え同人サークルでの活動を始めます。チームでの作品作りを通して人間改革を図ろうとしました。当時はとにかく声優になりたくてしょうがなかった。

25歳の頃、とある声優事務所に預かりとして入所します。ですがそこは今で言うパワハラ系。2ヶ月くらい在籍しましたが体調を崩し、約4ヶ月の入院生活。退院後は知り合いのプロデューサーに拾われて、小さな声優プロダクションに所属。でも実力不足でオーディションに受からず、プロとしての仕事もありませんでした。たまにリーディングシアターに出演する程度です。それから3年間ほど芝居や表現活動への向き合い方を試行錯誤しながら自問自答を重ね、29歳のときに声優への道を諦めました。


今の「音響エンジニア/オーディオライター」としての活動はいつから始まったのでしょう

声優を志していた2006年頃にセミプロの音響エンジニアとしてデビューします。WEBラジオ、ネットテレビ、ボイスサンプル収録や公開録音など多方面に活動しました。

2013年にオーディオビジュアル機器を語るニコ生をやりたいと思い立ち、上京して間もなく知り合った作曲家の和田貴史さんが作ったCD音源を、BGMとして使わせて欲しいと連絡を取ります。すると「著作権の諸事情でその曲は使えないんです。代わりに新曲を作りますよ!」と言ってもらって。そうして出来たのが生演奏が特盛りの超フュージョンな楽曲。BGMだけで使うのは勿体無いからとハイレゾ音楽ユニット「Beagle Kick(ビーグルキック)」を立ち上げました。

でも、ハイレゾ音源って中々聞いてもらえない。だから気軽に聴き比べてもらえる試聴会を代々木のオーディオショールームで企画しました。そのオーディオルームをプロデュースしている方が、とあるオーディオアクセサリーブランドの社長だったんです。ショールームのオーナーさんを通じて社長と知り合い、直接「記事を書いてみないか」と誘われました。僕は当時煮詰まっていたので「音響関係のご縁ができればいいかな」くらいの軽い気持ちでやってみることにしたんです。オーディオアクセサリーを借りて耳を鍛えたりレビューを書いたりする修行を約1年ほど続けてから、秋葉原の出版社でライターデビュー。2014年末頃でした。


2017年にはプライベートスタジオを備えたマンションを購入されたそうですね

それまでは墨田区にある六畳一間のボロアパートに住んでいました。派遣の仕事とは別にオーディオライターの仕事で月2〜3万の収入もあったから、充分生活できる。でもこのぬるま湯を続けていたら、頭打ちになっちゃうなと。ライターとしてもエンジニアとしてももっと活動を発展させたくて、背水の陣とばかりにマンションを購入。リフォームしてホームスタジオ兼シアター兼オーディオルーム「Studio 0.x(スタジオゼロエクス)」を完成させました。音声収録を少しずつ仕事にしていこうと決意して、新たなスタートを切ったわけです。

しかし昨年、たくさんの宅録音源を聞かせて頂き演者の方々が想像以上に良い音で録られていることに軽く衝撃を受けました。日々の忙しさに追われて弊スタジオを知ってもらう営業活動をやっていませんでしたから、やる前から試合に負けた気分でした(笑)でもスタジオだから出来ることってたくさんあると思っています。ディレクションとエンジニアリングを任せられるのはもちろん、来てもらえば良い機材を知れるし、設備の違いを体感できる。アドバイス企画は自分にとって、ホームスタジオの存在意義を見直すきっかけになりました。


宅録を始めたときに直面しやすい課題は何ですか

相談者さんたちに多い問題点としては大きく分けて5つあります。

①マイクが口に近すぎる
吹いてる一歩手前ですね。声が一気にノイジーになります。

②マシンノイズが乗る
マイクの近くに置いたパソコンなどの音がかすかに入ってる場合が多いです。

③部屋の反響音が入る
吸音が足りていません。全体の3〜4割はこの傾向でした。

④整音前後で波形の形が変わる
波形を見ると分かりますが、音量が上がってしまっています。音量に関するアプローチは基本的に演者さんはやらなくて良い工程です。

⑤ノイズ除去を強くかけすぎる
ノイズ除去を強くかけ過ぎるとWAVなのに圧縮音源みたいになってしまうんです。聞く側の好みの問題もありますが、編集前後の違いがよく分からない場合は思い切り感度を上げて振り切ったものを聞いてみて。

・・・少しやり方や環境を変えればすぐに解決できる課題が多いかもしれません。上記5つを含めた宅録の課題解決方法は自分のnote記事で詳しくまとめました。おかげさまで「宅録音声クオリティ向上術」は現時点で約6700PVを頂き、2つ合わせて150部以上購入して頂いています。


音に敏感な「耳」の育て方を教えて下さい

一つは、プロの使ってる良い機材を試すこと。借りる、買う、スタジオレンタルなど方法はいろいろあります。また楽器の音に関しても感度を上げると良いですね。これはオーケストラ演奏やジャズクラブでの演奏など、スピーカーから出していない生音、あるいはPAされていても爆音で鳴っていない音を聴くのが一番です。良質な音をインプットして、耳のグレードを更新しましょう。人間の耳は贅沢なもので、一度いい音を聞いたらショボい音を聴くのは苦痛になります。

心構えとして、自分の作った音声が地球上の誰かの耳を拝借してるんだ!という事実に真摯に向き合ってほしいです。これだけ娯楽が溢れている中で、自分が録ったセリフやナレーションなどのコンテンツを体験してもらうことって尊いしありがたいですよね。視聴者に貴重な時間を使ってもらっているという事実を受け止めてほしいし、そう知れば自然と「最良のクオリティで届けたい!」と思うはずです。

例えばセリフの読みのクオリティを上げる訓練はみんなやりますよね。作者は何を伝えたい?リスナーにどう感じてほしい?とか考えて。そんな台本や表現と向き合うのと同じくらい高い意識で、音にも向き合ってほしいです。音のクオリティが低いと違和感となり、結果として内容に集中してもらえないから、本当に勿体無いんです!

