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外出自粛映画野郎「そして誰もいなくなった」(1945年版)

「ミステリの女王」アガサ・クリスティーの代表作にして(たぶん)いちばん売れた小説『そして誰もいなくなった』の映像化については、いままでにも何度か書いてきました。

そして誰もいなくならなかった

そして誰もいなくなっちゃった

未発売映画劇場「そして誰もいなくなった」(1959年版)

未発売映画劇場「そして誰もいなくなった」(1987年版)


でも、考えてみたら、そもそもの第1回目の映画化である1945年版についてノータッチだったですね。さっそく手持ちのDVDを引っ張り出してみました。

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監督は名匠ルネ・クレール。フランスから戦火を避けてハリウッドへ渡っていたクレールにとっては、その持ち味からして、けっして本意ではない題材だったのかもしれませんが、さすがにツボを心得た演出で、クリスティー作品の映画化では最高傑作といわれることもあります(異議は認めます)

原作を脚色した脚本は、そのクレール監督とダドリー・ニコルズの共作。意外に語られることが少ないのですが、このニコルズは名脚本家で、あのジョン・フォード監督の名作「駅馬車」の脚本も担当。1935年には「男の敵」でアカデミー脚色賞を受賞しています。

出演はバリー・フィッツジェラルド、ウォルター・ヒューストン、ルイス・ヘイワード、ローランド・ヤング、ジューン・デュプレ、ミシャ・オウア、C・オーブリー・スミス、リチャード・ヘイドン、ジュディス・アンダーソン、クイーニー・レオナルド、ハリー・サーストンの、以上11名。

孤島に集められた8人の客と使用人夫婦、そして彼らを運ぶ船乗りの合計11名のみ。簡単でいいねぇ。これは『そして誰もいなくなった』を映画化するときはだいたいそうなりますね。なるほど、俳優の出演料は安くてすむわけですか。

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で、この1945年版、観た限りでは、けっこう原作そのまんまですね。

ちゃんと孤島だし(そうでないのもあるのは前に書いた通り) 殺人の順番などもきちんと踏襲(残念なのは殺害された死体がきちんと映らないこと。まあこれは時代が時代なのでやむを得ない) 原作の「黒人」が「インディアン」に変えてあるのがささいな変更点(これについても前に書いてます)

ということで、そうすると気になってくるのがラスト

これもまた前に書きましたが、じつはこの物語の映画版での結末は原作から変更されているものが多いのです。まあ、この映画でどうなっているかは、ご覧いただくしかないのですが。

ちょっとだけネタバレ気味に書けば、この映画のラストは、この前年に原作者アガサ・クリスティー自身によって書かれた「戯曲版」とほぼ同じです。すばやく取り入れたんでしょうかね。

本編97分は、ちょうどいい長さですかね。やや忙しい気もしましたが、マッタリする部分はほとんどなく、無駄なく進めた感じでした。

この映画、ずっと日本では劇場公開がなかったのです(1945年の作品だから無理もないんですが) 日本初公開はようやく1976年になってから。製作後30年以上が過ぎていました。もったいない話でしたね。

さてここで原作小説をおススメしないわけにはいきません。編集者時代に何度か手がけた作品ですが、これの児童書版を最初に作ったのは秘かな自慢。その児童書版がこのたびリニューアルされました。

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子どもを読書に親しませるには、ミステリが最適だと私は思っています。だって、子どもってクイズやパズルやゲームが好きでしょう。本質的にこうした要素を内包したミステリ小説ってのは、子どもっぽい要素をたくさん含んでいるんですよ。もちろん、内容的に子どもには向かないものもありますがね。

大人向けの『そして誰もいなくなった』は、クリスティー作品中でももっとも売れたものですが、児童書版も、これからますます読まれることでしょう。この本が将来のミステリ読者をたくさん育ててくれることを期待しています。

大人向けはこちら、早川書房のクリスティー文庫です。

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「そして誰もいなくなった」1945年/監督ルネ・クレール/原作アガサ・クリスティー/脚色ダドリー・ニコルズ/出演バリー・フィッツジェラルド、ウォルター・ヒューストン、ルイス・ヘイワードほか/97分/モノクロ

amazon prime videoでも配信あり

『そして誰もいなくなった』アガサ・クリスティー/青木久惠・訳/クリスティー文庫(早川書房)

『そして誰もいなくなった』アガサ・クリスティー/青木久惠・訳/ハヤカワ・ジュニア・ミステリ

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