500円映画劇場「エアポート’08」

ヤスモノ映画界に君臨する「エアポート一族」の一員、カナダ製のTVムービー「エアポート’08」です。タイトルは「’08」ですが、製作は2007年。これはお約束。

旅客機も空港も出てこないようなインチキ「エアポート」を数多く見てきたのですが、あれあれ意外なことに、この映画、けっこうちゃんと「エアポート」になってます。ちゃんと空港が出てくるし。

南米コロンビアから米国アトランタへ飛ぶトランサウス航空603便の機内に、弾丸アリの大群が発生する。帰国するビジネスマンの体内に寄生し、離陸後に出てきたのだ。強靭な体と猛毒を持ち、女王アリを中心に統率のとれた攻撃を仕掛ける弾丸アリに、40名の乗客と乗員たちは危機に陥る。弾丸アリの侵入を恐れる合衆国は603便の着陸を拒否。周辺国も次々に同じ処置をとるなか、孤立する603便には次々とトラブルが襲いかかる。乗客の女性昆虫学者と、乗り合わせていた連邦航空警察官は、必死に弾丸アリの群れに立ち向かう。

航空パニック+動物パニックは、そう画期的なネタではないですが、なかなかうまい手ですね。

舞台になる航空機がやや小さめなのは残念ですが(ジャケットイラストはジャンボ機になっていますが、これもお約束)、そのぶんコンパクトにまとまっています。

冒頭、空港でのシーンで主要登場人物たちを要領よく紹介しているのも、ヤスモノ映画にしては上出来。

夫を亡くしている昆虫学者はティーンエイジャーの娘と親子闘争中、大学生二人組の片方は泥酔マン、若い夫婦の旦那のほうはトラブルメイカー、生まれたての赤ん坊連れの女性、キャビンアテンダントは帰国後結婚の予定、そして停年間近の機長はこれが最後のフライト。

おお、小規模ながら、パニック映画の王道であるグランドホテル形式をきちんとやっています。型通りに、良い奴と嫌な奴が混じってるし。ここらがちゃんと出来てる「エアポート」は、じつはけっこうめずらしいですね。

ちなみに「主役」の弾丸アリって、ちゃんと南米に実在するアリです。

強烈な毒を持っているのもほんとうで、噛まれると「弾丸で撃たれたような痛みが24時間続く」ので弾丸アリと呼ばれているそうです。映画に登場するのは、これが遺伝子変異した新種のアリとのこと(説明役で登場する科学者は「進化」とかいいますが、それはどうなの?) 現実の弾丸アリには、ヒトが死ぬほどの毒はないようです。

特筆すべきは、このアリを含め、画作りのほとんどでCGナシをつらぬいていることです。なので、登場する無数のアリたちはすべてホンモノ(らしい) 接写アップを織り交ぜてアリたちの表情を見せる一方で、わさわさと大群が押し寄せるさまは、圧巻です。

TVムービーゆえ、それほどの残虐場面や流血シーンは無いのですが、このアリの大群には、理屈抜きで生理的嫌悪を覚えます。見ていて足元がムズムズするかも。あえてホンモノを使った効果は、充分に出ていると言えましょう。

という具合に褒めましたが、これはあくまで「ヤスモノ映画にしては

実際には数々の欠点が目につきます。

たとえば、アリの侵入を警戒して603便の着陸を阻止しようとする政府組織です。

外見はなんかどっかの変電所みたいな地味な建物に、ほんの数人の人物がもっともらしく座っているだけ。ボスはかなりの権力を持っているらしい(旅客機の撃墜指令や軍の動員も可能)ですが、連邦航空局か国家安全保障省かCIAかFBIなのか何なのか、最後まではっきりしない。なんか迫力不足だし。ちなみに国防総省へ電話するシーンがあるので、ペンタゴンは無罪です。

気がつけば最終的には、このボスと、秘書だかアシスタントらしき女性の、たった2人だけで事態収拾にあたってるんですよ。ぜんぜん重大事態っぽくないです。

「絶対に着陸させない」とか命令が出てるのに、603便は敢然と着陸しちゃうし、着陸してから軍隊が「どうするどうする」と慌てるあたりも、なんかドタバタ過ぎる。

けっきょく、乗客が全員脱出したあとで、女性昆虫学者がまったくの独断で旅客機一機燃やしちゃうんですが、いいんですか、それで?

とまあ、ツッコミどころは多いのですが、それも「エアポート」らしいといえばらしいので、許してあげましょう。

500円映画を見るときは、やさしくならなければなりません

原題は「Destination: Infestation」だそうですが、画面に出るタイトルは「Swarm」ですね。あれどっかで見たタイトルだぞ(笑)

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