未発売映画劇場「俺たち あぶない爆弾屋」
香港映画の魅力のひとつに、軽快なコメディ・アクションが多いことがあります。ジャッキー・チェン映画みたいなやつですね。
今回取り上げる「拆彈專家寶貝炸彈」もそんな作品。英題「Bomb Disposal Officer Baby Bomb」と見比べると意味が分かりますね。「拆彈專家」とはプロの爆発物処理屋、「寶貝」とは赤ん坊のことですね。「炸彈」は、もちろん爆弾。
1994年の作品で、日本では劇場未公開、テレビ未放映、未ソフト化であります(ので、例によって邦題はオレ製。それにしてもこの映画、私はいつどこで見たんだったか?)
タイトル通り、主人公は警察の爆弾処理班で腕利きの二人組。このコンビと偶然知り合った若い女性が同居する羽目になってドタバタする、チープなコメディ部分と、いっぽうでクレイジーボマーなる連続爆弾魔が出没し、二人に挑戦してくる犯罪サスペンスの二本立てでストーリーは進みます。
主役の爆弾処理屋コンビを演じるのが、ラウ・チンワン(劉青雲)とアンソニー・ウォン(黃秋生) このコンビが成立しただけで、充分な見応えは確保できたようなもの。
アンソニー・ウォンはこの前年に、大ヒットとなった猟奇スリラー「八仙飯店之人肉饅頭」で狂気の殺人犯を演じ、鬼気迫る演技で全香港に衝撃を与え、香港電影金像奨の最優秀主演男優賞を受賞しています。
一方のラウ・チンワンも同じく1993年に大ヒットした「つきせぬ想い」で、主役のミュージシャンを演じてブレイクしたばかり。
つまり、勢いに乗ってる売り出し中の二人にコンビを組ませることに成功したわけですね。
それにしても、二人とも、顔もキャラクターも「濃い」のが得意。脂ぎったエネルギーが売りのアンソニー・ウォンと、こちらもパワフルなゲジゲジ眉毛のラウ・チンワンなので、ずいぶんと暑苦しい主役コンビだよ。
主役が爆弾処理屋というのは、香港映画ではちょっと珍しいかもしれない。
たぶん、香港でもヒットした「スピード」がヒントになっているのだろう。
ただ、「スピード」の香港公開は1994年の6月で、本作は同じ年の9月公開。パクったにしてはずいぶんな早ワザだが、香港映画ではそう珍しくもないことか。
残念なのは、マニアックな爆弾狂ぶりを見せた「スピード」のデニス・ホッパーにくらべると、こちらのクレイジーボマーがちょっと迫力不足だった点。
ふだんはちょっと神経質なサラリーマンが、実は……という設定なのだが、勤め先のオフィスの自分のデスクの引き出しに『爆弾の作り方』なんて本がしまってあったりするのは、お手軽すぎて笑ってしまいましたね。
こいつが作る爆弾もちょっと前時代的で、アナログの時計にダイナマイトをくくりつけたようなシンプルさ。デニス・ホッパーの爆弾にくらべると、ややアマっぽい気がしましたね(演じたのはチャン・モンワー〔陳望華〕)
さて、タイトルにもなっている「赤ん坊」はというと、爆弾処理屋コンビが住むマンションに転げ込んでくる、ちょっと風来坊っぽい若い女の子が妊娠することから。
映画の後半、彼女はずっと身重なのだが、この赤ん坊の父親が、二人のどちらかわからないというのがミソ。三人がそろって泥酔した夜が原因なのだが、普通ならばドロドロしそうなこんな展開も、明るくサラッと流してしまうのが、この手の映画のいいところ。あっけらかんと彼女がいわく「生まれてからDNA鑑定すればいいでしょ」
演じるのが中性的なイメージのエスター・クァン(關詠荷)なので可能だったことでしょうか。パワフルかつ暑苦しい爆弾コンビに、彼女の存在は良い清涼剤にもなっていて、なかなかの好感度。
クライマックスは、臨月の彼女がクレイジーボマーに拉致され、爆弾に縛りつけられて、という展開。妊婦ゆえ、自身と胎児の二つの心音があるわけで、そのどちらが途切れても爆発する仕組み。なんとか駆けつけた二人が、迫る爆発時刻を前に、いかに彼女とお腹の赤ん坊を救うか? ここはなかなかスリリングであります。
アラも多いけど、概してよくできたコメディ・サスペンス。その出来栄えのわりには、なぜか日本では全くの未公開なのだが、まあ、このレベルの作品は、当時絶好調の香港映画ではさほど珍しくなかったということかもしれない。
さて、あれから20年余が過ぎているのだが、主演の二人は相変わらず香港映画最前線で活躍中。
去年の夏の旅行中に飛行機で見た「大茶飯」(2014年)ではアンソニー・ウォンが人情味あふれるギャングのボス役で、一方のラウ・チンワンは先日「ジャッキー・チェンと勝負する」で見た「三城記」(2015年)でジャッキーの父親役で、ともに主演と、健在ぶりを見せてくれた。
どちらも若いころに比べてちょっとは貫禄もつき、少しは落ち着いたようだが、エネルギッシュなのは相変わらずで、なんか安心しましたよ。
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