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令和4年・初場所雑記

場所前には、一人横綱となった照ノ富士の、新横綱昇進から3連覇という偉業達成なるかが焦点となった、令和4年最初の場所。

その照ノ富士を追うと見られていた大関陣、貴景勝が早々に負傷で途中休場、正代も序盤で失速して、照ノ富士独走かと思われましたが、そこに意外な男が待ったをかけました。

もはや「万年大関候補」と化していた御嶽海です。昨年の九州場所で11勝して大関盗りの足がかりを築いていたとはいえ、それももう何度めかもわからないくらいの恒例行事。正直いって今回も残念でしたに終わると思っていただけに(失礼)、やはり意外でした。

でも考えてみれば、すでに2回も優勝している実力者。照ノ富士が崩れれば、この結果も当然といえば当然でしょう。

これまで、われわれ相撲ファン、評論家、部屋関係者、協会幹部、マスコミ、それよりなにより本人の期待を裏切り続けてきた御嶽海が、とうとう「結果」を出したわけです。そして、今場所の相撲内容は申し分のないものでした。ようやく、ようやく、大器が花開いたようですね。場所後に悲願の大関昇進を果たしました。おめでとうございます。

とはいえ、ここがゴールではもちろんありません。照ノ富士の一人横綱時代に終止符を打つべく、次場所からの健闘を期待しましょう。

というのも、今場所の照ノ富士が不安を露呈した気がするからです。

万全の防御力を発揮し、昇進3場所目にして堂々の横綱ぶりを発揮していた照ノ富士ですが、唯一の死角と思っていた「心技体」のうち「体」の不安が顔を見せたようなのです。

もちろん今場所は途中で足の踵を痛めたという事情があったようですが、それ抜きにしても気になるのが、ここ数場所の展開。

昨年はほとんどの場所で優勝してきたわけですが、そのわりに優勝争いは終盤でもつれることが多くなっています。場所序盤から独走しても、終盤に追いつかれそうになる展開が続いているのです。今場所も最終盤に連敗を喫していますね。

どうも場所を乗り切るスタミナに、若干の不安がある気がします。負傷個所のある足をかばうために、あるいはあの受けの相撲ぶりゆえに、体力を削られてしまうのではないでしょうか。

昨年後半はさほど目立たなかったこの不安が、場所を積み重ねるにつれて膨れてきているとしたら、一度しっかりとメンテナンスする必要があるのかも。くれぐれも、短命横綱にならないようにしてくださいね。

さて御嶽海とともに千秋楽まで優勝争いをしていたのが、平幕の阿炎琴ノ若

帰ってきた実力者・阿炎は、先場所今場所と連続で12勝を挙げました。この星は只事ではありません。連続準優勝。来場所の三役復帰はけっこう微妙(平幕上位に好成績が多かったせいです)ですが、次期大関候補に浮上してきました。来場所に注目です。

次期大関争いについていえば、私は若隆景も急浮上してきたと思います。隆の勝、明生、大栄翔といった大関候補が揃って負け越して来場所は番付を後退させるのに対し、来場所は一気に関脇昇進が濃厚。押し相撲主体の連中にくらべると四つ相撲の若隆景には安定感も感じます。前頭筆頭の地位で9番勝つのは容易ではないのに、それをクリアしたのだから、もう大関候補に挙げてもいいでしょう。あんがいスルスルと行く気がします。

ほかにも、相変わらずの多彩な技に体が出来て重みがついてきた豊昇龍、自信をつけたのか前進力が増した琴ノ若、技師ぶりに前に出る破壊力が伴ってきた宇良、今場所は一歩後退となったが技の切れが増してきた霧馬山ら、いずれも大関昇進を云々するのはまだ早いでしょうが、先行する隆の勝、明生、大栄翔、阿武咲らとの距離を一気に詰めてきたようです。

