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【実話怪談】ルンバのパチモンが死ぬ部屋

Cさんの家では自走式掃除機を使っている。名も知れぬメーカーの「ルンバのパチモン」だが、昔の特撮のロボットのような丸っこいデザインが可愛らしく、Cさんは気に入っていた。
週に三度、出勤する時に掃除機を起動させるのをルーティンにしていた。四十分ほどかけて1DKの部屋を掃除し、自分で充電器に戻る。……それがいつからか、部屋の真ん中でバッテリー切れを起こして停まっていることが多くなった。段差があったり物が置いてあるわけでもない、何でもないフローリングの上に転がっているのだ。
やがてCさんは気づいた。いつも同じ場所で停まっている気がする。不思議に思い、休みの日に一度、起動させて様子を見てみることにした。
掃除機が奇妙な動作をしていることに、ほどなく気づいた。いつも「息絶えている」例の場所のそばに来ると、急にUターンするということを繰り返している。やはり、そこに何らかの「障害物」を感知しているようだ。
掃除機が立ち入らない、直径三十センチほどの円形の空間がある。ちょうど、誰かが両足を揃えてそこに立っているくらいの大きさ……真上には、室内干し用の据付のポールが渡っている。Cさんは想像した。首を吊った死体がぶら下がっていて、その脚にぶつかって掃除機が方向を変えているという絵だ。
Cさんは苦笑した。掃除機に霊が見えているというのか。さすがにばかげている。そもそもこのアパートは新築で、「首を吊った前の住人」など居ない。
ネットで調べてみると、センサーの不具合で障害物を誤認識している可能性があると出てきたので、購入店に持ち込んで見てもらうことにした。
購入時の保証内で修理してもらえたが、対応した店員の説明には首をかしげるしかなかった。曰く、誤作動の原因はタイヤ部分にゴミが詰まっていたことらしいのだが。
「長い髪の毛が何本も可動部に巻き付いてました。女性がお住いのおうちだと仕方ないんですよ」
Cさんは独り暮らしの男性で、髪も短い。家に長髪の人物を招いた覚えもない。
取り除いた髪の毛を見せて欲しいと頼んだが、勿論、既に処分されていた。
そして修理の後も、Cさん宅の掃除機は変わらず、よく部屋の真ん中で停まっているそうだ。

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