500円映画劇場「メタル・トランスフォーム」

ここんとこ、ちょっとこの「500円映画劇場」の切れ味が落ちていると思いませんか? いや実際、ここんとこ、なみいるヤスモノ映画を、けっこう褒めてしまってる気がします。うーん、体や脳が慣れちまったのかな、ヤスモノの毒に。

で、今回の「メタル・トランスフォーム」も、けっこう退屈せずに見てしまいました。やっすい映画なのに。

カナダの映画だけど、舞台はアメリカのアイダホ州の田舎町。そこに人工衛星が落ちてきて、そいつに謎の病原体がくっついているというのが発端。病原体ったってベトベトした緑色のペンキみたいなやつで、映画の中ではみんな「バクテリア」だって言ってるけど、どっちかといえば「粘菌」とか「カビ」だろ、これ。

で、こいつがなぜか金属にとりつくと、その「宿主」をあやつって動かせるという設定。最初に人工衛星(の残骸)を拾った貧乏兄弟がこれを屑鉄屋に売ったから、さあ大変。ちょうど屑鉄屋の親父が町の祭り用に作った屑鉄製の巨大オブジェ(高さ5メートル、重さ1トン)を乗っ取って、メタル巨人よろしく暴れ出すのだ(アメリカでのタイトルは「Iron Golem」) だからジャンル的には、ほぼ完全に怪獣映画。

この屑鉄屋の親父がけっこうイイ味出していたのは儲けもの。演じたのは「ジュラシック・レイク」にも出ていた(覚えてないけど)ドネリー・ローズ。名作「明日に向って撃て!」にも出てたそうだけど、知ってる?

そんなわけで、つまらなくはない映画なんだが、どうも既視感(デジャブ)があるね。たとえば、こんな具合。

 人工衛星に緑の菌→「アンドロメダ…」

 屑鉄製メタル巨人→「トランスフォーマー」

 田舎町に怪物襲来→「トレマーズ」

ほーら、なんとなく「モデル」がわかるよな。

ついでに言えば、主役のメタル巨人や、その後に襲撃してくる屑鉄軍団の特撮は、CGらしからぬカクカクした動き。ふた昔以上前のストップモーション・アニメ風のモーションだ。これはたぶん、わざとだろう(あくまで、たぶん)

ま、それに効果があることはあるんだが、やはり「モデル」が透けて見える。

 カクカクのアクション→「遊星からの物体X」「死霊のはらわた」

わかりやすいねえ。

こうした「複数の映画を合体させて一儲け」をたくらむ映画は大体においてヤスモノになり、おおむね失敗に終わるのがこの世界の常識だが、今回はあまりに元ネタが多いため、なんとなくその欠陥が薄められたのか。結果、「まあマシな映画」が出来上がったってところか。

ついでに言えばこれ、ほとんど一晩だけのドラマなので、シーンの大半が夜の町。町というよりは田舎なので、ほんの数軒の建物と道路だけなのだが、その背後の闇の深さが、迫力を増し、ボロを隠すのに役立っている。背景にいろんなものがないんで合成がうまくいってるんだね。

ロケが楽なので、この手のヤスモノ映画には田舎町を舞台にしたものが多いのだが、その点もこの映画には、うまくハマってるのだろう。

これが最初から企んでのことならば、感心するのだが、どうも偶然っぽいんだよね。

しかし、この映画の製作者たち、いちおうこの手の映画には詳しいようだ。

というのも、田舎町ゆえ数が少ない(10人くらいか)のに、その登場人物たちのなかで、いちおう「怪獣映画登場人物の必須三要素」を満たしているからです。(参考「大怪獣を倒す人々」はこちら

おさらいしておくと、三要素とは「特技を持った主人公」「怪獣の説明をする科学者」「やられ役の軍人

「メタル・トランスフォーム」の主人公は、貧乏兄弟の兄貴で、なんかエンジニアっぽい(あるいは大工さん) 弟を殺されて怒り心頭だが、あるアイテムでメタル巨人粉砕を試みる(失敗だけど)

科学者役は、その主人公の昔の恋人。生物の教師だとかで、問題の「菌」をちらっと見ただけで、すらすらとその性質や生態を解説してくれる。アメリカの学校の先生って、スゴイんだねぇ(ちょっとスゴ過ぎ)

軍人役は、この小さな町の警察官たち。といっても田舎町ゆえ、保安官と、その助手の女性警官のみ。二人ともメタル巨人に銃をぶっぱなすけど、もちろん効果なく、憤死。見事なやられっぷりだ(情けないけど)

ここまでいろいろな映画の要素を取り込んでいるところ見ると、製作陣にかなりこの手の映画に詳しい人、あるいはマニアかオタク野郎がいるのは間違いない。同志、頑張ってるじゃないか

(ほーら、褒めちゃってるよ。切れ味落ちてるなぁ)

とはいえ、結局ヤスモノ映画なんだから、面白いったって限界がある。

はい、ここまで見てきてお分かりのとおり、この映画、根本的にオリジナリティに欠けてるんだよね。

特にまずいのが、ラスト。

じつは怪獣映画でキモ的に大事なのが、怪獣の倒し方。だってそうでしょ、ただ単に大砲ぶっぱなして解決じゃあ面白くないもん。オキシジェンデストロイヤーとかスーパーXとかウルトラマンとか「シン・ゴジラ」のアレとかが出てこないと。

で、この映画の「菌」の倒し方、こりゃダメだろ。

だってさ、だれもがまず考えそうな方法なのに、なんでこいつら最後までこれを考えつかないんだよ。わざと避けてるとしか思えないぞ。

そして、生物教師の娘(ティーンエイジャー)に、「科学者」のはずの母の一言。メタル巨人に襲われながら生き残った娘にむかって「貧血でよかったわね」 おいおい、それでいいのかよ!

というわけで、結局はダメ映画的致命傷があって、やっぱり500円映画でしたとさ。惜しかったけどね。

2011年のカナダ製TV映画。もともとの英語タイトルは「Metal Shifters」(日本版DVDもこれ)だが、ほかに「Space Transformers」「Iron  Invadere」など。日本でのCS放送時タイトルは「メタル・シフター」

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