今後は宅録市場に、スタジオでしか仕事をしていないような上手いナレーターさんも参入するはず。音質に敏感な人でないとこの先は生き残っていけないと思います。というか、生き残りたいんだったらそれくらいの気持ちで向き合ってほしい。「良いものを届けたい」と思って聴いているうちに、耳は鍛えられるはずなので。

取材先のメーカー試聴室でオーディオ機器の音質チェック中


初心者向け宅録機材の価格帯目安はありますか

  • マイク:プロとしてお仕事で使うならば3万円以上がいいと思います。1~2万円台前半だと、音が細く重心の高い音になったり声の再現度がイマイチなものがあったりするので。

  • オーディオインターフェース:あまり高くなくて良いです。最低価格として2万円前後から選べば大きな間違いはないと思います。価格の違いはチャンネル数の違いから生まれていたりするので、1チャンネルの機種でも上位機種と同じテクノロジーを使っていれば信頼できるでしょう。

  • マイクケーブル:価格帯というよりクセのないものを選びましょう。

  • モニターヘッドフォン、スピーカー:正しい音でチェック出来ないと正しい整音もできません。なるべく予算を惜しまず、自分が信頼できる音を見極め良質な製品を使うようにしましょう。

・・・迷ったら、音響機材を多数取り扱う「サウンドハウス」から探すことも選択肢の1つです。商業スタジオよりもホームスタジオ向けの製品が割合としては高く、宅録初心者さんはひとつの基準になると思います。


宅録する「環境」についての注意点はありますか

理想の収録部屋は、正方形以外の形をした、狭く、隙間のない場所。広い部屋だと音が乱反射して反響しますし、正方形の部屋だと定在波の偏りが発生し不快な音の響きになります。あと遮音シートを買うよりも、外のノイズが入らないようなるべく隙間を埋めることが大切です。

ウールの毛布やベッドパッドをパイプハンガーに吊るせば、即席の吸音材になります。化繊だと中高域に雑味が混じってしまうのでなるべく天然素材、例えばウール100%はおすすめですね。カーペットも化繊からウールに変更するとオーディオの音が激変するんですよ。

それから、これはオーディオ業界でもあまり知られていませんが、シルクは調音アイテムとして優秀です。壁にかけたり膝掛けにしたり、化繊の毛布に被せても良い。オーガンジーは薄いので二枚重ねがいいですね。設置場所はマイクの後ろと左右の壁。僕は楽天で「シルク オーガンジー」と検索し購入しました。

音質向上のための探究心はお部屋のカーテンにも。よく見るとシルクの布地です!


最後にナレーターへ伝えたいことを教えて下さい


何よりお礼が言いたいです。自分の新たな活動の柱を与えてくれたのがナレーターさんでした。今までの経験を全て活かせるなんて全く想像してなかったんです。noteや音質アドバイスサービスは、宅録需要が高まった2021年当初だけでなく今でも少しずつ売れています。お金を払ってまで知りたいと思い行動することはとてもエネルギーがいることだから、未だに利用してもらえるのは本当にありがたいですね。

クラブハウスでの、阿部さんの何気ない一言で人生が変わりました。自分自身が発信する情報やサービスで直接金銭を頂くというのはいつかはやろうと思っていたことでしたが、まさか宅録とは予想もしていませんでした。

これも日々拡散をしたりリアクションをくれたりするナレーターさんや声優さんのおかげで、この新しいサービスが1年間続けられています。宅録に関する情報は今後も発信していきますし、オンラインだけでなく、オフラインでも自宅スタジオを活かした取り組みを行っていく予定です。

「役に立った」と思ってもらえるように、自分自身もさらにスキルアップしていきますので、ぜひ注目してもらえたら幸いです。

これからも「HITOCOE」ではナレーターに特化した上質な記事を連載予定です。今回の記事を気に入っていただけたら、スキやフォロー、サポート(投げ銭)を頂けると幸いです。いただいたサポートは、今後の活動費として役立たせていただきます。

音響エンジニア兼オーディオライター・橋爪徹(はしづめ・とおる)

1982年4月生。エンジニアとしては現在インターネット報道番組『ニューズ・オプエド』音響オペレーションを担当するほか、過去には主にフジテレビ系TVアニメ『源氏物語千年紀 Genji』購入特典CDのミキシングやサウンドプロデュースなどを担当。一方オーディオライターとしては現在「AV Watch」にて各種製品レビューを担当するほか、ゲーム『ロマンシング サ・ガ』シリーズ等の楽曲を生み出した伊藤賢治氏、TVアニメ『月とライカと吸血姫』のエンディング主題歌を歌うChimaなど、コンポーザーやアーティストへのインタビューも手掛けている。

○Twitter:@toruemu
○ブログ:「とりだべ〜橋爪徹のBlog」
○宅録音声アドバイスサービス:つなぐ


ライター・日良方かな(ひらかたかな)

都内FMラジオ局&Voicy「毎日新聞ニュース」パーソナリティー。ナレーターとして自宅に「だんぼっち」改造の録音ブースを完備し宅録にも対応。だんぼっち組立の様子をブログにしたところGoogle検索「だんぼっち 照明」で1位を連続獲得中。「ハンドメイド」に特化したポッドキャストを3月から開始。

○ホームページ:「宅録ナレーター 日良方かな」
○Twitter:@hirakata_kana
○ポッドキャスト:「日良方かなのハンドメイド工房」

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