ゲゲゲの七人

この夏は、「未公開映画劇場」のために、ドラキュラとフランケンシュタインの(場末の)映画を見てきのですが、そのおかげで「あれ」を見たくなりました。

ゲゲゲの鬼太郎」の最高傑作だと私が勝手に思っている「妖怪大戦争

西洋の妖怪軍団が日本の南の島を占領。島を脱出した子供たちの要請で、鬼太郎は日本の妖怪たちを率いて西洋妖怪軍団と全面対決する……おお、男の子の血が騒ぐ傑作ですね。でも、しばらく見ていなかったので、細部は忘れてきています。

なので、ひさしぶりでDVDを引っ張り出しました。

原作の漫画(「墓場の鬼太郎」)から、数次にわたるアニメシリーズでも何度も映像化されているエピソードですが、最初のシリーズのモノクロ版がいちばんいいんですよ。

で、いちばんに感じたのが、やはり人間、記憶だけに頼ってはいけません、ちゃんと見られるものは見なくっちゃということ。

島を脱出したのは「子供たち」じゃなくて、「子供」一人だけでしたね。島の燈台守りの息子。

ドラキュラとフランケンシュタインのおかげで見たくなったと書きましたが、考えてみたらこのアニメ版にはフランケンシュタインは出てこないんですね(原作では出てくる) まあ、フランケンシュタインの怪物は、そもそも「妖怪」じゃないしね。

というわけで、ドラキュラ、魔女、狼男と、ドラキュラの手下らしき名もなきザコ吸血鬼数匹が、目玉の妖怪バックベアードに率いられて、日本にやってくるんです。

彼らが住んでいたのがロンドンだったというのも忘れていたポイント。ドラキュラ、魔女、狼男……うーん、どの妖怪もイギリス由来じゃないよなぁ(バックベアードは水木しげる先生オリジナルの妖怪だが、たしかアメリカの妖怪っていう設定)

彼らがロンドンから日本まではるばるやって来るんですが、帆船で来るのがおかしいね。やつら、空飛べるじゃん。いやそこは「黒船」ムードが欲しいってことか。

日本側の妖怪団は、子なき爺、砂かけ婆、ぬりかべ、一反木綿に、鬼太郎親子とねずみ男。

ああっそうか、妖怪版「マグニフィセント・セブン」なのかと膝を打ったのが、今回最大の発見でありました。

7人のヒーローが、人々を救うために、圧倒的な敵に立ち向かう。元祖は、黒沢明の「七人の侍」、その翻案版のウェスタン「荒野の七人」、そしてそのリメイクでもうすぐ日本公開の「マグニフィセント・セブン」 これまた男の子必修の映画ネタですよ。

「妖怪大戦争」が、なぜあんなに面白かったか、その秘密がここにあったんですね。

そこで、私のもっとも得意とする「荒野の七人」のキャラに、妖怪団をなぞらえてみました。

リーダーのクリス(ユル・ブリンナー)は、鬼太郎ではなく、知恵袋の目玉の親父だろう。鬼太郎はむしろ、エース格の早撃ちヴィン(スティーヴ・マックィーン) 一攫千金狙いの夢見る男ハリー(ブラッド・デクスター)はもちろんビビビのねずみ男。どっしりした寡黙なぬりかべは腕っこきのオライリー(チャールズ・ブロンソン) そうなると、沈着冷静な砂かけ婆がナイフの名人ブリット(ジェームズ・コバーン) あとは、伊達男ガンマンのリー(ロバート・ヴォーン)はちょっと苦しいが子なき爺(腹掛け一丁のお洒落ファション)、無鉄砲な若僧のメキシコ青年チコ(ホルスト・ブッフフォルツ)が一反木綿ってところか。

おお、あんがいピッタリおさまるな。

で、気づいたら、最後に生き残る人数も同じだったよ(だれとだれかは、ネタバレなので書きません)

「七人の侍」が1954年、「荒野の七人」が1960年、原作漫画「墓場の鬼太郎/妖怪大戦争」が1966年、そしてこのアニメが1968年だから、辻褄もあいますね。

水木先生が「七人の侍」か「荒野の七人」のどちらかに影響されたことは充分考えられますし、アニメのスタッフは間違いなく参考にしてると思いますよ。

しかし、前にも書いたように、水木しげる先生はなかなかのアイデアマン。

大怪獣を巨大ロボット(しかも搭乗型)で迎え撃つ「大海獣」は「パシフィック・リム」のルーツに擬せられそうだし、「妖怪大戦争」で吸血鬼ドラキュラを現代に登場させたことといい、西洋妖怪対日本妖怪の団体戦というコンセプトといい、そのイマジネーションに、目をみはるものがあるのは間違いないですね。

これも周知のように、さまざまなネタを消化してしまう(ただのパクリとは明らかに違います)能力も含め、なんと偉大な漫画家だったことか。いやほんとに、水木先生ご自身が大妖怪だったのかもしれません。

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