ジャッキー・チェンと勝負する(63)

さあ、ついに出ました。これまで日本では劇場公開もテレビ放送もソフト発売もなかった完全新作が、「ジャッキー・チェンDVDコレクション」に登場です。

2015年の「三城記」 しかも、名匠メイベル・チャン(張婉婷)の監督作品。

まだジャッキー映画に完全未公開の作品が、それもアーリー・ジャッキー・チェンでない、近年の作品が残っていたのか……などと感動したのは一瞬だけでしたが(笑)

物語は、日中戦争下の中国・安徽省から。

日本軍の空襲で夫を失った女性(湯唯/タン・ウェイ)が、女児2人を連れて実家へ戻ってきます。生活のためアヘン売人を始める彼女は、ある時、取締り中の警官(劉青雲/ラウ・チンワン)に捕えられますが、警官は彼女を見逃します。

この事件が機となって2人は急接近。

警官は病気の妻を亡くし、男児2人を育てています。しかし彼は、警官であると同時に国民党の特務部に属する工作員でもありました。日本軍だけでなく、対立する共産党のゲリラも敵として狩りたてる任務に就いていますが、そんな日々に嫌気がさして脱退することから、今度は国民党の刺客にも知り過ぎた男として追われることになります。

物語はこの2人が、運命に翻弄されながらも、安徽省や上海へ、幾多の紆余曲折を経て結ばれ、ついに香港への脱出に成功するまでを描く、歴史メロドラマであります。

で、ジャッキー・チェンは?

はい、ジャッキーは、まったく出演していません。監督もしていないし、脚本にもかかわっていません。そればかりか、製作もしておらず、主題歌も歌ってません。この映画、ジャッキー・チェンとはまったく無関係

で、なぜその映画が、このコレクションに?

はい、主役の男女、警官とアヘン売人の2人は、じつはジャッキーの両親なのです。

ジャッキーの両親が大陸から香港へのがれてきたという話は、ずいぶん早くから知られていました。そしてジャッキー・チェンこと陳港生は、彼らの一人息子だとされていました。

実際は、この映画でも描かれているように、父の陳志平と母の陳莉莉は再婚で、双方に連れ子(父に男児二人、母に女児二人)がいたのですね。

これはべつにジャッキーが隠していたわけではなく、映画のように国民党といろいろあったらしい父親が自分の身元を秘すために母の姓を名乗っていたからで、このことは父親が80歳を超えて、ジャッキーに告白するまでは、ジャッキー自身も知らなかったそうです。

ちなみに、父の本名は房道龍だそうで、したがってジャッキーの姓もじつは「陳」ではなく、「房」が本当なのだとか。

だとしたら、ジャッキー・チェンではなく、ジャッキー・ファンになっていたところだったんですね。なんかカッコ悪い気がするね。

ジャッキーの両親がこんなに波乱万丈の人生を送っていたとは驚きですが、まあ酒好きだったという父親(2008年に93歳で死去)の証言だけが根拠だから、話し半分くらいに聞いておいた方がいいのかも。

ただこの時代、長く続いた戦争のせいで、現実に一家離散した家族が多かったといいますから、案外こんな事はゴロゴロあったのかもしれません。嫌な時代ですね。

それはともかく、この「三城記」、丁寧でかつお金もかかった堂々の大作。さすがは名匠メイベル・チャン。日本未公開がもったいないほどの名作……と誉めちぎりたいところですが、やっぱり文句を。

これ、ジャッキーの両親の話でなければ、もっと高く評価できたと思います。前記したように、映画そのものとしては上出来なんですからね。

ただ、主役の2人がジャッキーの両親であるとわかっているので、どれだけピンチになろうと、悲惨な目にあおうと、死にそうになろうと「ああ、でも最後はハッピーエンドだよな」

そうでないと、ジャッキー生まれてないしね。

いわば、動かしようのない歴史的事実に縛られての、ネタバレ。この「安心感」が、映画のスリルを大きく削いでいるのです。

まあ、こればかりは仕方ないんですが(ジャッキーの両親の話でなければ、そもそも映画にならなかったでしょうし)

そしてもうひとつ言えば、やはりジャッキー・チェンがまったく不在のジャッキー映画ってのは、ナシですよね

ジャッキーの「出演」は、映画のラストで、子供のころの写真が一枚だけ出るのと、「陳港生が生まれた」という字幕のみ。エンドクレジットでは「ジャッキー・チェンの許可を得て映画化された」というクレジットがあったので、まったく無関係ではないようですが、やっぱりこれをジャッキー映画というには無理がありますね。

ま、そんなものでも、そしてジャッキーの親であるという以外はまったく無名な人物のドラマがこんな大作映画になったということひとつとっても、ジャッキーの凄さの証拠だということにはなりますかね。

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