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500円映画劇場「モンスター・フライト」

2014年に中国で製作された「モンスター・フライト」  英語題は「LAST FLIGHT」中国語題「絶命航班」

南海の島からシンガポールに向かう旅客機。まもなく廃止される路線の最後のフライトには、9名の乗客と3名のキャビンアテンダント、そして2名のパイロットが搭乗していた。だが、そのほかに招かれざる乗客があった。乗客の一人が持ち込んでいた化石状のモノから、未知の猛獣が蘇生したのだ。哺乳類だがウミヘビのような毒を持つその猛獣の毒牙にかかり、次々と犠牲者が。悪天候のなか飛行を続ける機内で、必死の闘争が続く。

再三書いてきたように、500円映画の世界は玉石混交(石がほとんど) で、そのうちのたいていが、まともに劇場用に製作された映画ではなく、テレビ放送用(昔でいうTVムービー)、あるいはDVDやブルーレイでいきなり販売する映画だ。近年はケーブルTVや衛星チャンネル、そしてネット配信が増加したせいで、こうした非劇場用映画の需要が増しているようで、これらが500円映画の大きな供給源になっている。

と、その一方で、劇場公開用に製作されながら、諸般の事情で劇場公開されずに、こうした世界に迷い込んでくる映画も少なからず存在する。

「諸般の事情で」などど優しく書いたが、早い話が「失敗作」のたぐい。失敗作といっても、映画そのものの出来が悪かった場合もあれば、マーケティングの失敗で公開配給の権利を売ることに失敗した例もあろう。

この「モンスター・フライト」は、2014年に中国では劇場公開された、まぎれもない劇場用映画で、3D映画として製作された(映画のラストに、ジャッキー・チェンの映画のようなNG集めいたものがついていて、そこでスタッフやキャストがそうコメントしている)

だが、どうやら外国では劇場公開に至らず、日本でも「500円映画の世界にようこそ」になってしまったようだ(もちろんDVDは2D) 

ジャケットイラストは、明らかに「エアポート一族」

舞台は、ほぼジャンボ旅客機の機内に固定され、冒頭とラスト以外は飛行中なので、まぎれもない航空サスペンスもの。定石どおりに乗客、乗員の間の人間関係や争い、天候の悪化、さらには機体の不具合などもきっちり盛り込まれているのだが、それでもあえて邦題に「エアポート」を冠さなかったのは、日本での発売元の深い読みか意地なのか(違うと思う)

パニックの原因が、事故や悪天候、犯罪ではなく、オカルト要素なのはちょっと珍しいっぽいし、さらには動物パニック風に味付けしたのには独自性がある。

中国資本のようだが、味わいは、香港映画ではわりとポピュラーな「南洋邪教もの」 香港人には「南のほうにはわけのわからん恐ろしい魔物が棲んでいる」という共通意識があるらしく、東南アジアや南の島々に出かけた香港人が、異様なタタリを背負ってくるというホラー映画が数多く作られているのだが、この「モンスター・フライト」も、その系列に属するものと思って差し支えないだろう。

動物パニックが航空機内で起きる映画としては、ハリウッド製の「スネーク・フライト」(2006年)という非常にポピュラーな作品があるが、そこにこうしたオカルト・テイストを加えている点は評価していいかもしれない。

とはいえ、このジャンルの作品がさほど量産されていないのには、簡単なわけがある。

飛行中の航空機内は、狭いからだ。

無駄なスペースをほとんど有しない航空機内なので、でかい生物がまぎれこめる余地はほとんどない。どう考えてもサメやクマや恐竜は無理だろう。

なので「主役」は小動物になる。だからこその「スネーク・フライト」だったわけで、この「モンスター・フライト」でも、謎の猛獣の正体は、おのずからそのサイズを限定されるのだ。

ここで思い出されるのが、かの「水曜どうでしょう?」のマレーシアのジャングルの動物観察小屋でのエピソード。

夜のジャングルで小屋の外に現われた「虎」にパニックになったどうでしょう一行が大騒ぎをしたあげくに、その正体がわかった時の有名な脱力セリフ。

鹿でした。

「モンスター・フライト」で、謎の猛獣がついに、のっそりと、その姿を見せた時の、私の反応がまさにこれ。

××でした。

さすがに製作陣もそう思ったのか、そのあとにCGで盛大に盛り付けをしてはいるが、そのファースト・インプレッションとサイズからくる拍子抜け感は、ついにぬぐえなかった。

これが500円映画の世界入りへの決定打であったことは、言うまでもないだろう。

いやいや、そこに至るまで、まったく猛獣の正体を見せずに終始したサスペンス演出の徹底や、乗客たちの数を減らして整理されたわかりやす過ぎる人間ドラマ、盲目の祖母と未来を予見できる少女といったオカルト要素(不発気味ではあるが)、3Ⅾ用とはいえかなり頑張ったショック演出といった部分では、そこそこ善戦しているだけに、ちょっと惜しかった気がする。

撮影のために航空機内のフルセットを建て、飛行シーンのCGもシーンごとに角度が変わり(同じ画の使い回しをするのがこのジャンルのお約束なのにねえ)、キャストもそれなりの人材をそろえ(主役のキャビンアテンダントを演じるチュウ・チュウ〔朱珠〕はこのあと「パシフィック・リム:アップライジング」(2018年)に出演している。どこに出てたのかわからなかったが)、先に書いたように3Ⅾ映画として製作されたので、予算的にはまったく500円映画の範疇ではない大作といっていいだろう。

それだけに、日本でもアメリカでも劇場公開できなかったこの作品、もしかして大赤字を喫したのではあるまいか。製作会社はその後を無事に乗り切ったのだろうか。猛獣を乗せてしまったフライトの乗客たちよりも、そちらの行く末のほうがよほど心配でスリリングな気がする。

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