誰が伯爵を現代にお連れしたのか?
ブラム・ストーカーが、東欧の伝説と、実在の人物ヴラド・ツェペシュを合体させて、小説『吸血鬼ドラキュラ』を執筆して以来、かのドラキュラ伯爵はモンスターのエースの位置に君臨し続けている。
ドラキュラ伯爵が登場するユニバーサルやハマーの伝統的ドラキュラ映画は、基本的に時代劇だった。しかし、それを現代社会に持ち込んだ作品が登場してから、ジャンルの可能性は大きく広がった。現代の都会の闇に吸血鬼が徘徊するってコンセプトだね。
では、そうした伝説の吸血鬼が現代社会に出現するというプロットを最初に考えたのは誰だったんでしょう、というのが今回のお題。
私は長い間、ハマー・プロの「新ドラキュラ/悪魔の儀式」(1973年)だと思ってました。クリストファー・リーが演じる正統派ドラキュラ伯爵が復活して大企業のオーナーにおさまり、007の悪役ばりに世界征服を企んでるやつ。初めてテレビで見た時に(劇場未公開作品です)、なんと斬新な設定かと思ったせいもある。
ところが、その後何かで調べてみた時に、じつはドラキュラ物としては亜流に属する、ある作品の方が早かったことを知ったのだ。
それは、ブラックパワー映画華やかなりしころに作られた「吸血鬼ブラキュラ」(1972年)だ。黒人が出てりゃなんでもウケる、という確固たる見識のもとに量産されたブラックパワー映画の一本で、ブラック+ドラキュラだから「ブラキュラ」とは、なかなか笑わせてくれる。いや、ホラー映画としては、けっこう真面目に作っているし、当時はけっこうヒットしたんだが。
このブラックパワー版ドラキュラが、吸血鬼を現代社会に持ちこんだ最初の例なのか、と思ったが、その後さらに別のモノが判明した。
それは「事件記者コルチャック/ナイト・ストーカー」(1971年)。その後1974年にテレビシリーズ化され、そののちにカルト番組化した「事件記者コルチャック」の最初のパイロット版で、ジェフ・ライスという作家が書いた小説を原作としている。連続殺人事件の犯人を追うと、じつは……という、これ、サイコスリラーの走りとしても軽視できない作品なのだ。その後のテレビシリーズ版よりも重要な作品ではないか。
ところが、さらにこれ以前にも、吸血鬼を現代に連れてきた作品があったのだ。
わが東宝が、岸田森を主演に据えて製作した「幽霊屋敷の恐怖/血を吸う人形」は1970年の作品だから、欧米作品に先行しているのだ。おお、日本映画、なかなかすごいじゃないか。世界に先立つ画期的吸血鬼映画だったんだな、あれ。〔さらにその前に松竹の「吸血鬼ゴケミドロ」(1968)があるんだが、あれは伝説の吸血鬼ではないよね、たしか〕
しかし、上には上がいる。しかも、これも日本製だ。
1966年に少年マガジンに掲載された漫画の方が先に、吸血鬼ドラキュラ伯爵を現代に連れてきているのだ。
「墓場の鬼太郎/妖怪大戦争」で、バックベアードに率いられた西洋妖怪軍の一員として、ドラキュラが現代日本(といっても南方の孤島だが)に現われる。おお、さすがは水木しげる先生。世界の誰よりも早く、吸血鬼を現代に連れてくるという、この画期的設定を考えついたのだな。そういえば他にも「吸血鬼エリート」ってのもあったし、けっこう水木先生の得意技だったのか。ともあれ、吸血鬼を現代に連れて来た第1号は、水木しげるの「墓場の鬼太郎」だったのか……
ところが、この論考は、意外な結末を迎える。
落ち着いてよく考えてみたら、けっこう盲点だったのだが。
小説『吸血鬼ドラキュラ』の時代設定は1885年。
ブラム・ストーカーが『吸血鬼ドラキュラ』を発表したのは、1897年。
小説の舞台は、わずか12年前の「現代」だったんですね。
なんのことはない、伝説の吸血鬼を「現代」に連れて来たのは、元祖のブラム・ストーカーだったという、脱力するオチで、今回は、終了(笑)
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