御嶽海が抜け出して一段落ついたと思いきや、次期大関争いはまだまだ熱いぞ。

そのへんの面々への分も含めて、今場所もまた三賞へは不満を述べねばならないですね。いや、受賞した御嶽海、阿炎、琴ノ若には不満はありませんけど。

三賞とはそもそも「3人への賞」ではなく「3種類の賞」のはず。いままでも「敢闘賞2人」とかあったでしょ。もちろん「該当者なし」もあるし。

だから、候補者が多ければ、どんどん出せばいいのです。今場所でいえば、筆頭で勝ち越した若隆景、大いに観客を沸かせた宇良、横綱に勝った玉鷲、二桁の星を残した阿武咲、豊昇龍、石浦、新入幕で見事に勝ち越した若元春あたりには賞のひとつくらいやってもよかったんじゃないでしょうか。そう思いませんか?

毎場所書いているように、乱発もいけないけど、出し渋りはもっと悪いと思うんです。まさか賞金をケチっているわけじゃないでしょうね?

王鵬が新入幕(残念ながら負け越し)したことで、今場所はじつに趣き深い取り組みが実現しました。

それは7日目に組まれた琴ノ若との一番。ご存知のようにこの両者、ともに祖父に横綱を持っています。王鵬の祖父が48代横綱・大鵬で、琴ノ若の祖父が53代横綱・琴桜。代数が近いことでもおわかりのとおり、両者はほぼ同時期の力士で、対戦もあります(残念ながら横綱同士としての対戦はなし)

それだけではなく、両者の父親、王鵬の父・貴闘力と琴ノ若の父・琴ノ若(先代)も同時期の力士で、こちらも対戦がありなのです。

つまり、王鵬対琴ノ若の一番は、父子3代にわたる長い歴史のある対戦になっているのです。さすがにこれは珍しいかも。

当人同士も埼玉栄高校・相撲部の先輩後輩でもあり、今後は何よりの好敵手となるのではないでしょうか。今回は先輩の琴ノ若が勝ちましたが、これから対戦を積み重ね、素晴らしいライバル物語を紡いでもらいたいですね。

ちなみに、幕下では王鵬の兄・納谷田中山の対戦もありました。田中山の祖父は黒姫山。納谷の祖父・大鵬よりは一世代若い力士ですが、大鵬との対戦もあり、昭和45年(1970年)11月場所では大鵬に勝っています。今回は納谷がこのときのリベンジを果たしましたが、こうした世代をまたいだ対戦もこれから増えていくんでしょうか。楽しみですね。

最後にひとつ余分なことを。場所前に報道された違法賭博関与の問題です。幕内の英乃海と新十両の紫雷が師匠の判断により今場所を全休しました。いまの時点では正式の処分は出ていませんが、報道によれば英乃海が1場所出場停止になるようです。そのこと自体は外部から云々するようなことではありませんので、どうこうは言いません。

ただこの件についてSNSなどで盛んに言われていることが気になりました。

いわく、過去の事例にくらべて処分が軽すぎる、阿炎や竜電、朝乃山とくらべても不釣り合いじゃないか。

まぁたしかに一理あります。協会内のコンプライアンス違反というだけの3者に対して、今回の2人は賭博法違反の違法行為です。過去に野球賭博に関与したとされた者は解雇処分でした。そうして見ると、1場所だけの出場停止は、いかにも軽く見えます(紫雷については処分なし)

ただし、これは表面上の事象を見ただけの意見に過ぎません。これも報道によれば、どうやら今回の件では常習性はなく金額も少なく、また反社会的勢力との繋がりもなかったようで、不起訴になる見込みだとか。

ならば、もうくだくだといつまでも蒸し返すこともないでしょう。来場所の番付ではたぶん英乃海は十両へ、新十両だった紫雷は化粧回しを巻くことなく幕下へ陥落となります。処分としては充分重たいと思いますよ。

これは芸能人や他のスポーツ選手もそうですが、もちろんいまの時代に「力士だから」は通用しません。ですが、そのへんはもうちょっと寛容になってもいいんじゃないですかね、私たちが。

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